パティ・ボイド自伝・その2 ジョージがリンゴ嫁に…

前回の続き。

パティ・ボイド自伝 ワンダフル・トゥディ

パティ・ボイド自伝 ワンダフル・トゥディ

 

ジョージ、リンゴ嫁に手を出す、クラプトンとギター対決

 後になって思えば、ジョージの女遊びは、私を試すためだったような気がする。私を挑発すれば、彼を取り戻そうとして躍起になるのではないかと見込んでいたのではないだろうか。でも、当時は、自分が拒否されていると感じていた。
(略)
私は見捨てられることに恐怖を感じならが生きてきた。だから、ジョージとの関係がどん底の状態に陥り、結婚生活がもはや救いようがないと分かると、私は彼に捨てられる前に、私のほうから彼を捨ててしまおうと思ったのだ。
 きわめつけは、彼がリンゴ・スターの妻、モーリンと関係を持ったことだった。彼女に限って私を裏切るはずがないと信じていたのだが、裏切られた。(略)
ジョージはモーリンに美しいネックレスをプレゼントし、こともあろうか彼女はそれを私の前で身につけていた。その後、彼ら二人がフライアー・パークのベッド・ルームに鍵をかけて閉じこもっているのを発見した。
(略)
 モーリンは、気持ちを隠そうともしなかった。ある時など真夜中にフライアー・パークに現れたので、私は「いったいここに何しに来たの?」と言ってやった。
(略)
 翌朝、彼女がまだそこに居座っているので、私は言った、「子供たちのことを考えたことがあるの?どういうつもり?私は気に入らないわ」と迫った。すると彼女は言った。
「おあいにくさま」
 この時期に起きた何もかもが、常軌を逸していた。私たちの生活を支えるエネルギー源は、アルコールとコカインだった
(略)
 俳優のジョン・ハートがフライアー・パークに来ていたある晩、エリックも来る予定になっていた。ジョージはいよいよ彼と決着をつけることを決心したのだ。ジョンは、こっそりと逃げ出したそうにしていたが、ジョージが彼を出て行かせなかった。(略)
家に入って来たエリックに、ジョージはすぐさまギターとアンプを手渡した。まるで18世紀の時代の男が、ライバルに剣を手渡すように。そして2時間ものあいだ一言も口をきかずに、ギターでバトルを繰り広げたのだった。ピリピリした雰囲気の中、音楽はスリルに満ちていた。闘いが終わった時、言葉を発する者はいなかったが、勝者はエリックだと誰もが感じたのだった。彼はジョージのように怒りに身を任せることもなかったし、テクニックに走ったりもしなかった。しかし、酔っていても彼のギターの腕前は天下無敵だった。
(略)
ジョージはコカインをあまりにも長期間やりすぎて、それが彼を別人に変えてしまったのだと私は思っている。(略)
[マリファナは]フラワー・パワーの基本で、無垢なものだった。しかしコカインは違う。コカインがジョージの感情を凍らせて、心をかたくなにさせたのではないだろうか。
 ある日、リンゴに電話をして事情を話した。(略)
 「あなたの奥さんが、夜になってもどうして家に帰って来ないか考えたことがある?ここに来ているからよ!」。彼は、烈火のごとく怒り狂った。
 ジョージは何事もなかったように装い続けた。「彼女と寝てなんかいない」と。
 「うそ。そうとしか考えられないわ」。すると彼は、私が被害妄想に陥って、ゆっくりと頭がおかしくなっていくかのような気にさせる。
(略)
リンゴがジョージと私の関係がこじれているのに気づき[自分が出演していたハリー・ニルソン主演『サン・オブ・ドラキュラ』のスティール写真撮影を依頼して気を紛らわせてくれた]
(略)
[そしてついに]ジョージがみんなの前でリンゴに向かって、彼の妻を愛していると言い出した。リンゴは、ひどく取り乱して、「これは現実じゃない、現実なんかじゃないんだ」などと言っていた。私は逆上して、そこを飛び出し、髪を赤く染めたのだった。

エリックとのツアー

 私がジョージに抱いていたのは、大きくて深い愛情だった。エリックとのあいだには、熱に浮かされたような、どうしようもなく激しい情熱があった。それがあまりにも強烈で、緊迫していて、濃厚だったので、自分を見失いそうだった。でもジョージとの結婚に終止符を打つことを心に決めたからには、エリックと一緒にどこへでも行き、彼と同じ行動を取り、どこまでも彼についていかなければならないと思っていた。そして1974年の米国ツアーにおいて、それは酒びたりになることを意味していた。
 ジョージのツアーに同行することは一切許されていなかったため、私にとってツアーは未知の世界だった。夜ごとステージ脇に立つ私にとって、アンプのうなる音や、まばゆい照明、頭の中で炸裂して、身体中を振動させる音楽は、とてつもなく感動的で、ひどくセクシーだった。(略)
そこには、エリックを、私のエリックを観るためにやって来て、叫び声をあげて手を振り、陶然とする何千人もの人々がいた。毎回、彼が私のために書いた曲の最初のコードに反応する彼らを見るたび、私はくらくらして恍惚となった。
(略)
ジョージは安定した、愛情あふれる家庭に育ったため、精神的に不安定なところがなかった。自分の家族を愛していたし、私の家族にも優しくて寛大このうえなかった。一方、エリックの母親パットは[16歳で既婚のカナダ人空軍中佐と不倫してエリックを出産、別の男と結婚しドイツへ]
エリックを溺愛していた祖父母は体裁をとりつくろうためにも彼を自分たちの実の子供として育て、産みの親である母のことを姉だと信じこませた。
[9歳の時に姉が実の母であると知った]彼は、腹を立てた。多分その時の怒りを常に内面に抱えていて、それが女性との関係に影響を及ぼしていたように思える。彼は女性を信用しなかったし、女性とのプラトニックな友情を理解できなかった。セックスを伴わない関係など、意味がないと思っていたのだ。私の交友関係にも狭量だった。彼から私の注意をそらせる者なら誰にでも異常なまでに嫉妬した。私の家族も例外ではなかった。エリックはまた、父親を探し出すことに取り憑かれたようになった。[結局は、父は既に亡くなっていたが](略)その捜索は無駄ではなかった。なぜならエリックは自分の音楽的才能の源を発見したのだから。彼の父親はピアノとサキソフォンを奏でる人だった。
(略)
[77年にジョージがオリヴィアと]結婚した時は、傷ついた。なぜならジョージが知らせてくれなかったからだ。私はエリックに何も言わなかったが、彼は私が動揺していることを直感的にわかって、曲を書いてくれた。アルバム『バックレス』に収められている「ゴールデン・リング」という曲だ。

「ワンダフル・トゥナイト」

[着ていく服が決めらない]私を待つあいだギターを爪弾いていた。(略)彼が当時気に入っていたのはドン・ウィリアムスというカントリー・シンガーだった。彼の歌詞はとても美しく、シンプルだとエリックと話し合ったことがある。そしてどの曲にも日常の出来事が描かれていると。常々そういう曲を書きたいと思っていたエリックは、すでにメロディを少し作り始めていたが、その日、私がドレスをひらひらと着たり脱いだりしているのを見て、突然ひらめいたらしい。ようやく私が階段を下りて行き、お決まりの文句「どうかしら?」を言うと、彼は書き上げた曲を私に聴かせてくれた。


夜も更ける頃、彼女は何を着て行こうか迷っている
メイクアップを施して、長いブロンドの髪を梳かす
それから彼女は僕に訊くんだ、「どうかしら?」
僕は答える、「今夜はとっても素敵だよ」
(略)
「ワンダフル・トゥナイト」は、私たちのあいだがうまくいっていた時のことを痛烈に思い出させる曲だ。関係が悪くなった時、この曲を聴くのは拷問に等しかった。
 エリックに出会うまで、自分が誰かに対してあそこまで深い想いを抱くことなど考えられなかった。以前は強い感情や激しさを恐れ、そういう気持ちにならないよう、自分を抑えていた。ある意味で私は正しかったのだと思う。
(略)
ある時ジェニーから、エリックとの情熱的な関係がもっと穏やかな愛情だったらよかったかと尋ねられ、私は「ノー」と答えている。それはまるで流れ星に乗ってヒッチハイクをしているような気分だった。あの目がくらむような体験は途方もない痛みを伴ったが、私は幸せだった。あんなものは二度と味わえないに決まっている。あれほどの経験は人生で、そう何度もあるものではない。そんな情熱を私に与えてくれた彼と一緒にいたいと思うあまり、私は彼のひどい振る舞いを許してしまった。しかし、それは間違いだった。
(略)
気分が良い時の彼は、きわめて楽しい人物だった。面白くてワイルドで予測がつかなくて、いたずらばかりしていて、一緒にいて刺激的だった。フェラーリを次々と買って、すごいスピードで運転したり、競走馬に夢中になって、私にもクリスマスに一頭プレゼントしてくれたり、アルマーニのスーツも集めていた。人生はさながら、膨大な量のアルコールを燃料とした大きなパーティだった。
(略)
[遊びのスイッチがオフになると]自分の殼の奥深くに引きこもって、他人と話をしなくなり、ただ暗い空気を投げかけるのだ。そうすれば周りの人間は、彼が相手をしたくないのだと察知して、そっと立ち去ると思っていた。そこには私も含まれていた。
(略)
エリックは眠りながらでも片足で、もしくは両足のこともあったが、その時に聴いているらしい音楽に合わせてリズムを刻んでいるのを、私は時々目にしている。(略)
エリックはまるで子供のようだった。彼は自分の欲求を最優先し、他人に対する配慮はまったくなかった。
 風変わりな態度に、笑ってしまうこともあった。特に、テレビを観るためのムードを、いちいち盛り上げないと気が済まない様子はおかしかった。テスト・マッチが放送されていると白いクリケット・ウェアに着替えたし、『ゴッドファーザー』のような映画を観ようと思う時は、夕食にパスタをせがむのだった。
(略)
彼は少なくとも200枚はシャツを持っていて、その日に彼がほしいシャツを正確に私が見つけられないと激怒した。

ジョージとの別れを後悔

 エリックの誘惑に負けてジョージのもとを去ったが、私は彼のことをほとんど知らなかった。(略)
実際の彼は、そんな理想的でロマンティックなイメージ通りだったことは一度もなかった。彼を熱烈に愛していたものの、飲酒によって起こる気分のムラや抑鬱、破壊的な態度に対処していくうちに、ひょっとしてジョージと別れたのは間違いだったんじゃないだろうか、二人の関係がうまくいかなくなった時にもっと頑張って、結婚生活を維持する努力をすればよかったのかもしれない、と考え姶めた。結局のところ、ジョージを嫌いになったわけではないのだ。彼の方は私をもう愛していないだろうと思ったけれど、別れた時にあれほど動揺していたということは、それも間違いだったのかもしれない。
(略)
アップル時代からの友人、クリス・オデールと偶然再会(略)
[昔のことを話すうち]私は次第に惨めな気持ちになり、ジョージに会いたいと思うようになっていった。ある日、ひどく酔っていた私たちは彼に電話をかけてみることにした。私の声を聞いたジョージがとても嬉しそうだったので、自分が間違っていたのかもしれない、きっと間違っていたのだ、と言おうとしたが、エリックが部屋に入って来てしまったので、電話を切らざるを得なかった。
(略)
家に戻ると、エリックと双子のジェニーは親密そうにソファに座っている。私がリヴィング・ルームに入ると、ひどく気まずい空気が流れた。私は何も言わずにその場を立ち去った。1時間ほどして戻ってみると、二人ともまったく移動していなかった、私はジェニーに何か言いかけたけれど、エリックに遮られてしまった。「俺たちが今、すごく真剣で個人的な話をしているのがわからないのか?」、彼はひどく酔っていた。
「どうして?」、私は言った。
「この娘に恋してるからさ。出て行けよ。放っといてくれ。消えうせろ」
(略)
2階で座っていると涙が頬を流れてきて、どうしようもなく自分が情けなくなってきた。私は、こんなことのためにジョージを捨てたのだ。
(略)
[家を離れて数日後、電話すると]
「そりゃよかった」、エリックは言った。「俺たちマジでちょっと距離が必要なんだよ」。彼はまだ双子のジェニーがそこにいることを認めた。
(略)
[傷心でLAの友達宅に行くと、エリックから今すぐ結婚したいとの伝言。揺れる心で結婚]
 結婚式の数日後にロジャー・フォレスターから打ち明けられるまで、私は一連の出来事がどのようにして起こったのか知らなかった。(略)泥酔状態のまま延々とビリヤードに興じているあいだに、賭けをしようということになったのだそうだ。ロジャーは翌朝エリックの写真が新聞に載ることに賭け、エリックの方は載らない方に1万ポンド賭けた。そこでロジャーはすかさず電話のところまで走り[クラブトンがパティ・ボイドと結婚とタレコミ](略)翌朝彼らが目を覚ます頃には、その話が写真付きで『デイリー・メール』紙の随所を飾り、二人は完全にパニックに陥る羽目になった。どうしよう?今や何百万もの人々が結婚のことを知っている。知らないのは花嫁だけだ。こうして慌てて私に電話をかける運びとなり、必死の思いで即答を求めることになったのだった。

子供

前菜が目の前に置かれた時だ。話があるのだとエリックが切り出した。私は凍りついた。こういう時には勘が働くもので、直感的によくない話だと悟ったのだ。
 ロリ・デル・サントという女性と、イタリアで出会ったのだと彼は言った。寝たこともあると。私をまだ愛しているが、彼女のことも愛しているのだそうだ。(略)
体だけの関係なら、浮気をされても私は平気だ。例えば相手がコンチータのような女性なら気にしない。エリックの心を奪われる心配などないからだ。(略)セックスは私たちの結婚にとって脅威ではなかった。しかし、そこに感情が伴えば別だ。
[クリスマス前、ロリから妊娠したという電話]
「始末できないの?」、私は思わず聞いた。
 「無理だ。彼女はカソリックだから。それに、そうしたくないらしい」(略)
思考は停止していた。ショック状態だ。(略)だって私は21年間も赤ちゃんを望んで努力してきたのに、この女は夫と一度か二度寝ただけで彼の子供を授かっていた。心が崩壊するかと感じた瞬間だ。
(略)
 エリックはとにかく、ロリに夢中だった。彼女がどんなに美人なのかを語り、しかもすばらしい写真を撮るというので余計にグサリときた。そのうえ、子供が産まれるとは。しかもエリックは奇妙なことに、それを私が喜ぶと本気で思っていたようだ。出会った時には、エリックが何者なのか知らなかったと彼女は言っていたらしい。そこに彼は感激したのだそうだ。そんな使い古された手にまんまと引っかかっていた。
(略)
 赤ん坊は1986年8月に生まれた。私はその時、ジェネシスのベーシスト、マイク・ラザフォード夫婦とともに南仏にいた。奥さんの(略)アンジーも、クリス・オデールも妊娠中だった。私以外はみんな妊娠しているような感じがした。もちろんおめでたいし嬉しかったが、同時に辛くもあった。すでに42歳になっていた私の結婚は危機に瀕していたわけだ。
(略)
 ある晩、庭の塀の上に座ってくつろいでいたら、電話が鳴った。エリックからで、息子コナーの父となった慶びを、ご丁寧に報告してきたのだった。彼はすっかり舞い上がっていた。
(略)
 こういう時に、アンジーとマイクの存在は本当にありがたかった。そのうちビル・ワイマンが、かくまってほしいと言ってやって来た。歩いてすぐのところにある彼の別荘が、パパラッチに包囲されてしまったのだという。恋人マンディ・スミスが来成年なので、問題になっていたのだ。何しろ交際を始めたのが彼が47歳、彼女が14歳の時だった。結局マスコミがビルの空っぽの別荘の外で寝ずの番をしているあいだ、10日間ほど一緒に過ごしてくれた。
(略)
エリックの考えでは、このまま私と夫婦として仲むつまじく暮らし、たまに赤ん坊も泊まらせれば万事OKという流れになっていた。(略)
ロリのことは愛してはいないのだそうだ。したがって彼女とは絶対に寝ないし、コナーに会いにいくだけなのだと約束した。
(略)
ちょうど二度目の体外受精に挑戦しようとしていた時でもあったし、彼の提案に応じることにした。
(略)
 4日するとエリックが帰ってきた。コナーはこんなことができる、あんなこともしたと、あの独特の奇妙な明るさではしゃいでいる。つらくてつらくて、とても向き合ってなどいられなかった私は、常に忙しくして、別のことを考えるようにした。

酔って暴言吐いて追い出しておきながらこの手紙

[離婚を決意して家を出ると]
エリックは早速、手紙や電話を山ほどよこすようになった。たまに攻撃的なものもあったが、たいていは謝罪を込めた詩的な美文調だった。
(略)
かわいい蝶よ――君の姿が目に浮かぶ(しかも、しっかり両目に)。青く豊かな茂みから茂みへと軽やかに飛びながら、より小さな虫たちに、真の純粋さと美しさが何なのか、少し見せつけてやっている。彼らがどんなに喜んでいることか。その飢えた魂に、君は光をふりそそぐ。
だけど、君だって光が必要だ。でないと、羽がもろくも乾き、空を舞う日々は終わりを告げてしまうよ。ゆっくり休んで、おひさまの下で羽を伸ばしてごらん。誰かに(癒す役なら、できれば僕に)照らしてもらってはどうかな。そうすれば心は再び若々しく弾み、羽は強くしなやかになるさ。そして飛ぶんだ。このくだらない世界の遥か上のどこかで、僕と落ち合って、またともに暮らそう。ニ人はそういう運命だから。――マジュヌーン、エル、スローハンド、リック、僕のすべてより!キスを込めて

後悔

 地下鉄だけではない。お店に入れば、エリックの曲が流れていて、また涙が出てきてしまう。ホラーだ。彼から逃れられない。いつまでも付きまとってくる。どこを見ても彼がいる。自分が正気を失ってバラバラになっていくようだった。
(略)
 私の神経は完全に参っていて、悲嘆に暮れる一方だった。エリックとの結婚に失敗したからだけではない。これほどの年月を経て今さらながらに、私はジョージとの離婚を思い返していた。あの時はジョージからエリックに息つく間もなく移ってしまったが、それが正しかったのかとずっと心のどこかで自分に問い続けてきていた。ジョージとの仲がギクシャクして、彼が私に見向きもしなくなった時に、楽な道を選んで、エリックの誘いに乗ってしまったのだ。もっとジョージとの結婚生活を頑張って貫くべきだったのに。
(略)
[70年代の終わりに偶然]ジョージに会えたのは、とても嬉しかった。あの時、得体の知れない不思議な空気を感じて、私たちのあいだは何も変わっていなかったのだと気づくことができた。まだ愛し合っているのだと。そんな気持ちが残っていたと知って、心がほんわかと温まったのを憶えている。エリックと私は遊び仲間だったのだ。それに比べてジョージとは魂がつながっていた。そんな特別な存在を、私はよく考えもせずに手放してしまっていた。

エリックとジョージ

 エリックと私は、離婚後も数回会っていた。プレッシャーをかけてくることはもうなかったが、詩的な手紙は相変わらず、たまに届いた。私に連絡を取ろうとして取れなかった時、エリックは、希望だけが彼を生かし続けていると言い、「でも君が世界のどこかにいて、ほほえんでいると分かっているだけで十分な時もある」と書いてきた。彼が私の“もう一人の元ダンナ”と呼ぶジョージと一緒にアルバムを制作していたニューヨークから届いたある手紙には、私を歌った曲をまた作ったとあった。「このアルバムで一番の曲になると思う」と彼は書いていた。「“オールド・ラヴ”というタイトルだ。怒らないで。『愛する君が歳を取った』という意味ではなく、古びていく愛について書いたものだから、すばらしい曲だよ。まあ、聴けばわかるだろう」

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