パティ・ボイド自伝 クラプトンのヤバイ恋文

パティの生い立ちあたりは適当に読み飛ばして、いよいよジョージ登場となっても、それほど面白い話は出て来ない。若干読み進める気力をなくしかけたところに、クラプトンがキモめの恋文を送ってきて急展開。一番ビックリしたのが薬で廃人になったキッカケがパティに振られたせいだったこと。

パティ・ボイド自伝 ワンダフル・トゥディ

パティ・ボイド自伝 ワンダフル・トゥディ

 

ジョージとの出会い

 [『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』]撮影用の列車は、コーンウォールまで行って帰ってきている。だが、せっかくの風景はあまり記憶にない。ずっと演技を見学したり、休憩時間におしゃべりしながら出番を待っていたからだ。ビートルズのメンバーが揃うと本当に楽しかった。みんな気は利くし、現場を明るくしてくれたものだ。ただ、リヴァプール訛りがキツすぎて、言っていることは半分も分からなかった。あれはカルチャー・ショックだった。(略)
 第一印象としては、一番生意気なのがジョン、一番愛嬌あるのがリンゴ、ポールはキュート、そして、茶色い瞳に栗色の髪のジョージは見たことがないくらいにハンサムだった。昼休み、気がつくと私は彼の隣に座っていた。意図したのか偶然だったのかは、いまだによく分からない。二人ともシャイで、ほとんど何もしゃべらなかったが、彼のそばにいるだけでビビッと来た。
(略)
[撮影が終わりに近づいたところで]
ジョージが、まるで胸のうちを見抜いたかのように「結婚してくれる?」と言っている。ビートルズ・メンバーの冗談に慣れっこになっていた私は、思わず笑った。(略)すると今度は、こう言ったのだ。「じゃあ、結婚してくれないなら、今夜、ディナーでもどう?」と。
 これには驚いた。本気なのだろうか、それともからかっているのか。どう答えていいか分からず、とりあえず、彼氏がいるから無理だと断った上で、その彼氏もジョージに会いたいだろうから、みんなで行くのはどうかと言ってみた。でも、それはジョージが嫌だったようで、私たちは駅で別れを告げて、お互い、バラバラに帰途に着いた。
 後悔しきりでマリー・ビーに事の次第を話すと、案の定、どうかしていると言われた。しかも、「エリックを好きでもないくせに!」とダメ押しされている。
(略)
[10日後の撮影後半]
プレス向けの写真会があり、女子高生役が一人ずつビートルズ・メンバーの後ろに立って、髪を整えてあげるポーズをすることになった。私はすかさずジョージに付いている。ジョージも嬉しそうに、彼氏は元気かと聞いてきた。そして、振ったと言ったら、にやりと笑ってディナーに誘ってくれた。

ヘイト=アシュベリー

 ヘイト=アシュベリーはもっとビューティフルな人々に溢れた、スペシャルで、クリエイティヴで、アーティスティックな場所なのだと思っていた。ところがその実は最悪で、顔色の悪い落ちこぼれや、ホームレスや、おかしな若者たちが、ぶっ飛びっぱなしで日がな一日過ごしていた。みんなラリっていたのだ。母親たちや赤ちゃんまでがである。
(略)
彼らの目は期待に満ちていた。ジョージを救世主か何かだと思っている。
(略)
 とにかく私たちは立ち上がると、リムジンの方へと歩いていった。その瞬間だ。「ねえ、ジョージ、STPやらない?」という小さな声がした。
 ジョージは振り向いて「遠慮しとくよ」と断った。
 すると、そいつが群集に向かって「ジョージ・ハリスンに拒まれちゃったぜ」と言ったのだ。
「そんなあ!」と彼らは一斉に叫んだ。
 妙な敵意がにわかに湧き起こった。それを感じたのだ。あれだけハイになっていると、空気を敏感に察知できてしまう。私たちは徐々に歩調を速めたが、彼らもひたすら付いてきた。
 やっとリムジンが見えたので、私たちは一気に走って道を渡って車に飛び乗った。しかし群衆も走って追いかけてきて、車を揺らし始め、窓を埋め尽くすようにぺったりと顔を付け、中を覗き込んでいた。
 この一件はジョージにとっての転換期になっている。それまで私たちは、ドラッグは面白いものであり、意識を広げてくれる便利な道具だと考えていた。だが、ヘイト=アシュベリーで一気に目が覚めたのだ。あそこにいた人たちは社会から脱落し、路上で寝起きして、ありとあらゆるドラッグをやっていた。LSDの何倍も強いようなものも含めてだ。(略)
単なるアル中と同じ。どこにでもいる依存症患者だ。それを知ったジョージは、ドラッグ・カルチャーそのものに嫌気が差した。それでLSDをやめて瞑想に転じたわけだ。
 そういう意味では、マハリシの教えが絶妙なタイミングで私たちの人生に飛び込んできたと言っていい。少なくともジョージの人生にはだ。しかもドラッグの代わりを提供してくれただけではない。ジョージはもともと、自分の知名度に疑問を持っていた。

不機嫌なジョージ

 ジョージが不機嫌だったのは、こうしたビートルズの状況を反映していたのかもしれない。とにかくブライアン・エプスタインが亡くなって以来、メンバーたちは父を失った孤児同然だった。抑えていた緊張感や憤りが、徐々に露出してきていたのだろう。それに、もともとジョージは疎外された気分でいた。曲を書くのはレノン=マッカートニーと相場が決まっていて、自分の曲をアルバムに入れてもらうのは至難の業だったからだ。(略)
例えばジョージがポールについて何か言いかけても、すぐにやめてしまっていたからだ。どうも私に気持ちを打ち明けるのは、苦手だったようだ。言えなかったのか、言う気がなかったのかは分からない。疎外感だって絶対に味わっていたはずなのだが、それについて話してはくれなかった。心の傷であれ、苛立ちであれ、怒りであれ、彼は人に語ろうとはしなかったのだ。前はあんなに強い絆で結びついていて、何でも正直に話し合えたのに。そんな彼が遠い存在になっていく。手が届かないと感じる時もあった。

クラプトン登場

出会ったのは、ブライアン・エプスタイン主催のパーティでのことだった。それはクリームのコンサートの打ち上げで(略)当時シャーロットというモデルと付き合っていたが、私に気があるのは分かっていた。そんな彼のそぶりを感じて、まんざらでもなかった。ふと彼の方を向くと、じっと私を見つめていたり、わざわざ私の横に座ったり、私が着ている服や作った料理を褒めてくれたり、私を一生懸命に笑わせてくれたり、私と熱心におしゃべりしたりしてくれる。やはりそうされると悪い気はしない。少なくとも、ジョージはそういうことをしなくなっていた。

ラブレター

封筒の上下には「速達」「至急」と書かれている。中には小さな紙が入っていて、小文字のみの、ちまちまとしたきれいな筆跡でこう綴られていた。「多分、君も聞き及んでいることだろうが、僕の私生活は展開の早い茶番劇のようだ。どんどん堕落していく……君と最後に会ったり、話をしたりしてから、気が遠くなるほど時間が経ったように感じる」
 それは、『最愛のl(小文字のエル)』で始まっていて、私の気持ちを確かめさせてほしいと書かれていた。私がまだ夫を愛しているのか?それとも誰か他に恋人がいるのか?でも、何よりも大事なのは、私の心の中にはまだ彼がいるのか?ということだった。彼はどうしても知りたいと記し、安全な方法の手紙で連絡をくれるように迫っていた。「返事がほしい。その手紙になんて書いてあろうとも、僕の心に安らぎをもたらしてくれるだろう……愛をこめて、eより」
 私は手紙にさっと目を通し、てっきりどこかの頭のおかしな奴から来たものだと思った。ジョージのファンからの嫌がらせとは別に時折、私宛のファンレターが来ることがあったからだ。手紙をキッチンにいたジョージや他の人たちに見せながら私は「ちょっと、この人、変態じゃない?」と言って、みんなと大笑いしている。そしてそのまま、すっかり忘れていた。あの電話が鳴るまでは。
 電話はエリックからだった。「僕の手紙受け取ってくれたかい?」
 「手紙ですって?多分、受け取ってないと思うけど。どの手紙のことかしら?」と言った時、謎が解けた。「あれってあなたからだったの?あなたが私のことをあんな風に思ってくれていたなんて、全然知らなかったわ」。それは今までもらったどんな手紙より情熱的で、二人の関係をそれまでとは違う局面に向かわせるものとなった。とてもスリリングで危険な恋の戯れに駆り立てたのだ。とはいうものの、私にとってはまだ、単なる戯れに過ぎなかった。

「いとしのレイラ」

 1970年の春から夏にかけて、エリックと私は折にふれ、二人きりで会った。彼と一緒に『ケス』という映画を観に行った日のこと。映画を観たあとに、オックスフォード・ストリートを歩いていたらエリックがこう訊ねた。「僕のこと、好きかい?それとも僕が有名人だから会ってくれてるの?」と。
 私は「あら、あなたが私に会うのは私が有名人だからだと思っていたわ」と答え、二人で笑った。彼は自分の気持ちをうまく伝えるのが苦手だった。その代わりに音楽や詞に自分の感情を注ぎ込むのだ。
(略)
[ある時は]彼はマイアミから帰国したばかりで、私のためにベルボトムのパンツを買ってきてくれていた。「ベルボトム・ブルース」という曲のアイディアになったパンツだ。彼は日に焼けていて、ハンサムで、ものすごく魅力的だった。しかし私はその魅力に負けまいと抵抗した。
(略)
 それは、またしても、ロンドンで逢い引きを楽しんでいる時だった。エリックは、作った曲を聴いてもらいたいと言って私を家に連れ帰った。(略)
 それが「いとしのレイラ」だった。自分を愛しているが、決して手には入らない女性をどうしようもなく愛する男を歌ったものである。エリックは、私たちの共通の友人でもあるイアン・ダラスからもらった本に書かれていたその物語[『レイラとマジュヌーンの物語』]を読み(略)マジュヌーンに自分を重ね合わせ、自分の心情を私に理解させようと躍起になっていた。(略)
 彼は、その曲を2〜3回聴かせ、その都度、反応を確かめるために私の顔をじっと見つめていた。私の頭に最初に浮かんだことは、「ああなんてこと!これじゃ誰のことを歌っているのかバレバレじゃない」、だった。望んでいるかどうか自分でもわからない方向に、彼が私を追い込もうとしているような気がして不安だったのだ。だが、自分の存在がこのような情熱と創造力を導き出したのだという実感とともに、その曲は私の理性を打ち負かしたのだった。私はもう抗うことができなかった。

衝撃の告白

 夜もかなりふけた頃、ジョージが現れた。彼はただでさえ不機嫌なのに、始まって何時間も経ったパーティは酔っぱらいだらけで、うんざりしていたらしい。そんな連中と話す気もなく、彼はひたすら私を捜していた。でも、「パティはどこだ?」と訊ねても誰も知らないようだった。そしてまさに帰りかけた時、エリックと一緒に庭にいる私を見つけたのだ。空が明るくなりだしていて、濃い霧が立ち込めていた。ジョージは私たちのところにやって来ると、「一体どうなってるんだ?」と言った。
 恐ろしいことに、エリックはこう切り出したのだ。「実は白状するけど、お前の奥さんを愛してしまったんだ」
 私は死んでしまいたかった。
ジョージは怒り狂った。彼は私のほうを向き、言った。「それで、君は彼と一緒に行くのか、それとも僕と一緒に来るのか、どっちだ?」
「あなたと帰るわ、ジョージ」
(略)
 次にエリックに会ったのは、彼が突然フライアー・パークに姿を現した時だった。(略)ジョージは留守で私は一人だった。エリックを招き入れ、私たちはワインを一杯飲んだ。すると彼は駆け落ちをしようと言い出した。死ぬほど私を愛していて、私なしでは生きられないそうだ。私は今すぐにジョージを捨てて、彼と一緒になるしかないのだという。
 「エリック、あなた気でもふれたの?」と私は言った。「そんなことできるわけがないじゃない。私、ジョージと結婚しているのよ」
 すると彼はこう言った。「ダメ、ダメ。君を愛しているんだ。僕の人生には君が必要なんだ」
 「そんな」と私。
 その瞬間、彼はポケットから小さな包みを取り出し、私に向かって差し出した。「もし、一緒に来てくれないなら、これをやるまでだ」
 「それは何?」
 「ヘロインだよ」
 「バカもいい加減にして」。私はその包みを取り上げようとしたが、彼は包みをこぶしの中に握りしめてポケットに隠してしまった。
「一緒に来てくれるつもりがないなら」、彼は続けた。「終わりだ。僕は君の前から姿を消す」。そして彼は出て行った。私はその後3年ものあいだ、ほとんど彼を見かけることすらなくなる。
 私に迫ったとおり、エリックはヘロインに手を出し、あっという間に中毒になったのだった。そしてアリス・オームズビー=ゴアを道連れにした。(略)
彼のお抱え密売人が言うには、エリックはコカインを補充してもらうたびに、ヘロインも一緒に買っており(略)恐らく山ほどヘロインを蓄えていた。彼は今やそれを使おうとしていたのだ。アリスとともにハートウッド・エッジに引きこもり、跳ね橋を上げ、家から一歩も外に出せず、友人たちにも会おうとせず、ドアのノックにも電話にも応えず、二人は世捨て人も同然となったのである。
 この頃、ポーラはすでにエリックのもとを去っていた。妹とエリックはマイアミでアルバム『いとしのレイラ』をレコーディングしているあいだ一緒にいたのだが(略)ポーラはその曲を聴いた瞬間、それが私のことだと気づいた。もともと妹は、手に入れることが絶対に不可能な私の代用品として、エリックが自分と付き合っているという疑念を常に抱いていた。(略)ポーラは荷物をまとめ、傷ついた心を抱えて家へ帰った。エリックを本気で愛していたのに(略)自尊心と自信を彼にズタズタにされてしまったのだ。おまけにボイド家でずっと親代わりを務めてきた頼りの長姉は、最大の敵と化してしまっていた。

バングラデシュ難民救済コンサート

 コンサート当日、彼とはほとんど言葉を交わせなかった。彼は人に囲まれていたし、そうこうするいちにステージに上がってしまった。おまけにひどくラリっていたのだ。私がその場にいたことに気づいたかどうかもわからなかった。彼がこんな状態にまで自分自身を追い込んだのは私のせいなのだ、と考えるとショックだった。ただ、最初は罪の意識を感じたが、次に私の気持ちは逆の方向に激しく揺れ動いて、そもそも夫と彼のどちらかを選べと迫った彼の方がおかしいのだ、と腹立たしくなった。
 コンサートが終わると、エリックとアリスはハートウッド・エッジの自ら課した牢獄の恐怖に戻り、以前と同じ生活を続けた。そして再び、友人だちと世間に門戸を閉ざし、電話が鳴っても受話器を取ることはなかった。
 そしてついに、アリスの父親とザ・フーピート・タウンゼントがエリックと話をすることに成功し、治療を受けるよう説き伏せた。
(略)
[復活のレインボウ・]コンサート最初の曲「いとしのレイラ」のオープニングの物悲しいイントロに続いて、その歌詞を聴いた瞬間、思わず身震いしてしまった。この3年間、ボロボロの状態だったにもかかわらず、彼はギターで人々を感動させる方法を忘れてはいなかったのだ。私の人生から彼が姿を消した時に感じた彼に対する思いが、心の奥底からこみ上げた。
(略)
彼が治療を受けると同意するまでには、さらに1年かかった。

次回に続く。なんとジョージもリンゴの嫁に!……。

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