ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ビジネスリーダー1万人が選ぶベストビジネス書トップポイント大賞第2位!  ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ビジネスリーダー1万人が選ぶベストビジネス書トップポイント大賞第2位! ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

  • 作者: クレイトン M クリステンセン,タディホール,カレンディロン,デイビッド S ダンカン,依田光江
  • 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
  • 発売日: 2017/08/01
  • メディア: 単行本
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どうすればミルクシェイクがもっと売れるか

[値段?量?固さ?濃さ?と顧客回答をフィードバックしてみたが売れ行きに変化はない。そこで観点を転換、どんなジョブ(用事、仕事)で客が買っているか調査]
 観察してわかったのは、午前9時まえにひとりでやってきた客に売れるミルクシェイクが驚くほど多かったことだ。購入客のはとんどがミルクシェイクだけを買い、店内では飲まず、車で走り去っていた。(略)
[客を呼び止め、どういう目的(ジョブ)で買ったか訊ねると]
早朝の顧客は誰もが同じジョブを抱えていたということだった――「仕事先まで、長く退屈な運転をしなければならない」。だから、通勤時間に気を紛らわせるものがほしい。しかも、いまはまだ腹はすいていないが、あと1、2時間もすれば、そうなることがわかっている。(略)
ある客は言った。「ときにはバナナを食べますよ。だけどバナナじゃだめなんだなあ。すぐに食べ終えてしまうから。で、結局、また腹が減ることになる」。ドーナツはくずが落ちるし、手が油でべとべとして、運転中に服やハンドルをよごしてしまう。ベーグルはぱさぱさしていて味がないし、チーズやジャムを塗ろうと思ったら膝で運転しなければならなくなる。また別の客はこう言った。「スニッカーズにしたこともあったんだけど、朝食に甘いお菓子なんてなんだかうしろめたくて……一度でやめたわ」。でもミルクシェイクなら?ミルクシェイクはたくさんのライバルを蹴落としトップに輝いた。どろりとしたミルクシェイクを細いストローで飲み終わるまでには長い時間がかかる。朝食と昼食のあいだにふいに感じる空腹をかわすのに充分な量がある。通勤途中のある客は、「そう、ミルクシェイクだ。濃いからさ!ストローだと20分ぐらいかかる。中身がどうとか、知ったことじゃない――おれはね。昼飯まで腹がもてばいいんだ。車のカップホルダーにもぴったりだし」
(略)
彼らに共通するのはただ(略)「朝の通勤のあいだ、ぼくの目を覚まさせていてくれて、時間をつぶさせてほしい」
 答えを見つけた!
(略)
[だが他の時間帯の客にはまた別のジョブがあった]
[小さい子どもをもつ]親はわが子に対して、一日じゅう、何度も何度も「ノー」を言いつづけている。(略)[だから]自分を寛大で愛情あふれる父親と思えるような、「イエス」と言える機会を[求めている]。ある日の夕方、私は息子といっしょに列に並んでいる。順番が来ると息子は私を見上げて――小さい男の子にしかできない仕種でこう言う。「パパ、ミルクシェイクもいい?」。その瞬間がやってきた。ここは自宅ではない。食事まえにスナック菓子を食べさせないと約束している妻はいない。息子に「イエス」と言っていい、特別な場所だ。(略)
その瞬間のミルクシェイクにとっては、朝とはちがい、バナナもスニッカーズもドーナツも競合相手ではない。ミルクシェイクのライバルは、玩具店に立ち寄ること、あるいはあとで時間をつくってキャッチボールをすることだ。
(略)
 朝のジョブには、退屈な通勤時間をなるべく長く埋められるように、より濃厚なミルクシェイクが好まれる。フルーツを加えるのもひとつの方法だが、それは健康にいいという理由からではない。ヘルシーさはミルクシェイクが雇用される理由ではない。フルーツや小さなチョコレートを足せば、ストローで吸うたびにちょっとした驚きがあり、通勤時間を退屈させないことに役立つからだ。
(略)
[だが]私という人間は同じでも、夕方には状況がまったく変わる。夕方の“子どもにいい顔をしてやさしい父親の気分を味わう”ジョブは朝とはまるでちがう。夕方のミルクシェイクは、半分のサイズでいいのではないか。さっと飲み終えて、父親のうしろめたい気持ちが短時間ですむように。

埋もれているジョブ

 数十年のあいだ、高校の卒業生を勧誘するSNHU(サザンニューハンプシャー大学)の手法ははとんど変わっていなかった。(略)勉学の内容、学資面の補助、将来の就職の見通しなどについて売り文句を並べたてていた。(略)
キャンパスを見てまわる入学志望者から、教科についての質問はほとんど出ない。彼らの親はその種の質問をするかもしれないが、学生自身の関心[は楽しいキャンパスライフが送れるかにあった]
(略)
つまり彼らは大人としての体験をするためにSNHUを雇用するのだ。だが、そのような体験を期待している入学志望者約3千名をめぐっては、競争相手がひしめき合っている。近隣には[有名校がいくつかある]
(略)
SNHUには通信課程というオンラインの学習プログラム[があったが、重視されていなかった。しかしジョブ理論のレンズを通してみて、大学側は気づいた]
通信課程の学生の平均年齢は30歳、仕事と家庭を両立させようとやりくりしていて、さらに勉学の時間をねじこもうとしている。多くが過去に大学の単位をいくつか取得していたが、さまざまな理由によって、勉学を継続できずにいた。学費のためにそのころ背負ったローンを完済していないこともよくあった。だが、いまこそ学校に戻るときだと人生が告げている。(略)彼らが高等教育に求めるものは、利便性、サポート体制、資格取得、短期終了の4つだった。ルブランのチームは、そこに途方もないチャンスが眠っていることに気づいた。
 SNHUのオンラインプログラムの競争相手は、同じような教育内容をもつ地元の大学ではなかった。全米規模で展開している他のオンラインプログラムだった。(略)
だが競争相手はそれだけではない。もっと重要で手強い競争相手は、「無」すなわち無消費だった――人生のその段階で、さらなる教育を受けないことを選択している人々。これに気づいたとき、有限のパイを奪い合うように見えていた市場が、突如として手つかずの広野に変わった。相手は「無」、競争したくない者がいるだろうか?
(略)
[奨学金の問い合わせに、24時間以内に定型メールを送信していたのを、10分以内に担当者が電話することに]
「電話をすることで、相手の心配事を表に引き出せる。(略)訓練を積んだカウンセラーが必要な情報をすべて手元にそろえたうえでおこなう。通話は1時間になることも、それ以上に及ぶこともある。通話を終えたときには、私たちとの結びつきができている。それまでより入学したい気持ちが高まっていることがわかる」
(略)
キャリアを推し進めるために必要な訓練が受けられるといった機能面だけでなく、ゴールが実現したときに感じる誇りや、愛する者への約束の成就など、感情的および社会的側面も重視する。ある広告では、SNHUの大型バスが全国をまわって、式に参列できなかった卒業生たちに、昔ながらの額入りの卒業証書を手渡す様子を伝えている。自身の家や家族をバックに感きわまる卒業生が映し出され、「この証書は誰のために?」とナレーションが尋ねる。ある女性は証書を抱きしめながら「自分のためです」と言う。(略)「おまえのためだよ、おちびくん」と涙をこらえながら言う父親に、幼い息子が嬉しそうに言う。「おめでとう、パパ!」

家を売る

[デトロイトの中堅建築会社、高級感を重視し細かいカスタマイズにも対応したが売り上げにつながらない]
 やがて、購入者との会話のなかから意外な手がかりが見つかった。ダイニングテーブルだ。(略)
[見学客は]いままで使っていたダイニングテーブルをどうすればいいのか処置に困っていた。「彼らは口々に言うんだ。“いまあるダイニングテーブルをなんとかできれば、いつでも引っ越せるんだが”って」。モエスタらは、ダイニングテーブルがなぜそれほど重要なのかよく理解できなかった。彼らが話題にするダイニングテーブルはだいたい使い古しか流行遅れの品物なので、慈善団体に寄付するか、粗大ゴミとして処分すればすむ話なのに、と感じたのだ。
 ところがその後、クリスマス休暇で家族といっしょにダイニングテーブルについているとき、モエスタは不意に理解した。家族の誕生日はいつもこのテーブルで祝ってきた。毎年のクリスマスも。子どもたちは宿題をここで広げ、テーブルの下に秘密基地をつくった。へこみや引っかき傷にも、ひとつひとつ物語があった。テーブルは家族そのものだった。家族でつくり上げてきた人生そのものだったのだ。「そのときが、“ああそうか!”の瞬間だった」
(略)
 見込み客が転居を決断できないのは、建設会社が魅力的な提案をできていなかったからではなく、人生にとって深い意味をもつ何かを手放すことに不安を感じるからだった。ある女性客はインタビューで、引っ越しの準備のために自宅のクローゼットをたった1箇所片づけるだけでも、何日もの時間と涙を拭くティッシュが何箱もいるのだと語った。新しい家に納まるかどうかを考えてもっていくものを決めなければならないのは感情的につらい作業だった。古い写真。子どもが幼いときに描いた絵。スクラップブック。「彼女は人生を振り返っていた」とモエスタは言う。「選ぶたびに、思い出を捨てているような気持ちになっていたのだと思う」
 この感情的側面に気づいたことで、モエスタとチームは潜在的な住宅購入者の抱える葛藤を理解できるようになった。「新しい家を建てて売るビジネスだと思っていたが」とモエスタは振り返る。「実際には顧客の人生を移動させるビジネスなのだとわかった」
(略)
[そこで]ゲストルームを20%狭めて、かわりにダイニングテーブルを置けるスペースを確保した。転居そのものに伴う不安の軽減も重視し、引っ越しサービスや2年間の家具保管サービスに加え、新居に何を置き、何を処分するかを引っ越し後にゆっくり選別できる仕分け室も用意した。
(略)
 すべては購入客に「あなたのことをわかってますよ」と伝えるためにおこなわれた。

紙おむつ

 プロクター&ギャンブル社(P&G)[の中国市場進出は](略)当初は簡単だと思われていた。P&Gにはおむつ製造の技術と、欧米社会で長年培ってきた販売促進のテクニックがある。そして中国には、紙おむつを使う習慣のない乳幼児が何千万人もいるのだ。売れないわけがない。(略)
開発努力のほとんどすべてが“排泄物を閉じこめる機能をもった器”を10セントのコストでつくることに注がれたという。欧米のおむつより品質は低くても、値段が安ければ中国の親たちは買うだろうと想定してのことだった。
 だがこの目論見は外れた。安売りおむつは飛ぶようには売れなかった。(略)
肌ざわりが悪すぎたか?薄っぺらすぎる?値段が高い?答えはなかなか見つからなかった。(略)
定型的な質問をしていたとき、ある女性の答えを聞いてみなが笑った。彼女はなんと言った?なぜみんな笑ってる?通訳を見ると、通訳も笑っていた。この女性は、1週間でいちばんよかったのは、夫との睦まじい行為が戻ったこと――しかも週に3回も――だとうれしそうに言ったのだった。
 おむつとなんの関係があるのか?夜、赤ん坊が目を覚まさなかったから、彼女もずっと眠ることができた。眠れると、身体も心もゆっくりできる。だから……とつながるのだった。そこで、進行係が彼女の夫はおむつについてどう思っているのかと尋ねた。「これまで使ったなかで最高の10セントだって……」。さらに大きな笑い声があがった。
 その瞬間、グーレイトは自分のアプローチが狭すぎたことに気づいた。おむつの機能面にばかりとらわれていたことに。おむつによって解決される片づけるべきジョブは、もっと複雑で人間味があった。
(略)
 そこでP&Gは、生活のなかで紙おむつがジョブをどんなふうにうまく解決するかを潜在顧客に理解してもらうことにした。首都医科大学附属北京児童医院睡眠研究センターと協力した2年間のプロジェクトを経て、P&Gはパンパースをつけた乳児は寝つきが30%早くなり、毎晩の睡眠時間が30分間長くなったと報告した。さらに、よく眠れることと認知能力の発違とのあいだには関連性のあることを示した。学力をきわめて重んじる精神風土ではこれは大きなポイントとなった。P&Gがのちに中国でおむつを再展開したときの広告は、感情的および社会的な便益を直接訴見かけるものだった――「夜よく眠る子は頭がよくなります」
 2013年には、パンパースは中国で最も売れる紙おむつのブランドとなった。

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