ビートルズ全曲歌詞集・その2

前回の続き。

完全版 ビートルズ全曲歌詞集

完全版 ビートルズ全曲歌詞集

Being for the Benefit of Mr. Kite!

[当初ジョンはアルバムのために機械的に書いた駄作と語っていたが、80年の『プレイボーイ』誌のインタビューでは]
「果てしなく美しいね……あの曲は澄みきっているよ。まるで水彩画のように」

Baby, You're A Rich Man

 ポールのパート「リッチ・マン」はマネージャーのブライアン・エプスタインを指すと言われている。デモ盤でジョンは「おい、ユダヤ人、大金持ちのオカマ野郎」と罵っている。「あのとき考えていたのは」とジョンはのちにこう語った。「愚痴を言うなってことだ。お前も俺たちも、みんな金持ちなんだから」

I Am the Walrus

自分が昔通った学校の授業でビートルズの歌が教材になっていると知って驚いたジョンは、ちぐはぐで支離滅裂な歌詞を書いて生徒たちを困らせてやろうと考えた。(略)
「黄色い膿みたいなカスタードと緑のパイ、それに死んだ犬の目玉を入れて、3メートルのサンドイッチを作れ。それを冷たいゲロで流し込むんだ」
(略)
ジョンは13年後に『プレイボーイ』の取材で、ボブ・ディランが自由にやっているのを見て「こんなくだらない詞なら自分にも書ける」と思ったと答えている。
(略)
「卵男」はアニマルズのヴォーカリスト、エリック・バートンのことだと思われる。彼にはモノにした女性とセックスするときに相手の体で卵を割るという変わった性癖があり、ミュージシャン仲間から「卵男」と呼ばれていた。

Hey Jude

[当初5歳のジュリアンのために作られたが]
最終的にモデルを特定できる歌詞はなくなった。ジョンはこの曲は自分に向けられたもので、バンド活動を休んでヨーコと新しい未来を築くようにというメッセージだと信じていた(「彼女を手に入れるために生まれてきた」)。ポール自身は、もし誰かに向けた曲だとすれば、それは自分自身だと感じていた。ビートルズの古い絆が壊れつつあるなか、いずれけじめをつけるときが来るとわかっていたのだ。
(略)
[ジュリアン談]
「ポールは当時、僕が置かれた状況をずっと心配してくれていた。これからのことや、将来について。よく遊んでくれたよ――父よりもね。今よりもっと子どもに興味があったんじゃないかな。とても仲が良かった。あのころはポールと遊んでいる写真のほうが、父と撮ったものよりはるかに多いと思う」
 ジュリアンが苦労するだろうというポールの予感は正しかった。「父がどんな人だったとか、僕のことをどう思っていたとか、正直あまり知りたくなかった」とジュリアンは語る。「真実なんて知りたくなくて、だから何も話さなかった。僕についてすごく否定的な父のコメントがある――僕が土曜の晩のウイスキーの勢いでできた子どもだと。そういうのはけっこう傷つくよ。愛情のかけらも感じられないだろ?大きな心の傷になって長いあいだ残ったよ。実の息子のことをよくもそんなふうに言えるな、と思っていた」(略)
「《ヘイ・ジュード》を聴くといつもどきっとするんだ」と彼は言う。「誰かが僕のために歌を書いてくれたというのはすごく不思議な気分だ。今でもぐっとくるよ」

Happiness is a Warm Gun

ジョンがデレク・テイラー、ニール・アスピノール、ピート・ショットンらとドラッグにふけりながら思いついた脈絡のないイメージをまとめたのだ。(略)
テイラーは語る。「最初に彼は、とても頭のいい女の子をどう表現するかと聞いた。僕は自分の父親が使う《あの子はあまりミスしない》という表現を思い出した。(略)
[マン島のホテルのバーで男が話しかけてきて]
モールスキンの手袋が好きなんだ。彼女とデートするとき、ふだんとちょっと違う気分になれる》。そして《深くは話せないけどな》とつけ足した。(略)
 「《鋲くぎを打ったブーツに七色の反射鏡をつけた男》は、新聞で見たマンチェスター・シティFCのファンのことだ。こいつは靴のつま先に鏡をつけて女の子のスカートをのぞこうとして捕まったのさ。ちんけなスリルを得るために、そんな面倒で危ない橋を渡るなんて、とみんなで話した。これをもとに、リズムの合う《七色の反射鏡》と《鋲くぎを打ったブーツ》っていうフレーズができたんだ。ちょっと詩的な道具立てだ。《せっせと手を動かしながら、目で嘘をつく》は、やはり僕が何かで読んだ記事がもとになっている。ある店に、プラスチック製の手をつけたコート姿の男がやって来た。カウンターにそのニセの手を置き、その下で本物の手を使って商品を盗んでは腰につけた袋にせっせと放りこんだんだ。そんな記事だったよ」(略)
茂みの影や、戦争中に作られた防空壕の中にはいつも誰かが用を足した跡が残っていたからね。つまり食べたものをナショナル・トラスト(特別な場所を国民のために永遠に管理、保存するイギリスの組織)に寄付すると言えば、《ナショナル・トラスト保有地で大便をする》という意味なんだ。

Sexy Sadie

[マハリシに幻滅して書かれた曲だが]
メロディも歌詞も、スモーキー・ロビンソンが1961年に発表した「アイヴ・ビーン・グッド・トゥー・ユー」とよく似ており、こちらには「自分のしたことを見ろ、人をバカにしやがって」という歌詞がある。

Helter Skelter

 「ヘルター・スケルター」のコンセプトは、ザ・フーの新曲を絶賛する音楽雑誌の批評記事から生まれた。ポールはその批評が的外れだと感じ、記事に書いてある通りの曲を作ろうと決めたのだ。
 その新曲とは、1967年10月リリースの「恋のマジック・アイ」だった。『メロディ・メイカー』誌は「凶暴なシンバルと噛みつくようなギターが紡ぐ大長編抒情詩を引っさげて、恐るべきバンド、ザ・フーが帰ってきた」と書いている、また、ライバル雑誌の『NME』には、この曲には「ダイナマイトが搭載」されていて、「突き刺すような、けたたましいギター、圧倒的なドラム、激しく鳴り続けるシンバルが生み出す、爆音の壁」が出現したとある。
 読んだ記事についてのポールの言葉はその時々で違い、彼が読んだのがどの雑誌かはわかっていない。 1968年には、記事に「エコーやシャウトを盛りこんだ、荒々しいサウンド」と書いてあった、と話していた。だが、20年後には「かつてない大音量の耳障りなロックンロール、ザ・フーが贈る最もダーティな曲」というふうに記億がすり替わっているのだ。もっとも、この記事にどんな影響を受けたかという点では、コメントは一貫している。「《悔しいな。僕もこういう曲を作りたいよ》と思った。でも、実際に聴いてみると記事とはまったく違うんだ。ストレートなロックで洗練されていた。だからビートルズがやったのさ。騒々しい曲って大好きなんだ」
(略)
 イギリス人なら、ヘルター・スケルターが公園にある螺旋形のすべり台のことだと知らない者はほとんどいない。だが、1968年に『ホワイト・アルバム』を聴いたチャールズ・マンソンは、人種紛争が「すぐにやってくる」とアメリカに警告を発している曲だと解釈したという。
(略)
1996年出版の『ポール・マッカートニー――メニー・イヤーズ・フロム・ナウ』で、ポールは著者のバリー・マイルズに、実は真剣なテーマがあったと語っている。「ヘルター・スケルターを、てっぺんから真っ逆さまにすべり落ちることの象徴として使った。ローマ帝国の盛衰のように。テーマは崩壊、時代の終焉、衰退だよ」

Revolution 1

[「僕を仲間に入れるなよ/入れろよ」の「入れろよ」を削除したことで、左翼陣営から「裏切り」「恐怖におののく哀れな小ブルジョア」と批判された。さらに学生のジョン・ホイランドとキール大学発行の雑誌で往復書簡で論争。「この曲は革命には程遠い」「紳士的な革命など存在しないのです」との批判に]
 ジョンの返信はこうだ。「《レボリューション》が革命の歌だと言った覚えは一度もない。(略)
《世の中を変えるには、まず世の中の悪が何かを知る必要があります。それから――叩きつぶすのです。徹底的に》か。かなりの破壊志向だな。何が悪か教えてやるよ――人間さ。人間を殺したいか?徹底的に?きみ(われわれ)が自分の(われわれの)考え方を変えるまでは――何も変わらない。今まで成功した革命があったか? 共産主義キリスト教、資本主義、仏教、その他諸々、どんなやつらが立ち上げたと思う? 狂人どもさ、まともな人間なんていない。資本主義者がみんなバッジをつけていて、間違いなく撃てるとでも思ってるのか?それは甘いな、ジョン。学校の戦争ごっこじゃないんだぜ」
 のちに同雑誌の記者から取材を受けたジョン(・レノン)はこう答えた。「僕の言い分は、社会を変えたいなら人々の考え方を変えろということさ。でも、彼らは体制をぶち壊せという。そんな暴力沙汰が延々と続いているんだ。結果、何が起こった?アイルランドでも、ロシアでも、フランスでも――今はどうなってる?何も変わっていない。同じことの繰り返しさ。誰がこの暴力を始める?リーダーになるのは誰だ?きっと最強の破壊者だろうな。(略)とにかく割を食うのは一般の人々なんだ。」

She Came in Through the Bathroom Window

 この曲の構想は、ポールの外出中にロンドン、セント・ジョンズ・ウッドの彼の家に空き巣に入った追っかけファンたち、通称アップル・スクラッフスの事件からきている。そのひとりダイアン・アシュリーによれば、「ポールが出かけちゃってつまらないから、家に入ろうってことになったの。庭に転がっていた梯子を、少しだけ開いていたバスルームの窓に立てかけたわ。忍びこんだのは私よ」とのことだ。
 家の中から玄関を開けて残りの少女たちを招き入れた。追っかけ仲間のマーゴ・バードは言う。「あの子たちは家の中を引っかき回して服を何着か持ち出したの。本当に高価なものは盗らないけど、写真やネガはごっそり盗んだと思う。アップル・スクラッフスにはふたつのグループがあったの。追っかけする子と、出待ちして写真やサインをねだる子。私はポールの愛犬の散歩を買って出て、ポールと仲良くなったのよ。最後はアップルの仕事まで任されたわ。お茶入れに始まって、トニー・キングの販売促進部のメンバーにまでなったのよ」
 ポールはマーゴに、いくらかでも取り戻せないかな、と聞いた。「犯人はわかってたわ。盗品のほとんどはもうアメリカに渡っていたの。でも、ポールは1930年代のフレームに入れた、少し色あせた写真だけでも取り戻したいって言うの。それを今誰が持ってるかは知ってたから、取り返してあげたわ」
(略)
[ポールから事件を曲にしたと言われたダイアンは]
「はじめは信じられなかったわ。だってポールはものすごく怒っていたのよ。でも思ったの。どんなことでも曲のヒントにしちゃうのね、って。

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