バーニー・サンダース自伝 ホワイトハウスのはぐれ者

1997年の『アメリカ下院のはぐれ者』に「まえがき」と「解説」を足して、2015年に『ホワイトハウスのはぐれ者』として再刊された本。

バーニー・サンダース自伝

バーニー・サンダース自伝

『解説』ジョン・ニコルス

はぐれ者から最有力候補へ

[1972年第三政党から出馬した際には州全体2.2%しか得票できなかった]上院議員選挙に、2006年には無所属で立候補しようとしている――[サンダース]は、はぐれ者から「世界一の高級クラブ」席の最有力候補へと変身していたのだ。
 数年後、脈なしとして一笑に付されていた2016年民主党大統領候補者指名に向けて準備をしていたサンダースは、「私を見くびらないように」と記者たちに警告した。それは虚勢からではなく、経験から出た言葉だった。
(略)
上院議員になったサンダースは、法案を提出し、論戦で注目を集め、「フィリバスター」で新聞の大見出しを飾り、議会の重要な委員会の委員長となって脚光を浴びた。彼はトム・ハートマンとエド・シュルツが司会を務める進歩的なラジオ・トーク番組や、MSNBCのケーブルテレビのレギュラーになった。(略)最終的には、進歩派はほとんど招かれない、ましてや民主的社会主義者などもってのほかの番組、たとえばNBCの『ミート・ザ・プレス』やABCの『ディス・ウィーク』にも、(たびたびではないが)ゲスト出演した。大手メディアの系列局が草の根の運動や反体制的な選挙候補者を取り上げないことをずっと批判してきたサンダースは、アメリカの政治の力学を理解していた。
(略)
 2006年にサンダースがめざした議席は、共和党の連勝が、南北戦争以前から2000年の選挙まで途切れず続いた議席であり(略)
[彼は]民主的社会主義者としてのアイデンティティを決して手放さず、二大政党のいずれの妥協をも非難し、無所属として誇りをもって努めた。
(略)
「進歩派だけじゃないの。政治に関心がないと言う人、政治家なんか誰も信じないと言う人が、いちばんバーニーを大好きな人たちなのよ」
(略)
[彼の勝利は]2002年にポール・ウェルストーン上院議員が亡くなって以来、進歩的ポピュリズムの福音を伝道できる上院議員を探しまわっていた活動家たちを喜ばせた。(略)抜け目ない民主党員は、サンダースがどうやって、農村部の人々や労働者階級という、まさに民主党員の多くが支持をかきたてるのに苦労している人たちの熱狂的支持によって、厳しい選挙を制したのかを知りたがった。

成功の秘訣

[それは]選挙運動の組織化なり資金集めなりについての新方式ではなかった。(略)
サンダースは、あまりに多くの進歩派政治家と、ほぼすべての民主党指導者が忘れ去ってしまった、ある根本的な事実に確証を与えたのだ。それは、階級、人種、地域、党派の垣根を越えるやり方で発せられる、イデオロギー的に力強いメッセージは、いつも政治的な効果を発揮してきたし、これからもそうだろう、ということだ。
(略)
 サンダースがやってきたことは、ある選挙から次の選挙へ、この10年から次の10年へ、立場を守りつづけることだった。(略)イラク戦争に反対した。そう、彼はブッシュの愛国者法を非難した。そう、彼はLGBTの権利、女性の権利、公民権を支持した。しかし、ヴァーモントにおける彼の選挙運動をかきたてたのは、貧困層が無視されていることへの率直な怒り、最高経営責任者と政治家が中間層を切り捨てることへの憤懣、そして、政府には民間部門にできない多くのこと――たとえば、すべての人への医療の保障――が本当にできるのだという、孤独だが絶対的な信念だった。
(略)
「私は昔、根っからの共和党員だった。今は筋金入りのバーニー支持者だよ」
(略)
 下院でサンダースは、ニュースレターを送るために議員が使える無料郵送特権を活用して、経済と企業権力のことを議題にしつづけた。そのニュースレターは、自分を良く見せるための写真や見解を取り上げるものではなく、自由貿易政策によって労働者、農家、環境がこうむる損害や、メディア統合によって民主主義がさらされる脅威や、単一基金の医療制度の機能について解説するものだった。任期の初めから、サンダースは、州で最も小さい規模の地域社会のいくつかで、一つの問題だけを取り上げる集会を開催した。専門家を招き、国際問題、軍事支出と国家の優先順位、貧困、子どもの健康、女性の賃金の平等、教育、退役軍人問題などについて討論し、夜遅くまでかかることもよくあった。デンマーク福祉国家について議論するために、駐米デンマーク大使をバーリントン、ブラトルボロ、モントピリアまで連れてきたこともあった。参加者はいつも多く、公会堂を満員にすることもよくあった。人々は、専門家とサンダースの言うことを吟味し、挑みかかり、文句を言い、反対するよう促された――しばしば実際にそうして、サンダースは右からも左からも迫られた。しかし人々のほうも得るものがあった――どうすれば、自分たちの利益にかなう公平な経済と市民社会が組織されるのかについての、今までと違う見方だ。この長く濃密な教育プロセスこそ、サンダースの成功の「秘訣」というやつだ。

保守派との共闘

ジョージ・W・ブッシュの政治力が最高潮の時に、サンダース下院議員は、ノースカロライナ州選出のウォルター・ジョーンズ下院議員のような共和党保守派と、貿易政策、対外投資、アメリカ軍のイラク撤退の工程表策定といった多様な問題でよく共闘した。
(略)
2006年の選挙戦で対立候補に大金を使われ、露骨に攻撃された[が](略)
州のすべての郡で圧倒的勝利を収め、保守的な地域でさえ支持を得た。長い年月にわたる、あの町の集会、あの台所事情の対話のすべてが、大金とネガティブ広告では切断できないつながりをつくりあげていた。「たぶんそれが、バーニーから得られる教訓です」と、マーグリート・ストランド・ランネスは語った。「彼は、ひとつの選挙の勝利にあまり気を取られていません。長い目で取り組んでいます。なぜなら、そうすることで信頼と意識が築かれ、スピンを乗り越えて、生活の現実問題について人々と話せるようになるからです。民主党にそれをやる忍耐力があるかはわかりません。しかし民主党は、彼らが手を伸ばすべき相手と通じ合いたいなら、これに注目すべきなのです」
(略)
 「もし救済が必要なら、もし納税者のお金を危険にさらさなければならないなら、もしウォール街を救済するつもりなら、ツケを払うべきは、その問題を引き起こした人々、ブッシュ大統領の百万長者や億万長者への減税の恩恵をこうむった人々、規制緩和に乗じた人々であり、普通の働く人々ではないはずだ」とサンダースは叫び、七千億ドルの救済計画に反対票を投じると宣言した。
 2008年10月1日、サンダースが上院議場でおこなった火を吐くような演説は、議会での役割の基調を定めた。

壊れているのは政治システムだ

 壊れているのは経済システムだけではない、とサンダースは論じた。壊れているのは政治システムだ――危機の最中でさえ、経済エリートに立ち向かうことを完全に拒否したことによって、議会は堕落したのだ。
 「この法案のもとでは、最高経営責任者ウォール街の内輪の者は、ほんの少し頭を働かせて、また詐欺師のようにもうけつづけるでしょう」とサンダースは怒鳴った。
(略)
サンダースは、緊縮方針は失敗したと語り、今こそ、金持ちには増税し、救済など受けたことがない圧倒的多数のアメリカ人のためにインフラと雇用創出に投資する、新たな方針の時だと主張した。
 取り決めを阻止するために「必要なことは何でも」やると約束して、サンダースは2010年12月10日金曜日午前10時24分、上院議場に姿を現した。マイクを調整し、話しはじめた。租税取り決めの何が誤っているのか。ワシントンの政治のやり方の何が誤っているのか。国家の優先順位の何が誤っているのか。経済の何が誤っているのか。「私が今日やっていることを、好きなように呼べばいいでしょう。フィリバスターと呼んでもいいし、とても長い演説とも呼べます……」彼のツイッターのフィードで読める。長かった。彼は発言台に8時間35分14秒とどまった。
 サンダース上院議員の大胆なふるまいは、国民の注目を集めた。何万もの人々が演説をオンラインで見ようとして、上院のビデオ・サーバーが過負荷となったほどだった。
(略)
「もしアメリカの人々が立ち上がり、『私たちはもっとうまくやれる。百万長者や億万長者に減税して国家債務を積み上げる必要などない』と声をあげるならば、もしアメリカの人々が立ち上がる覚悟を決め――そして私たちが彼らに付いて行く覚悟を決めるならば――、私たちはこの提案を打ち砕けるはずです」。彼は声を荒らげた。「わが国の中間層と働く家族のニーズ、そして、私はいちばん大事だと思いますが、わが国の子どもたちのニーズが、もっと反映された、もっと良い提案を、私たちは見つけることができるはずです。それを言わせていただいて、議長、議場をおゆずりします」
ナショナル・パブリック・ラジオは、「全世界が今日、バーニー・サンダースを見ていた」と報じた。『ワシントン・ポスト』のクリス・シリザはこう書いた。「サンダースの姿勢は、この取り決めに対するリベラル派の怒りを象徴したものであり、それはヴァーモント州選出の上院議員を進歩派のヒーローに変えた」。ポリティコも同意し、こう説明した。「左派は新しいヒーローを探していた。この夜、彼らはそれを手に入れた。バーニー・サンダース上院議員だ。このヴァーモント州選出の無所属議員は、金曜日、オバマ大統領と共和党の減税取り決めに対する進歩派の怒りを上院議場に持ち込み、フィリバスター型の演説で議会を八時間停止させ、リベラルなツイッター界を熱狂させた。
(略)
 [2012年再選]2013年から2015年まで(略)2008年大統領選挙の共和党指名候補であるジョン・マケインと、しばしば密接に協力して働いた。マケインと一緒にサンダースは、退役軍人保健局の恥ずべき怠慢に関する報告書に対応して(略)法案を共同起案した。(略)
 サンダースは、ワシントンから遠く離れた場所での闘争に光を当て、民衆の蜂起に応ずる連邦政府介入に賛成の論を張るために、ウェルストーン以降のどの上院議員よりも積極的に自分の立場を活かした。2011年、共和党州知事たちが就任後すぐに労働者の権利を攻撃した時、サンダースは争いに飛び込み、ウィスコンシン州マディソン、オハイオ州コロンバス、その他の州部で、抗議活動をしていた労働組合員との連帯を宣言した。(略)
「こうした連中は、私たちを1920年代に逆戻りさせたがっています。働く人々に、組合を結成する権利も、まともな生計費を得る権利も、ほとんどなかった時代です。(略)
[ウォール街占拠運動]サンダースはその抗議の言葉と精神を受けとめた。「ウォール街には詐欺師がいます。私は言葉をよく考えて使っているのです――引用を間違えないでください、その言葉は『詐欺師』です。その強欲、その無謀、その無法な行為が、このひどい不況を引き起こし、たいへんな被害をもたらしたのです。私たちはこの国を信じています。この国を愛しています。私たちは、ひと握りの泥棒男爵がこの国の将来を支配することなど、絶対に詐さないのです」とサンダースは宣言した。
(略)
 下院であれ上院であれ、共和党であれ民主党であれ、そのイデオロギーが何であれ、最良の議員たちは、ワシントンの外での危機、難題、機会に対応するにあたって、調査を開始し、公聴会を開き、法案を提出する。しかしサンダースは、議員の役割をつくりかえた。議会議事堂のあらゆるところで働き、それから地元ヴァーモント州や国じゅうに出かけて行って、市民たちに、議会に圧力をかけるよう促すのだ(略)
「私にとって政治というものは、ここワシントンでアイディアと立法計画を思いつくことだけではありません。(略)どうやって人々を政治プロセスに巻き込むのか、どうやって彼らに力を与えるのかを理解することなのです。簡単なことではありませんが、実際、やらなければならないことです」

人々と対話し、教育し、組織しろ

くだらないコンサルタントが来て、『これしか道はない』と言いますが、それはいつも同じです。カネを集めろ、テレビに使え、誰かの気分を害することは言うなと。民主党はそれをやって、いつも接戦になって、うまくいくかどうか心配する羽目になるのです」とサンダースは言った。「なぜ進歩派がコンサルタントの言うことを聞くのか、さっぱりわかりません。運動を立ち上げ、進歩派の課題を前進させる――それなら、人々と対話をし、人々を教育し、人々を組織しなければなりません」
(略)
「こうした番組にたくさん出演してきましたが、みんなこう言うのです。『今日の話題です。シークレット・サービスについてどう思われますか?これについてはどうですか?エボラ出血熱はどうですか?』これらの問題はみんな重要です。しかし、庶民に影響を及ぼす問題――彼らは、なぜ生産性が上がっているのに、賃金は下がり、労働時間は長くなっているのかと疑問に思っているのです。ビル、こうした討論はされてきましたか?(略)
 「所得と富の不平等という問題。なんと、1%がアメリカの富の37%を所有しています。(略)ウォルマートウォルトン家は、下から40%よりも多くの富を所有しています」と彼は言った。「その問題について話すべきだと思いますか? この話は、テレビでは続けられないのです」(略)
 「なぜなら、本当の問題について議論するよう、アメリカの人々を本当に教育することは、放送局を所有する企業のためにならないからです。そうした問題から関心をそらして、今日の出来事をやっているほうが、はるかに良いのです」
(略)
「ここワシントンの一部の人のように、毎朝目覚めるたびに、『いいか、俺は絶対に大統領にならなくちゃいけない。大統領になるために生まれてきたんだ』と自分に言い聞かせたりはしません。私が毎朝目覚めるたびに思うのは、この国は大恐慌以来最も深刻な問題に直面しており、この危機に対処できる真剣な政治の議論やアイディアが全く欠けているということ、そして、誰かが労働者階級と中間層を代表して、この国の経済と政治に対してあまりに大きな力を持っている大企業や金持ちの利害に立ち向かわなければならないということです。だから私は、大統領選挙に立候補する覚悟ができています。この闘いができるのは世の中で私だけとは思いませんが、しかし、私はその選挙戦を真剣に見据えて、確実に準備をしています」
(略)
 「政治革命について話す時、私が意味しているのは、単に次の選挙に勝つこと以上のことをする必要性です。それは、政治に関わっていないたくさんの人々を政治プロセスに巻き込む状況をつくることや、メディアの性質を変えて、多くの人が感じているニーズと痛みを表す問題を扱うようにすることです(略)
もしこの国の80%から90%の人が投票するならば、もし彼らが、問題は何なのかを理解するならば(そしてその理解をもとに要求するならば)、ワシントンと議会は、大企業と金持ちの支配する、彼らが扱ってほしい問題だけを扱う今の議会とは、大きく、大きく違ったものになるでしょう」
 空想的な考えに聞こえるかもしれない。たぶん、これは空想的な考えなのだろう。しかし政治は、その最高の状態においては、冷徹な計算以上の何かであるはずだ。それは「可能なかぎり最大限の左翼」がありうると信じることだ。

自伝本編

どうやって投票に行かせないようにするか。さらに、どうやって、大多数の人々に影響する問題、それをめぐって人々が団結できる問題から、意識をそらすか。
 おかしな話に聞こえるかい。あなたにはそうかもしれないけれど、私は毎日見ていることだ。これが、悪玉を仕立て上げる「分断」政治のすべてだ。白人と黒人とヒスパニックの対立。異性愛者と同性愛者。労働者階級と貧者と福祉受給者。男性と女性。本国生まれと移民。刑務所の外にいる人と中にいる受刑者。まだまだある。
 1996年の共和党は、大規模な世論調査をやっていて、多くのアメリカ人が感じているまともな不安や心配を、とてもよく理解している。そして大金を投じてやろうとしているのは、そうした不安をうまく利用して、働く人々を分断し、共倒れするように仕向けることなのだ。公正をつかむかわりに、金持ちの食べ残しをつかまされていることに、働く人々が気づかないようにすることなのだ。
(略)
[分断政治は]弱い者、力のない者を叩きのめすことができる。悪質で醜悪な政治だ。しかし、それが選挙に勝つ政治なのだ。
 私はヴァーモントでその影響を目にする。アディソン郡の町民集会で、ある女性が言う。「バーニー、私はがんばって働いているのに、医療保険に入れないのよ。うちの子は医療が受けられないのに、どうして福祉受給者の子は受けられるの? 良くないことだわ。あなたはこの件、どうするの?」
 私は、国民皆保険制度によって、この国のすべての人が良質な医療を受けられるように、闘うつもりだと答えた。彼女は言う。「違うのよ。うちの家族に医療保険をくださいと言ってるんじゃないの。福祉受給者からそれを取り上げてちょうだいと言ってるだけ」
 オーリンズ郡のフェスティバルで、ある女性がやはりこう言う。「私は食料品店で働いているんだけどね。むかつくわよ。フードスタンプを持ってきて、ステーキ肉とか、私よりいい食べ物を買っていくんだから。何とかしてよ」
(略)
 共和党貧困層を攻撃できるのは、彼らがある明白な社会的事実を理解しているからでもある。貧しい人々の大多数は、選挙運動に献金せず、投票もせず、政治に参加しないという事実だ。(略)
 貧しい人々は、共和党にとって格好の標的だ。(略)組織化されておらず、反撃できない。(略)
 ここにアメリカ政治の深刻なジレンマがある。低所得者が投票せず政治参加しないかぎり、彼らは悪玉に仕立て上げられる。(略)
 低所得者の住む公営住宅を訪ねてまわる時に、人々がきっぱりとこう言うのを何度耳にしたことか。「投票には行きません。何の意味があるんですか?私の利益なんか代表する人はいません」(略)
 私がバーリントン市長だった時、投票率が二倍近くになった。なぜか?私たちは、低中所得の人々のために立ち上がって闘うことを明確にし、そのとおり実行したからだ。多くの低所得者がそれを理解し、その結果、私たちを支持した。投票に意味があると思えば、貧困層は投票する。
 この国の支配階級は、投票率を低くしておくことが、自分たちにとっていかに大事か、とてもよくわかっている。

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