出版幻想論 データハウスの秘密w

出版幻想論

出版幻想論

 

出版アナザーサイド 藤脇邦夫 - 本と奇妙な煙」が面白かったので、こっちも読んでみた。1994年の本です。
まず順番を飛ばして、一番刺激的なデータハウス・鵜野義嗣との対談。
これはホント眼から鱗が落ちる内容。かといってデータハウスの本を読みたいとも、データハウスの本ばかりになることがいいとは思えないがw。でも確かに、ある意味、正論。
念のため書いておくと対談している著者は、白夜書房で採算をとりながらマニアックな音楽本・映画本を出している人なので、売れたらええのやという人ではない。とはいえ営業に行った先でお前はこんなエロ雑誌を出して恥ずかしくないのかと説教受けたりしているので、採算度外視で文化だとふんぞりかえってる出版人への怒りもある。
背景を説明しておくと、飛鳥新社の『磯野家の謎』に便乗して『サザエさんの秘密』を40万部売ったのがデータハウス

週三冊ペース

藤脇 何人で作ってらっしゃるんですか。
鵜野 だいたい企画というか、原稿を書き上げてもらうまでは僕一人なんです。(略)
よく分からなくても、何かどうも真面目そうだなとか、世の中にないなということだったら、とにかく出そうかと。
(略)
藤脇 (略)何がすごいって、今、週三冊ペースで本が出てるでしょう。
鵜野 出せますよ。要するに、みんなが勝手に作っているんです。勝手に本を作りたい人が、うちにきて、僕がいいといったら、勝手に作っているだけの話です。
(略)
鵜野 (略)予約が殺到しそうな本は、一切予告しないんです。(略)
予告しないで見本を持って行くのがおもしろいんです、取次に。驚かしたいから。次に書店を驚かす。そして最後は読者を驚かす。
(略)
鵜野 (略)[本社分は持たず]常時平積みのお得意様の分を残して売り切り方式です。
(略)
独創的な企画本というのは当たるかもしれないけれども、当たらないかもしれない。だからそれは楽しみながら、遊び気分でやっておいて、幾つかの雑誌的なシリーズ[『サザエさんの秘密』]ものは出しておかないとだめだというのは、だんだん気づいたことです。(略)
あのシリーズはまだまだどんどん出ます。売れても売れなくてもどんどん出してやれと。(略)
まだまだ持ち込みがどんどんきています。この前はミラクルガールズの秘密をやりたい人がいて、まあよく分からないけれども、作りたかったら原稿を送れといったら、送ってきたんです、見本原稿を。それを見ると、どうも子供みたいなんです。それで高校生?って聞いたら、いや中学生ですって。
(略)
藤脇 (略)データハウスの一番の特色は、本が出るのが早いということ。便乗本だろうがなんだろうが、早いということに、今、大きな意味がある。
(略)
鵜野 [以前から企画はあったが、12月に『磯野家の謎』が出て、先を越されたと一旦あきらめたが、フト思い返し、20日で書いて10日で制作。3月3日に店頭に。10万部行けるとは思ったが、初版は3万部に。3月中に40万部。印刷所が寝ないで、一日おきに5万部刷ってくれた。ベストセラーズドラえもんを出すと知ってスピードアップして、二週間早く、4月に『ドラえもんの秘密』を出した。初版11万部。連休前の21日間で56万部作った]
(略)
鵜野『ドラえもんの秘密』は半分売れました。あと半分は捨てましたよ。
藤脇『サザエさんの秘密』は?
鵜野 あれは56万部刷ったから40万部ぐらい売れたと思います。
藤脇 すごい。もっとすごいのは期間。二ヵ月以内に、それだけ作って売ってしまって終わり。だから月刊誌とか週刊誌感覚なんだ。
鵜野 でもあまり儲からなかったです、あれは。だって56万部作って、20万部以上返ってきたらそんなに儲からないです。だけど、おもしろいというか、騒がせるのがおもしろいでしょう。利益がどうというのではなくて。その勢いで、仕事が生まれるわけでしょう。仕事が生まれたら、いっぱいおもしろい人がやってきて。その瞬間に、次の本がダーッと決まった。だから最初のは騒がすための起爆剤みたいなものです。それで一気にいろんな人の売り込みがあって、じゃあ勝手に作れということで。

謎本ブーム」なんてない


世間はブームは終ったというけれども、僕は初めからブームがあったとは思わない。「謎本ブーム」などと、言う人を見ると笑ってしまう。サザエさんブームはあったと思うけれども、ブームだと思ってそれだけで納得している人は、その瞬間に敗北しているんです。ブームじゃなくて、要するにそういう物が売れるということに、長い間気づかなかった。
藤脇 ここが、普通にない発想なんだ、鵜野さんの。大笑いなのは、本家本元の飛鳥新社が、うちが本家本元って、水戸黄門謎本を出したんだけれども、他のと一緒に思われてしまったこと。
鵜野 (略)[黄門本は]売れるかどうかは疑問だとは思ったのですが、もし売れたらシャクだから、ちょっとちょっかい出してやろうかって。その前に出したらおもしろいなと。結局向こうより二日ぐらい遅れましたけれども、それは一応ひやかしで、三万部作って。
藤脇 ひやかしで、しかも三万部というのがおかしい。
鵜野 一応、売り切りましたよ。
(略)
藤脇 やはりスピードですね、出版は。
鵜野 いや、全部スピードだとは思わないですけど、スピードで売れるもの、スピードが全ての本もあります。
願脇 では、鵜野さんにおける失敗というのは、スピードだけですか?
鵜野 いや、そんなことはないです。たとえばこれはおもしろいといって、皆が売れると思う本を出して、売れずにコケたら、これもおもしろいです。ある意味で快感です。『長島伝説』って本を出したんです。一昨年、長島が監督になるって決まった瞬間に長島の現役時代の、紙面に出ているスポニチを全部縮刷版にして出そうと思ったんです。[一週間で集めて3万部刷った](略)
取次も売れるといったんです。でも、ほとんど売れなかった。
(略)
[打率なら7割くらい?]
鵜野 (略)10冊出して、感覚的には、重版できる本が半分あればいいですね。

原価計算はしたことない

やたら作っていますから。定価もいいかげんにつけてますし。今、上製本はすべて1300円。分厚い300ページを越える本でも全部1300円です。惰性です。
藤脇 惰性? でもページ単価とか?
鵜野 そんなの計算してません。コストがいくらかかったというのは、買う側にとっては、あまり関係ないことなんです。(略)子供が買うような本は、1000円とか1300円を越えたら、絶対だめです。(略)
[原価計算は]したことない。定価はいくらだったら買ってくれるかなというだけです。
(略)
[データハウスを設立して10年、一番最初は田中角栄判決に合わせた角栄最新データ集]
鵜野 (略)それまで編プロをやってたんですが、突然出版社を作ることにして。
藤脇 でも口座を開くのが大変だったでしょう。金銭的な方だって。
鵜野 金はあまりいらないと思う。出版社を作るには。売れる本を出せばいいんだから。いらないんじゃないですか。金がいくらあったらできるかという問題じゃない。もちろん一冊目を作るお金というのは必要ですが、そんなのは何百万もいらないわけで。最初から売れる本だったら、借りることはできるし、国民金融公庫だったら、300万円ぐらいは貨してくれる。それを借りれば十分。口座も簡単。最初に売れるような本の企画を出して。売れるような本というのは、結果的に売れる本ではなくて、売れるに違いないという本です。それも斬新な企画はだめ。かならず注目されるイベントに合わせた本か、あるいは大ベストセラーの便乗本。間違いなく、これは取次とか書店が動きます。(略)
見本原稿を作って、ダミーを作るんです。そんなものはコピーで10ページもあればいい。それで書店にパーッとDMを送る。(略)[角栄判決本だから売れるんじゃないかと、40、50冊と書店から注文が来た]
そうやって勝手に注文書をためる。最後は、書店から注文もあるし、売れたら困るということでほとんどの取次が口座を開いてくれました。(略)
たとえば、今話題になっているジェフ何とかが書いた、松田聖子さんの本。結果的に売れなくても大騒ぎになるかもしれない本です。(略)
要するに、もし取らなくって、話題になって書店から苦情が殺到したら困ると、取次がそう思うことが大切です。(略)
極端にいえばウソでもいいんです。
[初版2万部で1万部しか売れず、焦って]
『おもしろすぎるデータハウス』って本を作ったんです。すぐ作らないといけない。すぐ作れるのは何だ。よそのものを取ってこいと。『微笑』とか取っている雑誌の段ボール何箱分かのコピーを取って、バーッと選んで、学生とかあまり原稿を書いたことのない人間を集めて書かせて、そのまま出したんです。そうしたら売れました。8万部でしたか。(略)
その次が、『悪の手引書』(略)
あれは奥の手なんです。(略)
タブーってありますよね。売れるに決まっているんだけど、フツーはしない本。だけどあまり、そういう奥の手をしょっちゅう使っていたらだめです。それにやはりやっかいです。『悪の手引書』のときも、やくざとか、いろんな電話があるし、警察もくる。しかし、お金に困ったらまた出します。
[格好をつけて硬めの『国家と中絶の論理』をハードカバー2万部作ったら数百しか売れず、そんなことをやってたら出す本全部売れなくなり、起死回生で長門裕之『洋子へ』。売れるとは思わず、初版2万部。](略)
藤脇 鵜野さんは気づいているかどうか分からないけれど、『洋子へ』が、いわゆる本がワイドショーネタになった最初です。勝手に宣伝した。本が社会問題というか、ゴシップだろうが何だろうが、話題になったのはあれからです。梅田の紀伊國屋で神話を作ったそうですね。二時間で350冊。(略)
鵜野 今のうちの力だったら、もっと作りました。100万部はいったでしょうね。(略)
[最終的に]40万部しかいかなかった。もし『洋子へ』を毎日5万、10万と作っていたら100万部は越えたでしょう。二時間で350冊売れている時点に、本があれば、誰でも買ったわけでしょう。ところが、それが一ヵ月たったら、誰も買わない。テレビも全部終わっている。週刊誌になった頃は、もう終わりなんです。(略)
テレビやっているときに、本がないなんていうのは最悪。(略)
それだったら出さない方がいい。

100万部行く本って二時間で読めなければだめ

だから50万、100万部行く本って、二時間で読めなければだめ。内容があったらだめ。充実していたら売れない。充実していたら10万、20万部で止まってしまう。(略)
内容がいいからというので買うものは、価値判断が入ります。厄介なんです。買う方も。ところが、雰囲気というか、売れている、何か良さそうなものというのは、私も私もという感じで、何も考えないで買います。だから、買う側も軽く買えるし、それで終わりです。
藤脇 二時間1000円で楽しめたらいいじゃない。そういう見方が、今は大切だと思う。書店にしても、瞬間的にサッと売れるものがいい。
鵜野 僕は出版物を作りたいわけではないんです。いたずらしたいだけなんです。エクスパートなものはほとんど興味ないし、まず妙な物というか、おもしろい物を作りたいというのがあって。
(略)
藤脇 そこ[書店の反応を見て重版をかける時]で返品のこととか考えませんか?
鵜野 返品を考えていたらできない。返品はこっちのミスだから。(略)
売れると思って出したものが、売れなかったら、やはり出した者の責任だと思う。返品は、うちの会社がある限り、いつでも受け入れますけれど。一方では、注文がきても断ることもいっぱいある。これは売れませんからと。一冊にしてくださいとか。売れないことほど信用をなくすことはない。だから注文がきてもそれは出さない。
(略)
鵜野 要するに、もともと素人なんです、本作りも。人脈がまずなかった。誰も書いてくれる人がいなかった。『洋子へ』を出した頃から、芸能関係の記者とかテレビ局だとか取材にきた人を、全部著者にしてしまうんです。
(略)
藤脇 返品とかは、全部自動断裁なんですか。
鵜野 年末決算期に全部やります。[新刊57点320万部刷って]去年は70万部ぐらい断裁しました。
[社員は鵜野、編集、営業、業務、総務、経理、バイト2人の計8名。あと宅急便係と電話番。その前は4人程度。]
鵜野 [スピード勝負の本だから]宅急便の係は大変。一日中宅急便をやっている。(略)
宅急便で運賃が月100万円ぐらいかかっている。
藤脇 制作の人も、もう死んでいるんじゃないですか。一人で10日ぐらいで本を作らされるし。
鵜野 そのかわり当然誤植も多い。この前なんか、ある本で、乱丁なんだけど、読者から電話がかかってきた。「203ページの次がつながらないんですが」って。「それは、204、205を読んで、202、203を読んでね」って。「ああ、そうですか。分かりました」ガチャン。それで終わり。それで読めるんだから、欠陥品じゃないでしょう。ゴソッと一ページないんだったら回収しなけりゃならないけれど。もちろん替えてくれといったら替えます。でも、別にそういわない人に替えてあげる必要はない。

蔵書は五万冊あるが読まない

鵜野 僕は本を読まない。年間一冊も。
藤脇 でも会社に山ほど私があるじゃないですか。
鵜野 あれは買うだけ。買った瞬間に、もう本の役目は終わり。蔵書は全部で五万冊くらいある。(略)書店で本を見かけますよね。それでタイトル、テーマ、表紙、そして中身のレイアウト、それだけ見れば、それ以上見えることはないんじゃないかと。書いてることは、著者が適当に書いていることだからと思って(笑)。
藤脇 出版の本質をついているような気がする。
鵜野 買った瞬間に得られたものの中にヒントなり、何かある。それだけでいいんです。読んでいたら日が暮れます、そんなもの。上がってきた原稿もろくに読まないほどですから。見本原稿がきても、斜めにバッと読むだけ。要するにタイトルと、テーマと項目。項目を見ればだいたい分かる。あとはまともそうなことが書いてあるかどうか。
(略)
[どんな本を買う?]
鵜野 妙な本。世の中にない本。雰囲気的に怪しい本。売れなさそうな本。情報って、マイナーな情報の方が、役に立つんです。ベストセラーを買ったって、何の役にも立たない。全然売れなかった、一冊も売れなかった本を僕だけ買っていれば、その情報は皆知らない情報ですから、生かせます。
[年間800万円ほど本を買い、ちゃんと読む本はゼロ。10ページも読まない。チラ見でインスピレーションがあればいい]
(略)
鵜野 だから、他のところは、よく分かっていない。『磯野家の謎』が売れたのを見てサザエさんが国民的ヒーローだからと理解し、「寅さん」を出した。売れるわけがないのに。何か他社のラインナップを見ていると、売れないものばかり選んでいる。多分、30代が作っているんでしょうけど。たとえば「あしたのジョー」とか、「巨人の星」とか。好きで出すのはいいけど、売れると思って作っているとしたらおかしい話ですよ。で、ブームが終わったという。当たり前です。そんなマンガのブームはとうに終わっているんですから。まあ、それで他社が撤退してくれたのはありがたいですけど。(略)
スラムダンクの秘密』だって7万部を越えてますし、『幽遊白書の秘密』だって10万を越えるでしょうし。だからアイドル本なんです、あれは。うちはアイドル本を片っ端から人気のある物からやっているわけでしょう。売れるに決まっている。どうして出さないんでしょう。
(略)
鵜野 いろいろ失敗しながらやっていますけど、僕がやるのは本を作るというより、やはり仕事をいっぱい作り出すことじゃないかな、と思っている。(略)
[企画を]持っていても、担当編集者はいいといっても、上がだめだとか。そういう人を、すくいとってあげれば、そういう人がうちで暴れまくれば、それで稼げるわけだし。そういう人がいっぱい本を出せればそれでいいんじゃないですか。ただ、仕事ですから、何をおいてもきちんとお金は払う。極端なことをいったら、完全犯罪の銀行強盗をやってでも払う。世間にいくらいわれても、世間に責任を負う必要はないけれど、一緒にやった人には責任を員うべきだと思っていますから。
(略)
読者も買ってくれる人だけウケたらいい。買わない人はどうでもいい。
藤脇 僕もそう思う。読者は一番残酷。買わなければいいんだから。でも、こんないい本なのに、読者がバカだからとかいって、買いたくない人も買わなければいけないようなことをついいってしまう編集者が後をたたない。この対談を読んで、早く目からウロコを落として欲しいですね。僕も今日から本をもう完全に一つのモノだと思って営業しなければ。(略)
鵜野 モノと思わなければって、最初からモノなんですよ。
藤脇 どうも、すみません、失礼しました(笑)。まだ幻想があるんだ。
鵜野 モノだから思い入れがないとかではなくて、モノだから思い入れがある。作ったモノだから。百姓の人が米を作っても同じだと思うし。それと違うということが、そもそも思い上がりだと思うし。どっちが大事かといったら、米の方が大事だと思う。ただ、できるだけ多くの人を喜ばせてやろうというのがある。(略)

ということで肝心の著者の話は次回に続く。