ゲゲゲのゲーテ 水木しげる

水木自身が選んだゲーテの言葉93篇を収録。

ゲゲゲのゲーテ (双葉新書)

ゲゲゲのゲーテ (双葉新書)

 

水木しげるゲーテについて語る

他の連中は思考して、考えたことを吐露するという感じだけれど、ゲーテの場合は人生とか、人間とか、すべてを含んだ発言なんです。幅が広いから参考になるわけですよ。そこへいくと二ーチェなんかは特別なときの言葉が多かったように思いますね。
(略)
ゲーテは人生をじっくりと味わった言葉ですよねえ。ショーペンハウエルニーチェとかは、ケンカ腰で喋るような感じで(共感できなかった)ね。(略)
ニーチェというのは他人に勝たなけりゃいかんという苦しい考え方をして、大騒ぎしてるからねえ。(略)
出世して自分だけいい思いをしようと思ったら、ニーチェの思考ですよ。水木サンにとって、二ーチェは怖いね。

水木の『ねぼけ人生』から

だが、ここにも、軍国主義の波が押し寄せてきていた。
校長先生は、やたらと、「非常時」を口にした。(略)
世の中は、どんどんギスギスした感じが強くなってきた。
(略)
戦争が始まったという。
「あっ」
と思ったが、僕が開戦を決めるわけではないから、どうにもなるものではない。
(略)
自由な発言というほどのものでもないが、僕が、
「先生、戦争も満州まででエエんじゃないですか」
などと言ったら、教室から引きずり出された。(略)
僕は、子供の時、軍人にあこがれていた。それは、勇ましいからだったが、勇ましいというのは他人がやっているのを鑑賞している時の気分で、自分が参加すると、勇ましいというより恐いものなのだ。自分が、いやでも参加させられる年齢が近づき、しかも、もはや絵描きになるつもりになってしまうと、軍人や戦争や、ましてや戦死なんかは、うとましいばかりだった。
 ところが、新聞や雑誌では、文化人や有名人といった連中が、若者は国のために戦争で死ぬのが当り前で、天皇陛下のために死ぬのは名誉なことだ、というようなことを言って、自分に都合のいい万葉集の歌なんかを引用して力んでいた。

以下ゲーテの言葉。

独創性について

一般的なものに留まっているかぎりは、
誰にでも模倣されてしまうが、
特殊なものは、誰もわれわれの模倣を
することができない。

学ぶことの意味とは

たいていの人間にとっては学問というものは
飯の種になる限りにおいて意味があるのであって、
彼らの生きていくのに
都合のよいことでさえあれば、
誤謬さえも神聖なものになってしまう

仕事について

仕事の奥にひそむ
困難というものを少しも理解しないで、
いつも自分にやれそうもないことばかり
企てようとするのが、ディレッタント
ディレッタントたるゆえんなのだ


[水木解説]
 ディレッタントというのは、趣味で芸術品の蒐集や研究を行う人たちです。鬼太郎の漫画に出てくるねずみ男にはモデルが居ます。彼は貸本漫画の出版社に勤めたり、自分でも少女漫画を描いたりしてましたが、やれそうもないことばかり企てようとするディレッタントのような一面がありました。
 のべつ金儲けのことばかり考えていて、遠大なる計画をたてる策士でしたが、成功したためしがない。そのコスイ考えというのが、傍から見ているとユーモラスで、彼もまた、貸本漫画界の底辺の一人でした。

成功について

大事なことは、すぐれた意思をもっているかどうか、
そしてそれを成就するだけの
技能と忍耐力をもっているかどうかだよ


[水木解説]
 世の中には、運ばかりを期待して、本当の努力をしないで幸せにありつこうという人間が意外と多いんです。漫画でいえば、絵は描いていれば自然に上手くなるんです。逆に描かずにおるとダメだし、たくさん描くことが大事なんです。ただ、ストーリーは才能が要るし、それでお金が儲かるかどうかはまた別の話です。才能と収入は別なんです。
 私も若い頃は、描いても描いてもちっとも売れませんでした。それでも火の玉みたいに頑張った。とにかく、絵を描くことをおもしろがった。熱烈に絵を描くことが好きだったから、貧乏も苦しい生活も我慢できたんじゃないかと思うね。
 運はかなり努力せにゃ、やってこないんじゃないですか。いいことは、向こうからやってくるわけではないからネ。

ただただどうすれば自分を著名にできるか、
どうすれば世間をあっといわせることに大成功するか、
ということだけをねらっている。
こういうまちがった努力が、いたるところに見られる

他人を自分に同調させようなどと望むのは、
そもそも馬鹿げた話だよ

頑迷な人、精神の薄弱な人のばあいに、
うぬぼれが現れる

忠告を求める者は目先きがきかず、
与える者は僭越だ

戦争を生む感情

国民的憎悪というものは、
一種独特なものだ。(略)
文化のもっとも低い段階のところに、
いつももっとも強烈な憎悪があるのを
君は見出すだろう