IS(イスラム国)はアメリカがつくった

解説の高橋和夫は、ISから離脱し、対立関係にあるアルカーイダ系の組織に現在属しているという元幹部級メンバーの証言なので、中立性に欠けるが、それでも、興味深い内容としている。

「イスラム国」謎の組織構造に迫る

「イスラム国」謎の組織構造に迫る

 

アメリカがイスラム国をつくった

アブー・マリアはこう語っている。
 「あの地域でアメリカ政府が行なったことが、現在の戦争の遠因なのだ。アメリカには、逆キャンペーンを張ってわれわれの思想の拡大を抑え、アルカーイダを壊滅させる狙いがあった。それを達成するために、われわれよりもっと残忍で荒々しく攻撃的な人物と組織を見いだす必要があった。ただし観念的にはわれわれほど首尾一貫していないことが条件だった。つまり自らの未来像を持たず、長期にわたる計画や戦略を用意していない組織が望ましかった。それで白羽の矢が立ったのがアル・バグダディだ。彼はじつに怪しげな人物で、サラフィー主義者としての過去を持つうえに、拷問や殺人、さらには誘拐の証拠まで上がっていながら、なぜアメリカが収容所から出したのか
(略)
彼らの行為を非難しておきながら、アメリカはひとり残らず釈放したのだ。理由もなくね。(略)現在イスラム国の中枢にいる幹部すべてが、あのころアメリカの手中にあったのだ」
(略)
[アルカーイダが入手した米の極秘情報には]イラクの過激派組織を強化することによってアルカーイダを弱体化させ、最終的に壊滅させるべきだと明言されていた。アメリカ人は長期的にみてイスラム国がアルカーイダより危険の少ない組織だと考えたのだ。そのとおりだ。あの組織のやり方はあまりに野蛮でセクト的だから、自分たちの思想に対するイスラム社会の支持を長期にわたって維持することはけっしてできない。(略)
これから数年、戦闘が膠着し、アル・バグダディの非妥協性と残忍さにスンニ派の人々がいらだちを募らせるようになれば、イスラム国は自然に衰えるだろう。そしてイスラム教徒をかつてない孤立無援の状態に置いたまま消滅するだろう。そのときにはアルカーイダも、自分の子どもをむさぼり食うようなあの狂おしく貪欲な組織に打ち砕かれて消えているはずだ……。これこそがアメリカの構想だった。

空爆は滑稽の極み

あの空爆が滑稽の極みだからだ。空爆イスラム国の壊滅につながるなどと、一瞬でも思う者がいるだろうか。イスラム国を倒すなら戦争するしかない。高度一万メートルの場所で行なうゲームではなく、本物の戦争を。だがいずれにしても、きみたちは敗北するだろう。アメリカはそれを知っていて、偽物を本物と信じ込ませること、つまり戦うふりをすることにした。実際のところアメリカは完璧に目的を果たしている。アルカーイダは弱体化し、イスラム国は勢力を増した。これが第一段階だ。そのあとについては、アメリカ政府の期待どおりになるかどうか予断を許さない。というのも、アメリカの助力で生まれたイスラム国は一種の怪物だからだ。通りすがりに目に入るものをことごとくむさぼり食ってしまう。
(略)
 「アメリカが自らあのふたつのタワーを破壊したと考えるような人々は、頭がどうかしてるね。
(略)
アラブの指導者たちの素顔を暴く戦争にアメリカを誘い込むために、アメリカに対して打撃を与えなくてはならなかった。(略)異教徒と同盟してためらうことなく別のイスラム教徒に軍隊を差し向け[る首長たち](略)あの光景に接したイスラム教徒たちは、欧米が自分たちを巧みに仕組んだ隷従状態に、すなわち少数の大統領や、事実上アメリカに買収された国王の支配下に置いていることに気づき、そんな欧米の作り上げた世界の偽善性を自覚した。というわけで、9・11を実行したのがアルカーイダであることは紛れもない事実だ。疑う人間がいるとしたら夢想家か、よほど思慮の足りない者だろう。
(略)
よく聞いてほしい。アル・バグダディたちは恐るべき敵だ。イスラム国がすぐに消滅することはない。しかし10年後、20年後にはもうなくなっているだろう。それまでには多くの血が流される。シリアをはじめ、イラクでも欧米でもね。イスラム国は遅かれ早かれきみたちを襲う。フランス、イギリス、アメリカをはじめ、世界のいたるところに信奉者がいる。これから数年間は誰にとっても困難な歳月となる。だがその歳月はイスラム教徒の役に立つどころか、むしろ逆だ。アルカーイダの行動は行き当たりばったりのものではなく、緻密で熟慮された戦略に基づいている。(略)だがイスラム国は、武力と恐怖政治だけでどんな障害も乗り越えるつもりでいる。そんな考えは間違っている。いずれにせよイスラム世界の人間は、自分たちの誤りを自覚するまでにこれからも大量の犠牲者を出すだろう。彼らのためにアルカーイダができることは何ひとつなさそうだ。アメリカがわれわれをこんなに恐れる理由がわかるかね? まちがってもテロのせいではない。時がたつにつれて、われわれが真のイスラム教を核としてすべてのイスラム教徒を味方につけるだろうということがわかってきたからだ。アルカーイダにはそれができる。イスラム国にはできない。
(略)
[アメリカの]目的はこの戦争のあとイスラム教徒が何ひとつ信じられなくなるようにすること、そして90年前からそうしてきたように、ふたたび欧米におとなしく従うようにすることだ。いまの状況を見るがいい。きみたちの空爆は観客を喜ばせているだけではないか。アメリカはイスラム国がいっそう繁栄して、アルカーイダを地上から消してくれることを願っている。
(略)
[ISを逃れてアルカーイダに参加したアブー・ムスタファの証言]
 「わかっているのは、遠くからカリフと支配機構を操る、正体の知られていない人物がほかにもいるということだけだ。それはアブー・マリアが言うようにアメリカ人なのか? あるいは、サラフィー主義者を道具として使いながら少しずつ権力の座に返り咲こうとしている旧フセイン政権の元幹部なのか? あるいはまた、裏工作をする外国人か? この問いにはっきり答えることはできない。だがいずれにせよ、イスラム国を動かしているのはアル・バグダディではないのだ」

イスラム国の元首長アブー・ムスタファ証言

 「アル・バグダディは自分を頼もしく見せるためにイスラム教を利用する。真のカリフ制国家では、裁判官は至高の権威だ。(略)したがって裁判官は社会の中心的役割を担わなければならない。政治指導者の決定に注意を怠らず、その決定がイスラムの法解釈を遵守しているかどうかを検証しなければならない。つまりアル・バグダディが裁判官に従うべきであって、その逆ではないのだ。ところがイスラム国では、裁判官は、軍隊と情報機関の決定を正当化する任務しか持たないただの従僕になり下がっている。(略)だから私は彼とは袂を分かったのだ」

恐怖政治に仕える司法

 司法による恐怖政治は入念に作り上げられた組織を中心になされる。どの町にもいろいろなタイプの裁判官を擁する組織があり、宗教警察が彼らの活動を統率する。裁判官は、第一に秩序を維持し、第二に抵抗勢力を抑え込むことを使命としている。どちらの使命を遂行する場合もシャリーアを利用し、反抗的な者を懲らしめて、権力の強さと残酷さを人々の心に刻みつける。第三の使命は、軍隊をはじめとする他の行政機関が権力を乱用した場合、それがつねに“イスラムの教えにかなっている”ことを法律上の表現で公式に認め、その行為の本質を覆い隠すことである。後述するように、こうした手段で隠蔽されることで、誰ひとり声を上げる者もなくきわめて残虐な行為が繰り返されていく。
(略)
イスラム国は全域にわたっていろいろなタイプの裁判官を置き、住民に対する確固たる警戒網を敷いている。(略)
[筆頭はカーディー・ヒスバ(市場の裁判官)]
「彼らは司法組織の最下層にいる男たちだ。教養やイスラム法の知識よりも、意欲と残忍さが採用の基準になっている。
(略)
市場の裁判官は刑罰を“現場で”実行する。告訴や逮捕の手続きはない。程度に差はあれ、厳しいばかりの体刑があるだけである。(略)ヴェールで覆っていない女は鞭で数回打たれ、警告を受ける。口論やもめ事は(略)広場またはトラブルが起きた場所で、何十回も打擲される。
(略)
市場の裁判官は、神の法が支配する国に見せかけたイスラム国の補充兵であり、抑圧の最前線に位置する。シャリーアの一貫した適用を謳ってはいるが、彼らの任務の本質は住民を緊張状態に置き、それを保つことである。住民をおびえさせ、どんな規律違反をする勇気も持てなくなるほどに。

解説:高橋和夫

[独自通貨がないので石油の密売で得た金はドルにするしかない]
イラクとシリアの通貨では価値が安定しないからである。そこではトルコの両替商が暗躍している。こうした活動の多くはトルコ当局の承認なしには――少なくとも黙認なしには、困難である。トルコのISへの関与を照らし出す記述である。
(略)
[空爆が限定的なのは地中海上の空母やペルシア湾岸からの出撃だから。トルコの基地を使えれば格段に容易になる。なぜトルコは許可しないか]
トルコがシリアのアサド政権を憎むあまりにISの成長を見逃してきたからだ。アサド政権と戦ってくれるのであれば、誰でも良しとする認識がトルコ政府にあったようだ。本書が詳細に語るISとトルコの「不適切」な関係は、そうした認識の政策面での反映であった。
 しかし、あまりに強大、凶暴になったISは、トルコにとっても厄介な存在になってきた。このままでは国際社会からの圧力は強まる一方である。トルコはISを切り捨てる方向に舵を切ろうとしているのではないか。

そして、空爆開始。
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