地平線の相談 細野晴臣 星野源

地平線の相談

地平線の相談

 

泰安洋行』パロディ表紙をめくると、各方面に受けそうなw二人の手つなぎ写真。いつまで残ってるかわからないけど、一応リンク。

「なるべく音楽の話をしない、くだらない話をする」というコンセプトなので、前半はあまり音楽の話はなし。
以下、表記のないものは細野の発言。

アホアホマン

[ファンに知的イメージを持たれて困るという星野の相談に]
頭のいい友だちを見てると、時々、バカなことをやるしかないみたいなんだよね。ウンチのついたパンツでテレビに出たりとか。(略)でも、僕はあそこまでしなくてもいいんじゃないかと思ってさ。頭がいいと思われてるんなら、それでいいじゃん。イメージを演じちゃえばいいんじゃない?

楽譜

[楽譜が読み書きできないという話から、昔、遅刻常習の細野がスタジオに行くと、「ベースが来ない」とイライラしてるオーケストラ一同が。席に着くなり本番開始]
すぐには楽譜を理解できないから、もうドキドキしちゃうんだよね。(略)
五線譜を目で追って、1、2、3、4……これはドだな、とかやっとわかる。ところが、いざ弾き始めるとすぐに思うんだ。なんて簡単な曲なんだろうと。もう、適当に弾けちゃうわけ(笑)。(略)
ちなみにそのレコーディングは、野口五郎さんの歌謡曲だったよ(笑)。

クリマスカード

[年賀状の話から、クリマスカードの話に]
20年くらい前かな。ヴァン・ダイク・パークスから、何年か届いたの。(略)
でも、返事をしないままにしていたら、次に会ったときに「ホソノは僕のことが嫌いなんだね」って言われちゃった(笑)。

役者

[星野がベッドシーンをやることになり、困ってるという話から、細野さんが『居酒屋兆治』に公務員役で出た時の話に]
僕が[酔ってくだを巻く]伊丹さんにキレると、後ろから高倉さんが僕を押さえて、「まあまあここはひとつ」って。それだけのシーンなんだけど、「もう二度とやらない」と思った(笑)。自分のミュージシャンとしての精神が破壊されるんだよ。かなぐり捨てないとできないから。だから、星野くんはすごいなあと思うんだ、両方使い分けてるわけでしょう。

事象の地平線

何年前だったかな。はっぴいえんどのトリビュートライブに呼ばれたとき、ちょうど、楽屋でスケッチ・ショウのマスタリング音源を聴いていたんだよ。現在の自分の作業を行いながら、袖からは、はっぴいえんどをカバーする歌声が聴こえてくる(笑)。(略)なにこれって感じだよ。過去の自分からすごく遠い場所まで来たつもりが、隣には、はっぴいえんどがいる。変だなあ、以前は直線的に物事が進んでいたのが、だんだんそうじゃなくなってきたんだなと悟ったんだ。(略)
星野くんは、“事象の地平線”っていう言葉、知ってる?(略)天体物理学の概念なんだよ。(略)ブラックホールの中に入ると、それ以前の物理法則が崩壊するじゃない? そこで起こることに関しては、科学者も研究のしようがない。その境目を、事象の地平線というんだ。(略)音楽の世界も、今、事象の地平線にさしかかっていると思う。シンプルに言うと、そこで面白いことをやり続けていないと、音楽なんてできないわけだよ。バンドなら解放できるけど、個人は解散できないから。(略)面白さは、常に自分の中に持っていなくちゃいけないんだけど、そんなの、意図的に持とうと思っても持てるものじゃないし、なくなっちゃうこともある。すると、すごく醒めた感じになっちゃうんだ。(略)
つい10年前までそんな気持ちだったんだし、あらゆる音楽はもう全部聴き尽くしたなって白けた感じだったの。ところが、それは無知だということが最近わかった。新しい音楽に発見はないんだけど、古い音楽には発見がいっぱいあるんだよ。これは“今までにはない体験”なんだよね。

音楽的統合失調症

細野 ニューヨークに行くと、上手いミュージシャンがうじゃうじゃいるわけ。(略)
[日本にも時間単位高額ギャラの上手いスタジオミュージシャンならいる]
ダビングするとまたいくらとかね。確かに上手いんだけど、そういう割り切ったやり方をされると、こっちもいわゆる仕事の気分になっちゃうじゃない?(略)だから、あくまでも仲間としてやれるミュージシャンがもっといたほうがいいと思うんだけど。(略)とにかく、ミュージシャンの層の薄さは悩みの種。そのことを考えると、僕らは、西洋を中心とする音楽文化の片隅にいるんだなあっていう気持ちになったりもする。(略)
たとえば、テレビでソウルの歴史を紐解く番組を放送していたりするじゃない?でも、公民権運動のこともよく知らない自分は、その成り立ちの部分とは関係がない。(略)連綿と続く黒人音楽からこんなに影響を受けていながら、自分の人生自体には関係がない。そうしたら、“関係ない病”に陥っちゃったんだ。(略)
悲しいとかいう感情の問題じゃなくて、事実、関係ないところでやってきたんだなって現実を再認識した。
(略)
洋楽の誰それがカッコいいとか、そういう流れで来ちゃったわけ、日本のロックは、はっぴいえんどはちょっと外れていたけど、基本的には同じ。唯一、YMOだけは「関係ない」を意識してやり出したんだよ。(略)クラフトワークを聴いて、「ヨーロッパの深い伝統から生まれてきた鋼のようなコンセプトにはかなわない。だから僕らは紙のように軽薄でいいや(笑)」と思ったの。開き直り? それが、まあ、よかったのかな。(略)
原点にはどうしても戦争があるんだ。敗戦で進駐軍が来て、そこから今に至るから。戦後2年経って生まれて、知らない間にアメリカ文化を刷り込まれた。でも、それってルーツのある文化じゃない。なんて言ったらいいんだろう……“音楽的統合失調症”って呼んだらいいのかな?
(略)
星野 (略)ひとつのジャンルを真摯に追いかけてる人は「ホンモノ」と呼ばれますけど、あまり納得がいかなくて。俺は、一見様々な音楽をつまみ食いしてるように見えるけど、その人でしかありえないような表現をしている、なぜか専門家や批評家の方からはニセモノ、軽薄と呼ばれてしまっている人のほうが好きだったりします。
細野 僕もそうなんだよね。あのホンモノじゃないモノに惹かれてしまう(笑)。

ベース

[中1の時、友達三人、ギターでユニゾン]
僕はみんなのチューニング係をやってたわけ。全員リードをやりたがるから、自分はサイドに回ってね。みんなが下手糞なリードをやるのを、厳しい目で見てた。(略)誰もベースを弾きたがらないんだ。(略)
ベースをやると職種が変わる。シンガーじゃなくてミュージシャンになっちゃうんだよ。だから僕は、歌い出すまですごく時間がかかった。ベースをやってると、歌うなんてことは考えたこともなかったから。

細野さん、乙女心に目覚める

[映画『グーグーだって猫である』の音楽を担当し、遅まきながら大島弓子にはまる]
僕ね、大島さんの世界に触れてから、自分の中に今まで放っておいた乙女心が急に姿を現してきたんだよ。(略)
ずうっと放ったらかしにしてたから、僕の乙女心は全然ナイーブすぎるの。ヘナチョコなんだよ。だから、大島さんの漫画を読んで乙女心を勉強してるんだ。(略)
60になっても、自分の中にはまだ知られざる弱い部分があることがわかってきた。最近、プライベートな場面で、放ったらかしにしておいたその部分を使う必要性が生じたんだ。恐れおののいている自分に出会ったよ。
(略)
[別の回で、もう少し詳しく話をと言われ]
「自分がいかに乙女じゃないか」ってことがハッキリしただけでね。女性はいくつになっても、したたかに、柔軟に生きていくじゃないですか。乙女の延長線上にそういう生き方があるんだよ。ところが、男は僕らの年代になると、たとえば、会社をリタイアするなり、男社会の競争原理から放り出される。そうなると、家庭で厄介者扱いになっちゃうんだよ。男は、乙女の詳細を学ばなきゃ、楽に生きていけないってことがわかったんだ、この年になってね。

小学生の頃の不思議体験

たとえば、夜中にみんなが寝た後、子ども部屋でひとり机に向かって勉強してるじゃない。そうすると、静けさがその空間に蔓延していくわけ。やがて、鉛筆を走らせる音が部屋いっぱいに響いたりして、なにか恐ろしい感じがヒタヒタと広がってくる。そのうち、ちょっとした音がダンダンダンってフィードバックするようになる。そういうときは、自分の手が部屋いっばいの大きさになっちゃうんだ。(略)
あの感覚が、今の自分にはもう一切なくなったのが少し残念なの。
(略)
そういえば、風呂に入るたびにのぼせて、シューンって耳鳴りがしたりもしたなあ。ものすごいホワイトノイズの大音量が脳の中で鳴り響くんだよ。そして、それがフィードバックして無限大になってく。

[星野がAVの話を振り]

細野 最近、エロスは追求してないなあ。(略)
ところで、なんであんなに可愛い子たちが、たくさんAVの世界へ行くの?
(略)
(恵比寿)マスカッツは明るいよね。AKBより明るいし、全然、面白い。
(略)
[女優では誰が好き?]
星野 つぼみ、成瀬心美……選べないっす!
細野 全然知らない。今度、観てみようかな。

怒る

星野 細野さんは、これまでたくさんのバンドを率いてきた中で、怒ったりした経験はありますか?
細野 バンドでは怒ったことないなあ。特にYMOの末期は、怒る以前の問題がいっぱいあったんだ。忙しすぎてメンバー同士が直接会えないとかさ(笑)。問題が多すぎて、怒るより考え込んでた。(略)
怒るのはね、やっぱり本人が目の前にいないとダメだよ。面と向かって怒らず、いないところでいろいろ言ってたのが間接的に噂の形で伝わると、問題がさらにこじれる。(略)
でも、いざ当人を目の前にすると怒れないんだよねえ(笑)。

プロデューサー感覚

星野 CDのジャケットやデザインコンセプト考えたりするの、すごく好きなんですよ。細野さんって、音楽にまつわる音楽以外のクリエイティブな作業って好きですか?
細野 ものすごく好きだね。
星野 PVなんかも、ご自分でアイデアを出されたりしてましたもんね。
細野 うん、そういうの、ものすごくやりたいんだよ。ただ、気持ちのエネルギーは星野くん同様に強いんだけど体が動かない(笑)。
(略)
出来ることは、せいぜい全体の3割3分3厘ぐらい。実は、YMOの初期は、音楽自体は他のふたりに任せて、僕はその周りを固めてたんだ。グラフィックとか、コピーライティングとかね。(略)最初の2、3枚はそうだった。『BGM』までかな。その後は燃え尽きたんだよね。(略)
[音楽の周囲を固める作業は]好きだったね。ただ、はっぴいえんどに関しては松本(隆)くんのビジョンが強かったから彼に預けたけど。『風街ろまん』とか、世界が出来上がってたから。

星野源雑談集1

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