海賊と資本主義・その2

 前回の続き。

リージョン・オブ・ザ・アンダーグラウンド宣言文

(略)
こんな狂気はもう終わり
情報は自由を求めていない
そもそも、最初から自由だから
誰も情報を止められない
一つの思考を排除しても
幾千もの思想がまた現れる
抵抗しても無駄さ
(略)
君は震え、すべてをコントロールしようとする
でも、ボクらの世界をコントロールするのはボクらだけ
イデアもあるし、キーも保存している
死者ばかりが目立つデジタルの世界で
ボクらは神にむかって道を登っていく
(略)

国家の市場独占

 独占市場に関連して設けられたこれらの基準、そしてこれらの基準をもとにテリトリーを管理するための機関が、どれも当時初めてつくられたばかりのもの、新しいものであったというのは重要なことである。何しろ、アムステルダム証券取引所の開設は1611年、シェンゲンの軍事アカデミーが設立されたのが1616年、リスク計算に基づいた賠償保険が発達したのは、17世紀も後半に入ってからなのである。
 こうして、その後、200年にわたって貿易は政府系機関の独占状態におかれた。
(略)
資本主義の黎明期は、国家の市場独占によって始まり、それがグローバリズムの嚆矢となったことに間違いはないのだ。


 「海賊は、国から優遇されていた者たちを目の敵にしていた」とクリストファー・ヒルは書いている。実際、海賊たちは、自己責任でリスクを背負い、自分たちの基準に従って行動を起こし、それによって得た利益もまた自分だけのものとする「自由な取引」を標榜していたのだ。近代において、独占市場とは、民間人を市場から追い出し、すでにある程度の実績を築いていた貿易商たちを多少時間がかかろうとも全員破産させ、国家と公社が特権を享受することだった。
 その結果、次のような現象が生じる。一つは、違法と知りつつ独自のルートを開拓することで独占化に反抗しようとする行為、もう一つは独占化された流れから「横取り」すること、つまり商品を海上で略奪することによって利益を得ようとする行為だ。国家権力の側から見れば、どちらの行為も「海賊行為」ということになる。このように、17世紀、海賊が隆盛を誇ったのは、国家による市場独占があったからこそなのである。

特許海賊

 現代の海賊的トロールは、個人の特許保有者や、倒産寸前の企業を狙う。安値で特許を買い取り、それを元手に、大型船舶、つまりは巨大国際企業を攻撃するのだ。彼らは、脱テリトリー化された所有権の海を渡り歩き、特許保有者にとって最も有利な場所を選んで、攻撃を仕掛ける。高額の賠償金に魅力を感じて集まってきた弁護士と手を組み(略)自分たちが保有している特許技術が使用されたと思われる商品をみつけ、「販売停止」を申し立てる。請求する金額も決して小さくはない。NTPに訴えられた、ブラックベリーの製造会社リサーチ・イン・モーション社が、6億1250万ドルを支払い、示談に応じたことは記憶に新しい。NTPは小さな特許専門会社だが、小型端末ブラックベリーの製造に必要な特許を五件、握っていたのである。
(略)
[大企業は海賊をこう批判する]
こうした海賊的トロールは、技術革新を妨害するものであり、特許保侍者が自分の発明プロセスを公開することによって本来、得るはずだった社会的評価をも奪うものである。彼らの言い分が正しいのなら、パテント・トロールの主張は、多くの人々にとって不利益なものということになる。だが、果たして本当にそうなのだろうか。
(略)
特許を認可する公的機関そのものが、すでに存在する特許を把握しきれておらず、攻撃の標的となる企業に対して助言することができなくなっているという実情がある。実際、訴えられた企業は、特許保有者の標的にされることなど考えもせずに技術を使用し、製品をつくっているケースがほとんどである。海賊的トロールは、国家、もしくは複数の国家から成る公的機関(アメリカのUSPTOや欧州のOEB)が、急増する特許出願の処理に追われ、管理が行き届かなくなっている状況を利用していると言えるだろう。
(略)
[大企業は海賊を]権利所有者の名目で、寄生虫のように利益を吸い上げるだけの非生産的な存在だというのだ。一方、海賊組織の側は、大企業が互いにライセンス料を相殺することで、先進技術による利益を独占していると主張している。また、研究機関(主に大学の研究室など)が、企業に自分たちの開発した技術の権利を委譲すること自体は、以前から行われていることであり、法的にも認められているというのが彼らの言い分である。


本当の意味で自由な市場、健全な競争を実現しようとしているのは大企業のほうだろうか、海賊組織だろうか。不透明なかたちで協定を交し合い、お互いの特許を融通しあう大企業。(略)今も昔もカルテルという形で横のつながりを保ちながら、高品質の商品を大量生産し、消費者に提供してきた。
(略)
このグレーゾーンにおいて、国家の介入はどうあるべきなのだろうか。


 アメリカにおける判決結果を見る限り、政府が海賊的トロールの味方ではないことはすでに明白である。これまで、「特許保有者の権利」に配慮しなかったことは被告側企業の落ち度とされていた。だが、2007年MedImmune社が大手ジェネンテック社を訴えて以降、原告側、つまり海賊的トロール組織の側で、被告となった企業が、「不注意により」特許保有者の権利を知らずにいたことを証明しなくてはならなくなったのだ。
 さらに最近では、特許技術の必然性を証明しなくては、裁判そのものが成立しないことになっている。米Teleflex lnc.がカナダKSR Internationalを訴えたケースでは特許の中に、科学分野では周知の技術の組み合わせが含まれている場合、被告企業がまったく同じ組み合わせでその特許を使用していない限り、原告側にその技術の使用を停止させる権利を認めない、という判決がなされたのだ。
(略)
 1858年、パリ宣言で海洋における統治権が定められ、欧州列強のあいだに合意がなされた。実際のところ、この協定は、最も強い国家、つまりは、巡回用の船隊や、有力な商社を保持していて自由な商売が可能な国、もしくは、他国の同意なしに軍艦を派遣できる国が最も有利となるものだった。これと同じ状況が21世紀にも繰り返されている。規格化のプロセスが進化を遂げ、所有権の保護が強化された。これによって、海賊組織が登場する下地が用意されたのだ。製造業における市場独占が法的に難しくなった結果、今度は技術特許の使用権という無形資産の専有をめぐって、経済界、そして海賊組織は動き始めたのである。

シャーマン法が合併促進

[1890年制定の反トラスト法]シャーマン法は、企業、州立機関のあいだの正当な競争を阻むような協定、協約を禁じた。だが、同じ州内における企業間の協力や合併などは、禁じられていない。(略)皮肉なことに、州をまたがったカルテルを抑止する効果はあったものの、この反トラスト法を契機に合併やホールディング会社が増加したのは事実である。このような動きは思わぬかたちでアメリカ経済の統合を促し、地元の数社で利益を独占する現象が各地で見られるようになった。
 こうした例を見ていると、いとも簡単に競争ルールが改変されてきたことがよくわかる。(略)法制度や定められたテリトリーに不満を感じる者が「海賊化」することはこれまでの歴史と同じだ。
(略)
州をまたがった価格協定を禁じるシャーマン法が施行されると、価格競争は激化し、銀行側も企業に合併吸収を推奨するようになった。(略)その結果、地域的な独占体制が各地に点在することになったものの、自由競争の名目は辛うじて維持されたのだ。
 同じ頃、発展途上にあったアナログ通信においても、AT&T社の利益独占が進行していた。(略)シャーマン法をたてに、アメリカ政府は、AT&T社を国有化しようと試みた。(略)
 シャーマン法に抵触するのを避けるため、AT&T社は、その後ローカル市場を独占している企業と地方ごとに協定を結ぶという戦略に出た。そうすることで、同社は、各地で利益を独占する地元カルテルのなかに入り込み、価格協定を結ぶことに成功したのだ。やがて、当然のことながら、こうした独占化に対抗するべく、電話海賊、「フォーン・フリークス(電話ハッカー)」と呼ばれる者たちが登場する。(略)100年間にわたり、AT&T社の電話回線を不正使用してきた人たちのことである。その全貌はいまだ明らかにされていない。
 不正使用の方法として最も有名なのは「ブルーボックス」
(略)
[海賊組織は]時代ごとに変わる所有権の定義や、利益独占システムに反抗すること、時には産業のリーダーを装って発言することで彼らの存在はその時代の「経済」を変えていく。
 たとえば、1870年から1970年にかけて、アメリカでは、資本主義経済が栄華を誇ったが、その内側では、経済界を代表する有力者たちが、囲い込まれていないテリトリーを略取し、わずかなパンを与えるだけで人材を確保し、土地や石炭、鉱山を支配していたのだ。次々と変わっていく法制度に順応しながら、西部の開拓を進めていった彼らのことも海賊的存在と呼んでいいのではないだろうか。やがて、規格化の過程で、海賊組織の行為、そしてその存在意義を真っ向から否定する動きが現れる。シャーマン法や、1995年の電気通信法のように、カウンターをゼロに戻し「仕切り直し」を強制する法律が施行され、合法的利益と違法営業の線引きが新たに定めされるのだ。だが、それでも海賊は生き残る。実際、海賊的存在だったものが、今や堂々と独占市場の主になっていることもあるのだ。

おわりに

 東インド会社は、完全に消滅するまで、実に100年もの間、少額ながらも秘かに損失を蓄積していた。必ず儲かる公式など存在しないのだ。17世紀の海賊組織は、現行の商業取引に変化をもたらし、船舶という小さな社会を民主的に統治してみせた。(略)
 海賊という現象を法的な視点から分析し、彼らを犯罪者扱いしたところで、彼らに経済を変える力があることは確かであり、またその存在が消えることもない。
(略)
かつての私掠状のように、国家と海賊組織のあいだに何らかの「橋渡し」を可能にするシステムがあれば、国家の中枢に直接彼らの価値基準を持ち込むことが可能になり、海賊組織の提案する新しい価値観が比較的速やかに中央まで浸透することもありえる。

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