- 作者:江馬 一弘
- 発売日: 2014/07/10
- メディア: 新書
物質は光に「出会う」ことで命をもらう
「真空の宇宙空間では、目の前を通りすぎる光線が見えることはない」(略)
[暗い部屋で見える光の筋はほこりや水滴に光が当たって「散乱」している様子で、光が見えているのではない。真空には光を散乱させるものがないので光は見えない]
(略)
光は、自分一人では何もできないし、何の現象も起こしません。
光がほかの物質と出会うことで、初めて「何かが始まる」のです。
何だか、人間と似ていますよね。
(略)
光は自分一人では何もできないのですが、物質は光に「出会う」ことで命をもらうのです。つまり「すべては光から始まった」ともいえます。そして実際、地球上にあるエネルギーの大部分は、太陽の光から生まれています。
(略)
[20世紀は電子の動きを制御するエレクトニクスの時代だったが、21世紀は光子の動きを制御する「フォトニクス」の時代。太陽光発電は光を電気に変え、その電気を再び光に変えるという「無駄」がある。光を大量に蓄えることが実現できれば、それは電池ならぬ「光池」とでもいえる夢のテクノロジー]
電子レンジ
中間の振動数の電磁波が来ると、どうなるでしょうか。つまり、まわりを引きずりながら向きを変えなければいけない振動数のときです。このとき、水分子は電磁波の振動より少し遅れて回転します。この「少し遅れる」ことが、一種のブレーキ(摩擦)の役割をはたすために、水分子は熱を出します。こうした効果をもたらすのが、電子レンジのマイクロ波の周波数に相当するのです。
かなり難しかったと思いますが、電子レンジの加熱のしくみは、水分子単体の固有振動数を使った「共鳴」ではなく、多数の分子がまわりを引きずりながら向きを変えるときの特別な揺さぶりかたを利用している、ということを理解してください。
ちなみに、テレビのBSデジタル放送の電波(マイクロ波)の周波数は約12ギガヘルツ前後です。BSの電波も水分子を加熱させる働きをもち(ただし電波が微弱なので、雨粒の温度はほとんど上がりません)、その結果、電波は水に吸収されます。大雨が降ると、BSテレビ放送にノイズが入ることがあるのは、これが原因です。
光の性質
光は波としての性質と、粒としての性質をあわせ持つ、不思議な存在なのです。(略)
光にまつわる興味深い現象は、光が「波でもあるが、粒でもある」という二面性をもつことから来ていることを、頭に留めておいていただけたらと思います。
太陽電池に使うシリコンは純度99・9999%が求められており、生産が追いついていないのが現状です。(略)
したがって、シリコン以外の材料を使って、現在よりもずっと安くできる、しかも発電効率の高い太陽電池を開発する必要があります。(略)
通常の太陽電池は、赤外線領域の光をあまり利用できていません。太陽光に含まれる、あらゆる波長の電磁波のエネルギーを電気に変えられる太陽電池ができれば、発電効率は格段に上がります。
((略)よく「太陽光の強度のピークは、緑色の可視光の波長部分にある」というグラフを見かけますが、これは単位波長当たりの強度のピークです。単位振動数当たり(あるいは単位エネルギー当たり)の太陽光の強度は、可視光よりも赤外線側に寄っているので、ここを有効活用する必要があるのです)
光学迷彩
[負の屈折率をもつ]メタマテリアルを使うと(略)物体の背後から来る光を迂回させることができます。こうした材料でつくった「マント」にあなたが身を包めば、観測者があなたの方を見ても、あなたの背後から来る光(つまり背後の景色)しか見えないので、あなたは姿を消すことができます。
ただし、現時点ではマイクロ波に対して負の屈折率をもつものしか実現できていません。これが可視光でできるようになれば、「ハリー・ポッター」や「ドラえもん」などでおなじみの、透明マントが現実のものとなるのです。
(略)
それをビルの壁面に貼ることで、電波障害を避けることができます。一方で、軍事方面に応用すれば、ステルス戦闘機のようなものもできるでしょう。
(略)
波長よりも小さな領域に光を集めることができないという「回折限界」の話をしました。ですが(略)
[メタマテリアル製の]完全レンズを使えば、レーザー光のエネルギーを完全に1点に集中させて、超高温を作りだすことができます。また、可視光の波長よりも小さな原子や分子を見ることができる光学顕微鏡もつくれます。電子顕微鏡では不可能な、生きたままの生物の原子や分子のようすを観察できるのです。
光池
半導体ナノ構造とは、光の波長より小さい100ナノメートル(1万分の1ミリメートル)程度のサイズを持つ、小さな半導体結晶のことです。(略)
半導体結晶の屈折率と配置のしかたをうまく調整すると、出ていこうとする光を干渉によって打ち消すような現象が起きて、光がぐるぐると回りながら狭い領域に閉じ込められるのです。配列を規則正しくすることで光を制御したものを「フォトニック結晶」といいます。(略)うまく制御することで、光を閉じ込めるだけでなく、特定の方向に進めたりすることもできます。
また、配列をランダムにすることでも、ある条件によって、光を強く閉じ込めることができます。こうした現象を「光局在」といいます。電子を狭い領域に局在させることは、1950年代から成功していました。それを光で行うものが光局在で(略)
現在は、光を閉じ込めておける時間はごく一瞬ですが、この時間を延ばすことができれば、光をそのままとっておくことができます。
励起状態で原子は興奮
[光物性物理学の育ての親・豊沢豊先生のことば]
「バランスの背後に隠された粒子間の激しい力の葛藤など知る由もない」
この静寂状態にある物質に、光が入射すると、大変なことが起こります。光を受けた電子が振勤し、外側の軌道ヘジャンプし(励起状態)、原子は興奮し、原子同士・分子同士の結合状態が変わります。かりそめの静寂は破られ、物質は本来の激しい姿を見せるようになります。そのことを、豊沢先生はこう述べられました(略)
「物質の本性は、そのバランスが失われた励起状態によって初めて明らかになる」