世界は貧困を食いものにしている・その2

前回のつづき。

世界は貧困を食いものにしている

世界は貧困を食いものにしている

 

転換はマイクロファイナンス業界の術策

 LAPOは何年もNGO(非政府組織)から私企業に転換すると言っていて、そうなれば外部の株主が必要になり、ローンの原資を提供しているファンドは当然頼られる人たちであり、トリプル・ジャンプはよだれを垂らすことになる――ナイジェリアのように大きい国でこれほど高収益の会社の株式を取得するのは、理想的な話である。
 転換もまた、あまり公にされていないマイクロファイナンス業界の術策である。MFIはたいてい、慈善団体、NGO、あるいは非営利団体として始まる。このことは二つの目的に好都合だ。第一に、支援組織や慈善団体のような機関からお金を調達できる。というのも、そのような機関はたいてい非公開株式会社に投資することを許されていない。第二に、たいていの法域において地元の税金を払う必要がない。年末にはあらゆる利益をMFIに再投資することができる。
 それでもスタッフは給料をもらっていて、とくに経営陣はかなり気前のよい額を受け取る。
(略)
その差額1200万ドルあまりが自己資本、つまり会社の正味価値である。
 MFIは数年のあいだ慈善団体として運営され、かなりの額の自己資本、つまり純資産を蓄えてから「転換」する。この時点で株式を発行し、民間企業になるのだ。慈善団体に提供された基金は転換の時点で消えるわけではなく、株主のあいだで分配される。したがって、慈善団体に「オーナー」がいないと言うのは正しいが、だからといって、分け前を受け取ることによって転換の利益を直接享受するオーナーが、絶対に生まれないわけではない。LAPOの場合、株式の12%はCEOであるわれらが友、ゴッドウィンの手に直接渡る。

現状を看過するなら告発すると上司に言うと、給料二倍で顧問契約を提示されて、それを拒否すると著者は解雇され裁判に。その課程で判事はLAPOの実態が著者が主張する通りのものであるとし、勝訴。

 格付け機関は自分たちの仕事をしていた。(略)ファンドのほうが格付けを読まなかったか、あるいは内容を気にしなかったのだ。(略)
 マイクロファイナンス格付け機関は、だいたいのところ透明性の府であり、尊敬に値する。(略)
インドの過剰負債についても、ニカラグアの多重債務についても、LAPOのような個々のMFIによる搾取的なやり方についても、警告を発していた。しかしこの情報にもとづいて行動すべき人たち、つまりマイクロファイナンス・ファンドには、ちがう――まったくちがう――動機があるのだ。

モンゴル

マイクロファイナンスに幻滅を感じている人は、モンゴルを訪ねるべきだ。(略)
マイクロファイナンス業界はきちんと規制されていて、競争も多い。規制当局による監督が行き届いているおかげで、年間の金利は30%を超えない。モンゴルの運営経費は非常に高いが、それでもMFI(マイクロファイナンス機関)はそこそこ利益を上げている。(略)
かりにもこの国の業界がうまく回っていることを考えると、たとえばメキシコのMFIが、経費をまかなうために100%以上の金利を課す必要があると主張していることに、疑念がわいてくる。モンゴルよりもメキシコで事業を営むほうが、本当にそれほど高い経費がかかるのだろうか? 私は両方の国でかなり長い期間暮らし、仕事もしていたが、その証拠は見当たらなかった。
(略)
[顧客]のほとんどが、最高のマイクロファイナンスとはこういうものだという実例だった。つまり、自分の商売を広げるための固定資産を買うためにローンを使っている、純粋な起業家なのだ。内部告発では業界の浅ましい側面ばかりを見ていたが、模範例にはプラスの効果があることを目の当たりにすると、精神的に元気づけられた。

Kiva、P2Pの落とし穴

従来のマイクロファイナンス・ファンドとP2Pの大きなちがいは、取引の規模と、それぞれのウェブサイトに掲載されている写真の数だけだ。キーヴァなら25ドルを投資することができる。(略)
[ファンドでは何十万ドルからになる]
P2Pは、これまでマイクロファイナンスに投資することなど考えたこともなかった人たちから、かなりの額のお金を集めることに成功し、そのおかげでこの業界が庶民にとって具体的なかたちとなり身近になったが、落とし穴もいくつかある。(略)
 キーヴァの借り手が全員本当に存在すると思っていいのだろう?(略)
一人のキーヴァンが、ローンを申し込んでいる別々の二人の借り手の写真が、同じヘアサロン内のほぼ同じ写真であることに気づいた[しかも撮影時刻はわずか55秒違い]。(略)
 キーヴァン自身は利益を手にしない。キーヴァはかなりの収入を得ているが、その出どころはMFIではなく、むしろ寄付と利子である。MFIはキーヴァから無利子の資本を受け取り、それを通常の利率で貧困者に貸す。お金の出どころがキーヴァであるにもかかわらず、貧困者にとって金利条件は有利にならない。
(略)
 そこで最後の疑問。キーヴァの返済率は? これこそが本当のミステリーだ。(略)[ニカラグアでは]延滞率0.57%、債務不履行率0%を誇っている――ほぼ完ぺきな数字だ。
(略)
 スナップ写真を撮り、ちょっとしたエピソードを書き、それをアメリカに送るための現地スタッフを雇うのには、それほどコストはかからないのだから、やろうじゃないか。P2Pは99%の返済率に満足し、私は(無利子の資本を手に入れて)満足し、P2Pの顧客は(世界を救っていることに)満足し、貧しい人は通常と同じローンを受け、たまに写真を撮られるほかはこのペテンに気づかない。
(略)
キーヴァはLAPOの利率は年にわずかに24%だと報告した。キーヴァは次の年、何度もこの数字を引き合いに出している。LAPOでさえもこれほど低い利率を主張していなかった。
(略)
キーヴァンに対して、単純にこう尋ねたい。「あなたは自分のお金を0%の利子で貸します。このお金をBRACが南スーダンの貧しい女性に貸して、88%の利子を懐に入れているのに、顧客がローンを返済しないリスクをあなたが負うことについて、どう感じますか?そんな金利でその女性が貧困から一気に抜け出すと、本当に思いますか?」

  • LAPO授賞

ニューヨーク・タイムズ』の告発記事で多くのファンドがLAPOから撤退したあと、シュワブ財団はアフリカ社会起業賞をLAPOに授与。財団理事会メンバーにはムハマド・ユヌスの名が。
「ノー・パゴ」

ニカラグラ北部の小さい村でトラブルが起こる。(略)
MFIが警察と協力して30人の[高い金利とローンに文句を言った]顧客を投獄させたことで、反乱が勃発する。昔からラテンアメリカでよく行われているように、顧客たちはパンアメリカン・ハイウェイを10キロにわたって封鎖し、街頭を行進した。ローンを返済しないと決意した顧客もいた。
(略)
 ハラパには、マイクロローンを60万ドルもため込んだ、とりわけ野心的な顧客もいた。何かおかしくないだろうか?
 ニュースはすぐに広まり、数週間のうちにこの動きが全国に広がった。政治家は難しい選択を迫られた。第一の選択肢は、貧困者の側について、思いきってMFIを破綻させ、その膨大な負債はジュネーブアムステルダム、ワシントンの愚かな外国人に負わせ、再選を確実なものにする。第二の選択肢は、MFIの側につき、スイス人やオランダ人や最愛のアメリカ人を守り、有権者を莫大な負債の奴隷にし、市民の不安をエスカレートさせ、票を失う。ファンドが驚いたことに、政治家は有権者の側についた。民主主義とは不思議なものだ。
(略)
運動は全国に広がるにつれ、「ノー・パゴ」つまり「私は払わない」と呼ばれるようになった。だまされて明らかに法外な金利のローンを果てしなく負わされた貧困者たちが、MFIと形勢を逆転させて、ローンの全額免除を実現するチャンスが訪れたのだ――クリスマスが早く来る年もある。MFIはパニックに陥り、ファンドは無力だった。
(略)
彼らはしっぽを巻いて投資家のもとに帰り、「発展途上国への融資に絶えずつきまとうリスク」について言い訳を始めた。投資家は、「貧困者」にお金を貸すとはこういうものなのだと思ってため息をつくばかりで、実際に行われていた愚行についてはよくわかっていない。スイス、オランダ、ドイツ、アメリカのファンドを規制する当局は、自国の市民の何千万ドルという投資が消え去ったにもかかわらず、当然のことながら何もしない。
(略)
 政府が新たな規制を制定しようとしたとき、一番うるさく批判したのは誰だろう? お察しのとおりマイクロファイナンス・ファンドであり、次がマージンの減少が迫るのに感づいたMFIである。強制的な金利上限と実質的な規制は、収益を限定し、自由市場をむしばむので悪だというわけだ。
(略)
[マイクロファイナンス・ファンドはニカラグアの新聞で公開書状を発表]
私たちはニカラグアの経済発展を支援することをもう一度約束し、困窮している市民のための業界への資金の流れを危うくしないために、法律の確実性を保証することを国に求める。……」。書状にはいつもの疑わしい面々が全員署名していた。ブルーオーチャード、レスポンスアビリティ、トリプル・ジャンプ、ドイツ銀行、カルヴァート財団、そしてキーヴァ。例によって彼らの声明は、貧困者を助けるという社会的使命の実現に言及している。

ジニ係数

[マイクロファイナンスが押し寄せた間]ニカラグアジニ係数はほとんど変わっていない。この統計値は、社会における所得と富の不平等を測定する。貧困者はほかの国民と比較して、暮らし向きがよくも悪くもなっていなかったのだ。(略)
ニカラグアマイクロファイナンスの全面的な崩壊が起きた2009年までに(略)[ニカラグアは豊かさが世界で106位から]124位に落ちている。したがって、八年間でマイクロファイナンスは資源の再分配も、国民生活の質の改善もほとんどせず、実際にはほかのすべての国々と比べて18も順位を落としたのだ。これは単純化しすぎた例であり、決して総合的な分析ではない。しかしマイクロファイナンスが奇跡を起こすという主張に、疑いを投げかけるのは確かだ。
 同じ期間、マイクロファイナンス発祥の地であるバングラデシュも、同じくらい悪化している――同じ指標で、世界132位から146位に、14位下がっているのだ。

良心的マイクロファンド

 マイクロファイナンス業界全体が悪に染まっているわけでも、基本モデルに致命的な欠陥があるわけでもない。欲が深く、取り締まりがなく、他人のお金なら無謀に投資できて、動機が立場によってバラバラなせいで、業界の大部分が、実際の貧困削減効果を無視している。それが問題なのだ。
 実際に貧困者のためになっている見識あるMFIとファンドも、わずかだが存在する。(略)倫理的なファンドは確かに存在する――ただ見つけにくいだけだ。
(略)
本当に腐ったリンゴに対する批判によってマイクロファイナンス業界が評判を落としているかぎり、まともなMFIが苦しむことである。カゴごと捨てるよりも、腐ったリンゴを見つけ出して取り除き、残ったリンゴが同じ運命をたどらないようにするほうが賢明ではないだろうか?
誠実なMFIへの投資は貧困者に真の利益を(必ずしも奇跡的な利益ではなく、すべての顧客にではないが)もたらす可能性が高く、自分の資本を貧困削減に使いたいと思っている最終投資家の目標と、ことによると両立するかもしれない。

実際、大きな効果を上げられるかなりシンプルな金融商品があるのに、ほとんどのMFIは顧客に提供していない――それは借越限度額のある当座預金口座だ。
 週末に貧困者の手元にいくらかのお金が残ったとき、彼らはそれを当座預金口座に預けて、おそらくインフレ(物価上昇)をカバーできるくらいのささやかな利息を得ることができる。不足を補うお金が必要なとき、ローンを組む代わりに自分の口座から貯金を引き出せる。それで足りなければ借越限度額を使うことができる。余分な資金ができたらすぐに返済し、必要以上の利子を払わずにすませられる。かなりシンプルな商品であり、世界中の大勢の富裕層のあいだでは一般的だが、貧困者が利用できることはまれだ。