世界は貧困を食いものにしている

善意で貧困はなくせるのか? - 本と奇妙な煙
上記本は、「そんなにバラ色じゃないよマイクロクレジット、貧困は解決されてないよ」という論調だったけど、この本の著者は、「解決されてないどころか、収奪されてますよ」と糾弾している。内部告発して二回解雇されてるせいか、かなり挑発的なタイトル。

世界は貧困を食いものにしている

世界は貧困を食いものにしている

 

デビッド・コーテンによる序文

[著者]ヒュー・シンクレアが詳細に記しているように、多くのマイクロクレジット・プログラムは、社会的責任投資の機会の名をかりた略奪的な貸し付け詐欺にすぎない。
(略)
[アメリカから]投資されたドルは外国為替市場でルピーに両替され、インドの外貨プールに入る。外国でものを買うために外貨が必要な金持ちが、そのドルを手に入れる。貧しいマイクロローンの借り手はルピーを手に入れる。
 ルピーのマイクロローンにかかる利子はすぐにルピーで村を出て、全国的なマイクロファイナンス機関に流れる。その流出の一部はそのあとドルに両替されて、海外にいるアメリカの投資家に行く。それがインドの外貨準備流出の原因となる。流出額は、シンクレアが記録している金利と利益率からすると、もともと投資された流入ドルの数倍になる。このドル債務を支払うために、インドは海外に販売するものやサービスを生産しなくてはならない。あるいは、資産を外国人に売るか抵当に入れるので、生産高と実物資産に対する将来的な要求がさらに生まれる。
 クレジットによる短期流入と引き換えに、村や国としてのインドは、資産を要求されて長期的流出を余儀なくされる――外国の関係者とその現地共犯者だけが得をする、植民地化と富の集中という古典的なパターンである。
[一方、グラミン銀行場合、融資はおもにバングラデシュの通貨であるタ力の預金による自己資金でまかなわれている。(略)メンバーが経済的な資産基盤を構築できるように、手厚い金利で預金サービスを行っている。(略)
メンバーである預金者と借り手が所有するグラミンは、自身が貢献している地域社会に根差し、説明責任を負っている。地元の生産的取引を支援し、真の地域社会の富を築くために、利益と利子は継続的に地元で再循環している。]

著者による序文

[この十年でマイクロファイナンスは金融部門の隙間分野から700億ドル産業に成長した]
貧困者にとって非常に有益なマイクロファイナンスもあるが、宣伝係があなたに信じ込ませるような特効薬ではない。マイクロファイナンスは暴利をむさぼる人たちに乗っ取られているので、貧困者のために取りもどす必要がある。
(略)
ローンの契約書を読むことができず、署名の代わりに栂印を押す無力な貧しい女性に、涙が出るような金利を請求することによって、一握りの人たちが何千万ドルももうけるのは道義に反する。(略)借金を返済できない延滞顧客を自殺にまで追い詰めるのはちがう。(略)
現在マイクロファイナンス界に投じられているかなりの額の資本を賢く生かせば、貧困に対してもっと大きなインパクトを与えられるだろう。それなのに私たちは、一握りの人たちを富ませるお粗末な代用品で妥協し、大勢の人たちを、恩恵を受けるどころか返済することさえできない借金の奴隷にしている。

新たなゴールドラッシュ

[金融危機を引き起こした]サブプライム低所得者向け)など忘れよう――サブ・サブ・サブ・プライムのほうがはるかにいいし、しかも、[発展途上国には]消費者保護のようなわずらわしいものに目を光らせるうるさい規制当局がほとんどいない。新たなゴールドラッシュが始まった。
(略)
 19世紀初めにインドネシアが植民地だった時代、オランダ人は無秩序に広がる植民地のために金融サービスのシステムを開発した。それが現在のマイクロファイナンスに驚くほどよく似ている。ラヤット・インドネシア銀行(BRI)が正式に設立されたのは1895年で、BRIはいまだに世界最大ではないにしても世界最大級のマイクロファイナンス銀行である。
(略)
 この業界のいちばんの問題は、小口融資を受ける貧困層と、欧米のエアコンの効いたオフィスで業界を動かしている人たちとの、物理的なものにとどまらない距離である。
(略)
 私は彼らの小さい店を訪ねて、市場の動き、対決している競争相手、将来の計画などについておしゃべりするのが楽しかった。しかし、彼らが本当に必要としているのはクレジットなのかと疑問に思いながら帰ることも多かった。ささやかな教育、在庫管理についての助言、計画を現実にする方法に関する戦略的な手助け――そういうもののほうが年利60%の100ドルのローンよりもはるかに有用だが、そのような助けはほとんど得られない。

メキシコのMFI

マイクロファイナンス機関)にボランティアで採用された著者

 運営コストが高くなることもある。給料が大きな要素で、ローン係の給料は微々たる金額だが、経営幹部はたいていかなりの給料を稼ぐ。とくに配当金やストックオプションを与えられないNGOでは高くなる。(略)どういうわけかMFIは車が大好きで、とくに経営幹部のお気に入りは自家用に使われる。反射ガラスでロゴが側面に入っている大型のSUVが好まれる。
 オフィス、給料、車などの固定費が比較的高いせいで、MFIはそのコストをカバーするために、一定数の顧客を確保する必要がある。そしてこの損益分岐点にできるだけ早く到達したがる。この点に早く到達するためのいちばん明白な方法は、できるだけ高い利率でできるだけたくさんのローンを組むことだ。
 顧客から担保として貯金を獲得しているMFIは、それを新しい顧客に貸すことは許されず、返済が行われた場合に顧客にもどるよう、別の銀行口座に預かっておかなくてはならないのが普通だ。当然、このお金を銀行の当座預金口座にただ入れておくのではなく、新しい顧客に貸して、利子を何倍も稼ぎたいという誘惑がある。しかしそれをすることが合法かどうかは国によってさまざまであり、この選択肢はしばしば悪用される。

ザル会計

GTC(グラミン・トラスト・チアパス)の外部会計士は一般会計原則を守っていなかった。彼のバランスシートはめったにバランスがとれず、彼はしょっちゅうミスをして、経費を隠そうとする試みはずさんだった。3000ドルしかしない車一台の潤滑油とメンテナンスに8000ドルも使ったのは妙だとIDB(米州開発銀行)が気づくかもしれない、と私が指摘せざるをえない場面もあった。この高すぎる潤滑油の販売業者が、経営幹部の一人とも名字も家も、そしておそらくベッドも共有していたのは、たんなる偶然だ。GTCのスタッフや友人に実際に無利子で行われた融資の問題も油断のならないポイントだったし、ルーベンの父親に支払われたお金が不思議なことにGTCの負債リストに記載されていないこともしかり。その代わり、会計用語で言うとそれは寄付として処理されていた――返済されなくてはならないものだったにもかかわらず。グラミン・バングラデシュからの融資も、帳簿から消えていた。

出資金詐欺のようなもの

[第三のタイプの]MFIは融資をして、[担保として]いくらか貯金を集める。これを強制保証または強制貯金と呼ぶ。(略)
[それを悪用して]ほかの顧客に貸して、今度はその顧客に強制貯金を義務づける、というふうにピラミッドはどこまでも広がる。(略)
[MFIの運営に使ったりもする。どちらも禁止されているが、地元当局は見抜けないor看過する。強制貯金と自発的貯金の区別がつきにくいことも利用する]
(略)
ほぼ最初から、FCCでは何かやっかいなことが起こっていると思われた――親会社であるワールド・リリーフも知っている。
「FCCが新たな資金財源を利用できるようになるまで、事業の成長継続を維持するために、顧客の貯金から現金を使う必要がある」このコメントが私の頭から離れなかった。
(略)
 ある意味で、このような行為はバーニー・マドフの出資金詐欺のようなものかもしれない。新しい投資家がお金を注ぎ込み続けるかぎり、初期の投資家に払い戻すために利用できる資金はあるわけで、ダンスの勢いが落ちないかぎり、根本的なポートフォリオがどうなっているかを詳しく知る必要はない。
(略)
これはマイクロファイナンスの融資とよく似ている――顧客はローンを完全に返すまで貯金を引き出せない。引き出せるようになるまでに、新しい顧客が新しい貯金を提供していて、それが前の顧客の貯金払い戻しに使われるわけだ。ポートフォリオがねずみ算式に増え、運営コストが管理できるのであれば万事順調だ。しかし、マドフの基本的な投資があまりうまくいっていないことが明らかになったとき、あるいはMFIの運営コストが高くなってポートフォリオの質も量も低下したとき、問題は急速に危機的になる。潮が引いて、水着を着ていない人たちは全裸で立ち尽くすことになる。
 だから、一般市民からお金を集める機関すべてに厳しい規制が必要なのだが、そのような規制は発展途上国には存在しないことが多い。

FCCの内情を告発して解雇

私がいちばん懸念したのは、ワールド・リリーフ・ボルチモアが、着々と篤志家から資金を受け取りながらも、このMFIを統制できない、あるいは統制する気がないように思えたことだ。
(略)
何となく、ワールド・リリーフのようなキリスト教組織は、ほかのMFIよりもちょっとはましで倫理的なのだろうと思い込んでいた。顧客やスタッフを公正にあつかい、請求する利子も少ないと思っていた。だから、彼らが顧客の貯金、実際には彼らのものではないお金を使いこんでいるのを見て、ショックだった。本当の内部危機に直面したとき、彼らがもう少し前向きに問題に取り組むと信じていた。実際、私はキリスト教の機関のほうが、給料や高級車への関心がそれほど強くないと予想していて、逆だとは思っていなかった。
(略)
私はのちに、それが宗教的なマイクロクレジット組織すべての典型ではないことを学んだ。数年後、別の大規模なキリスト教マイクロファイナンス・ネットワークで働き、そこは正反対であることを知ったのだ――効率的で倫理的な機関が集まっていて、妥当な金利を課し、スタッフと顧客を尊重し、顧客の維持率も高く、明確な使命を持っている。

  • 今度はオランダのファンド、トリプル・ジャンプへ

 デューデリジェンスは、融資すべき新しい有望なMFIを探すときにファンドがたまに行うことのある予備調査に用いられる言葉である。その多くはヨーロッパとアメリカのエアコンが効いたオフィスで行われる。やることといえば、格付けレポートがあれば読み、なければたぶん要求し、二〜三時間インターネットで調べて、何本か電話をかけ、公表されているさまざまな情報源に目を通し、同じMFIに投資した可能性のあるほかのファンドとオフレコで話す。(略)ヨーロッパの年金受給者からお金を集めて、知名度の低いアフリカの国の小さいMFIに現地視察もせずに投資しているのだろう。 たとえ現地視察をしても、48時間以上いることはめったにない。(略)
 投資家が実際にMFIを視察することはほぼありえず、万が一視察するとしてもほんの短時間であって、MFIの計らいで投資家には「適切な」顧客が紹介されることを、ファンドは承知している。

LAPOの皮肉な実態

ナイジェリアのMFI
LAPO=Lift Above Poverty Organization
(貧困から引き上げる組織)の皮肉な実態

[顧客は申請額の20%を強制貯金させられ、利子は強制貯金分を差し引いた額ではなく、申請額をベースに計算される。返済に応じて利子は減らず、多くの国で禁止されている「定額金利」]
返済によって毎週ローン残高は減り、強制貯金によって毎週貯金残高は増え、ローン期間の31週のうちのほぼ7週間、顧客のローン残高よりも貯金残高のほうが多くなる。ローン期間の四分の一近く、LAPOが顧客からお金を借りているのであって、逆ではないのに、顧客は最初のローン全額に対する利子を毎週払い続ける。
(略)
ムハマド・ユヌスがまさにこの種のMFIを厳しく非難しているのに、米国グラミン財団はLAPOを熱烈に支持することによって危ない橋を渡っているように思えた。

明日につづく