鈴木敏夫インタビュー・その2

前日のつづき。

風に吹かれて

風に吹かれて

 

『おもいでぽろぽろ』

[公開に間に合わなくなり]
宮さんが企画者の一人でもあったから、主要メンバーを集めて大演説。しかも、それは怒りに満ちていました。『俺はこの映画でジブリをつぶさない。だから、高畑さん、絵の描き方を全部変えてほしい。今の絵の描き方をやっていたら、もう逆立ちしたって映画はできない』って、本当に怒った。みんな下向いちゃって。で、その直後に高畑さんが一人一人に『今までどおりでいいですからね』っていって回った。そしたらみんな怖くなったんです。つまり、高畑さんの意図が裏目に出た。その高畑さんの念押しによって、みんな速くなったんです。[それにより完成](略)
みんな高畑さんについていくのが怖くなって、自主性を持って頑張るんですよ」(略)
だって宮さん、そのときに僕も聞いたことがないぐらい大きな声だして。その日の夜はもちろんのこと、次の日になっても眠れなかったみたいですね。そのぐらい興奮したんですよ。

『海が聞こえる』

「やっぱり少し考えたんですね。若者に場を、チャンスを与えようと。(略)
ジブリをつくった目的は、宮崎作品をつくるためだったけれど、そうとばかりもいっていられない。だからやっぱり後進の指導にもあたろうとやってみて、その試みの中で、じゃあそれは成功だったのかっていうと……僕なんか、率直にいうと、やっぱりジブリ宮崎駿でいいんだって思ってしまった。だけれど、世間的には大きな評価を得ましたね。

平成狸合戦ぽんぽこ

あの作品はアニメーションを使った疑似ドキュメンタリー。どういうことかっていったら、要するに多摩ニュータウンというのはどうやってできたのか。一つの山があって、それを切り崩して住宅地にするなんていうのは、実は世界のいろんな歴史の中で、自然破壊の最たるものなんですね。
(略)
高畑さんは、タヌキを通じて、日本人っていうのは何なのかを訴えたい。そしてもう一個重ねたんですよ。あのタヌキの一人一人って、実は東映時代の高畑、宮崎、そしてその若き日の仲間たちなんです。だから、見る人が見るとね、あの映画って分かっちゃうんですよ。だから、まあ、正吉はね、いろいろあるでしょうけど、高畑さんなんです」
(略)
 「権太は誰あろう、宮さんなんですよ。最後、特攻隊で死んじゃうタヌキなんですけどね。だから宮さんなんかは、あの映画を見たときにもう途中から目を泣きはらしたんですね。だって自分たちの若き日が描いてあった。それと同時に今の日本人っていうのは、こうやって生きていけばいいんじゃないかという一つのモデルの提案でもあったような気が、僕はしているんですけどね

耳をすませば

[ずっと頑張ってくれた近藤に機会を与えようという企画]
「だけど宮さんというのは単に優しいだけの人じゃないから。要するに自分の描いた絵コンテで宮崎アニメはつくれるかという実験でもあったと思いますね、クールないい方をすれば。もしこれが成功していたら、その後、そのやり方を採ったかもしれない。やっぱりアニメーションの映画監督って体力勝負なんですよ。(略)宮さんと同等の力を持ちながら、それをやってくれる人がいたら宮崎作品は量産できたんですよ。(略)
彼が死んじゃったことが、ジブリの運命を僕は決めたんじゃないかなって思ってて。(略)
[もし近藤が元気だったら宮崎作品を量産できた]
宮さんはたぶん、『違う』っていうでしょうけれどね」

近藤喜文と宮崎の芝居の違い

宮さんのキャラクターっていうのは常に走りながら考えるんですよ。でも近ちゃんがやると考えてから動く娘になる。これはものすごく大きな違いになる。結果、何か起きたか。雫というのは品のいい子になった。でも、それは宮さんは嫌だったんですよ。(略)
壁にもたれかかってへたり込むシーンがあるんですよ。(略)パンツ見えちゃうんで、見えないように座るんですよ。つまり人の目を意識している。そのことによって何が起きたかといったら、つまり、自意識過剰な子なんですよ。誰もいないのに、人の目を意識したんですよ。近ちゃんはそんなことはまったく思っていなかっただろうけれど、エッチに見えるんですよ。これは面白いですね。宮さんだったら、さっと座ってへたり込んでね、パンツ見えちゃうんですよ。宮さんのほうがカラッとしてる。
(略)
[宮崎のこの作品への評価は]
「絵コンテを描いた人としてそのキャラクター像が頭にあるでしょう。自分がやったらこうなるっていうのと常に比較するから、それは宮さん、怒っていましたね。でも僕はそれは無理な注文だと思う。

[宮崎の絵コンテでは]雫の背の高さなんて、シーンによって違うんですよ。(略)例えば『もののけ姫』のモロっていうのは、登場するシーンによって、相当体の大きさの違いがあるんですよ。ところが近ちゃんという人は、まず背丈その他にちゃんと整合性を持たせるんですよ。しかも、宮さんとの最大の違いは、一見そうは見えないけれど、『耳をすませば』のキャラクターって全部立体的に描かれているんですよ。これは近ちゃんにしかできない。だからどっちかっていうとアニメーションとしては西洋型なんですね。宮さんが描くと平面なんで。だからマンガなんですけどね」

ジブリは結局、宮崎駿なのか?

 「『耳をすませば』を見ているときに、やっぱり宮さんの会社だと思いました。だって宮さん、許容量がない」(略)
「厳密というか許さない。(略)[『耳をすませば』の記者会見で]近ちゃんを真ん中にしてね、両サイドが宮さんと僕。これ、象徴的な事件なんだけれど、記者の質問に対して近ちゃんが答えた。それを宮さんが否定したんですね。近ちゃんが監督でしょう。あり得ないですよね」(略)
「これはつらかったと思う。でもよく頑張りましたよ、そういうことでは。よくも悪くも、宮さんはワンマンですよ」

もののけ姫

もののけ姫』のときの宮さんはすごかった。何がすごいかっていったらあれは新人監督ですよ。だって、いわゆるファンタジーで、空を飛ぶってことをやっていないでしょう。あれ、自分の得意技を封じたんですよ。自分の得意技を封じて格闘をやるっていう。『もののけ姫』は宮崎駿の集大成とかって、嘘ばっかりですよね。だって、とてつもない大きなテーマを抱えて、それを処理しきれない、まるで新人監督のようなつくり方。そのいら立ちが全編から漂っているでしょう。いわゆる作劇としては、熟練した人のつくるやり方じゃない。いら立ちが観客をも巻き込んだような作品だと僕は思うんですよ。集大成は『千と千尋の神隠し』のほう。あれは得意なことばっかりやっている。

となりの山田くん

MoMAジブリ全作品を上映したら、パーマネント・コレクションにと希望された歴史に残る作品は『山田くん』だった

猫の恩返し』と『ハウル

[『猫の恩返し』が水準に達していないとしてた宮崎が完成品を観て]
宮さんの第一声を僕は生涯忘れないですよ。『なんで森田[監督]にいまどきの娘の気持ちがよく分かってるんだ』って。これなんですよ。(略)
自分もそれにチャレンジなんですよ。だから、ソフィーのキャラクターをつくるとき、あの『猫の恩返し』の女の子がライバルなんですよ。それに勝つためにいまどきの娘を俺も描く、という。
(略)
[『ハウル』は]細田守君にやってもらおうと思っていたんですよ。だけど細田君って、東映動画っていうところで映画をつくってきた人でしょう。そうすると、やっぱりジブリの制作システムに合わなかったんですよ。だから残念ながら彼には降りてもらうというね、そういう事件を伴うんだけれど、実をいうとその後も僕、細田君とは付き合っているんですよ。で、彼は、そのことに対して二度と嫌だとか、そういう思いは持っていない。

ハウル』にみえる宮崎の恋愛観

少年だったハウルの童貞を破ったのは、荒地の魔女です。それが、ソフィーにいくわけでしょう、映画の冒頭。それを見た荒地の魔女が怒り狂って、おばあちゃんにしちゃうっていう話でしょう。
[そして、おばあちゃんに戻った荒地の魔女をソフィーが介護する]
(略)
宮崎駿の恋愛観が全部出てる。それが一番色濃い。だって、かつて自分の女だった人の面倒を見ろっていって、実際ソフィーは見ているんですよ。すごいよね。考えられないことをやらせている男の身勝手なんですよ。そこに宮崎駿の本質があるわけでしょう

ゲド戦記』のどこに激怒したか

宮さんは『ゲド戦記』に関して何を問題にしたかということ。内容は俺がやってもこうなったと。まったく変わらない。宮さんが問題にしたのは、作画なんですよ。そのまま真似するなと。怒ったのはそこなんです。それは当たり前なんですよ。だって宮さんのを下敷きにしてつくったんだから。『シュナの旅』が『ゲド戦記』の翻案なんですよ。だから、それをそのままやりたかったということなんですよ。(略)
俺がやってもこうなった。ただね、きついいい方なんですよ。人の真似するんなら、そのままやるなって。それは宮さんにとっては大問題なんですよ。分からないようにやれ。怒ったのはそれですね。分かります?(略)
ついでにいうとね、『シュナの旅』をそのままやれといったのも宮さんですけどね(略)
 「やっぱり息子もかわいいんでしょうねえ。僕のところへいいに来たんですよ。やり始めてすぐに。宮さんが『シュナの旅』をそのままやったらどうかって。宮さんという人はすごい人で、そういったことを自分が忘れちゃうんですね。それで、映画を見たときに『シュナの旅』だったから驚いている。なんなんだこの人は、と思って。自分でいったこと忘れてる、あれ」

『ポニョ』

宮さんって、ものすごく矛盾の人だなと思ったのは、要するに、アニメーションは子供のためにあるべきだと。それを『ポニョ』の前半はちゃんと達成しているんですね。ところが後半、おばちゃんが出てくるでしょう。そうすると突然、映画の雰囲気が変わるわけですよ。『ポニョ』って、彼岸と此岸の話でしょう。そうしたら彼岸の話をやりたくなる。書き始めたイメージボード、絵コンテはね、あっちの世界へ行って、その世界の人たちが何しているかにすごく時間を割こうとしたんですよ。そのときにポニョと宗介は置いてけぼり。これは驚きましたね。これは僕、身を挺して止めました。そのままやっていたら、そのシーンだけで15分くらいかかったかもしれない」(略)
「だって、じじいとばばあが集まって、かごめかごめが延々続くんですよ。だから僕は、老人のつくった映画だと思った。この間、『風立ちぬ』が映画できたばっかりのときについ口が滑ったんですよ。僕は『ポニョ』は嫌だったって。

他に「Cut」での過去のインタビューが再掲されています。ジブリ以外の話題のところから少し引用。

庵野秀明を語る』

道場破り

彼は『ナウシカ』と宮崎駿が大好き。だけど『ナウシカ」で巨神兵を描いて以降は参加しないんですよね。ところがしばらく経って、『火垂るの墓』と『トトロ』をやってるときに、今度は高畑勲のところへ現れて、俺を使わないかと。(略)終わったあとでね、『これで大体、高畑・宮崎のことはわかった』という言い方をね。だから道場破りでしょう、これ?

式日

ちょっと衝撃でしたね。というのは、まず内容。よく映画監督は、作品の中で自伝的なものをやるじゃないですか。でも大概嘘ついてるでしょ?でもこれ、本当の話なんですよ(笑)

巨神兵

「困ってたんですよ。宮さん自身が。要するに、全体の中であそこだけがね、とにかく他のシーンと違うんですよね。なんていうのかなあ、センスだけじゃなくて、ある種の粘り? それがないといいシーンにならない。一体どういう人に描いてもらったらうまくいくかっていっても既成のアニメーターでは難しいんじゃねえかというのが、宮さんの中にあったんですね。上手な人がやるとサラッとしちゃうんですよ。あの粘りが出ない。
(略)
カンがよくてポイントだけ押さえて仕事するタイプじゃないんですよ。全部真面目にやるんですよ。それってこのシーンに合ってますよね?」(略)庵野は要領悪い。でもその要領の悪さが、巨神兵なんかやる時には正解だったということですよね。

エヴァ

[特撮展をやる条件として『エヴァ』は使わないでと庵野に言われたけど、ポスターのキャッチコピーとなると]
ほとんど考えないで出てきたんですよね、『エヴァの原点は、ウルトラマン巨神兵。』 って。そしたらねえ、スタッフみんな、『これ、庵野さんが一番嫌がるコピーだと思う』と。(略)
[色々説得してみるも]みんなね、庵野のことが怖くてねえ、納得しないんですよ。(略)
それで庵野のところへ行ってね、いきなりそのビジュアルとコピーを見せてみたんです。そしたらねえ、庵野がねえ、『こう来ましたか』って言ったの」(略)
次に言った台詞を僕は生涯忘れないんですけどね。『〈コクリコ坂〉もこうやってやればもっとヒットしたのに』 

師弟関係

[煮詰まった庵野に宮崎が「休めよおまえ」と言った話]
「そう。宮さんから勝手に電話したこともあるんですよね。あれは生涯忘れないって庵野も言ってますよね」(略)
カンでわかるんですよね。全然会ってないのにね、『今、庵野はこういう状態でしょ』って僕に言ってくるんですよ。それがまさに当たってる。ちょっと神懸かりですよね。
(略)
あれはほんとに、師匠と弟子ですよね。ちょっと羨ましいぐらいの関係ですよ。庵野は宮さんのことをすごく信頼してるしね。宮さんだって実はそうだし。だから庵野でなきゃ、巨神兵の許諾はしなかったもん


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