アップル帝国の正体

アップルの下請けになることで技術やコストを丸裸にされ、アップル依存の生産体制になったところで、いきなり梯子をはずされ、受注がゼロになる恐怖。

アップル帝国の正体

アップル帝国の正体

アップルとの付き合いがリスクに

「ほんの一年前までは、アップルのサプライヤーでなければ、市場からも評価されないという風潮だった。今度は、巨大化したアップルとの付き合いがリスクだと騒がれ始めた」と皮肉った。
(略)
 「アップルと付き合う上で重要なのは、他社に真似できない高い技術をもっているかどうかだ」(略)
こうした圧倒的な技術をもつサプライヤーは“ティア1”と呼ばれ、アップルも対等な付き合いをしてくれる。万がー、アップルから外されても、世界中から声がかかる実力に裏打ちされているともいえる。
 苦しい立場なのは、代替可能な大手企業がひしめいている[二番手扱いの]“ティア2”(略)
 大きなリスクを覚悟で投資をしてでも注文を奪いにいくか、依存リスクが高まるくらいならば、勇気をもってサプライヤーから降りるべきか

アップルからの仕事がなくなる日

 「ついにこの日がやってきたか……」
 2005年春、[新潟の]「小林研業」の作業場では、異様な光景が広がっていた。(略)
[iPod裏蓋を磨き上げる職人達]
 しかしこの日は、小型のビデオカメラを片手に、朝から晩まで、じっと彼らの動作を撮影している男が立っていた。(略)
ケースを当てる角度や、力の入れ具合、そして研磨をする時間まで、カメラは延々と作業を記録していた。
[発売から四年、右肩上がりのiPodの仕事がこなせなくなりつつあった]
つまり、アップルはもっと安い人件費で、大量に磨けるところへ移転するに違いなかった。(略)
 「iPodを磨く作業のビデオ撮影は3日間続きました。でも注文をくれる地場の親会社から頼まれたら、我々は断れませんからね」
 ビデオ撮影を受け入れてからほどなくして、小林はこの仕事から手を引いた。そしてピーク時には地元の研磨業者約20社が1日で1万5000〜2万台も磨き上げていたiPodの仕事は、地元から消えてしまったのだ。
(略)
[アップルの仕事で]職人同士が切磋琢磨することによって思わぬ“珍事”も起きていた。
 iPodの光沢度は、業界の基準値でいう「ミラーの800番」というレベルに定められていた。ところが一度はじかれた不良品をさらにピカピカに磨いたことから、自然と品質がミラーの830番から900番へと上がり、最後は極限値の1000番まで高まった。
 「これ以上光らせるのは、物理的にも絶対にムリ」
 小林がそう断言するほど、iPodの裏面は、美しさを増していった。
(略)
 「中国メーカーとケンカをしても勝ち目はねえ。それよりアップルの仕事をした職人たちは、1000番のレベルまでピカピカに磨けるようになり、それが今の仕事につながっているんだ」
 現在、彼の作業場で磨かれているのは、美しくデザインされたステンレス製のカップやスプーン、精密な産業機械用の部品、高速道路の照明ライトに使われる反射用部品などのパーツだ。

タッチスクリーン泣き笑い

1929年に創業した京都の老舗印刷会社、日本写真印刷は、一度はアップルの存在に泣き、その後にアップルの新製品の受注を見事につかんだ好例だ。
 同社は、文化財や芸術品に恵まれた古都にあって、高品質な美術印刷を得意としてきた。その技術をフィルム製品に応用して、ペンで入力することのできるタッチスクリーンを開発。
[「ニンテンドーDS」などに採用され急成長を遂げるも、iPhoneにより「指」感知入力が主流になり、一敗地にまみれる](略)
薄くて軽いというフィルムの特性を活かした、カバーガラスのいらないタッチスクリーンを新たに開発した。それが「少しでも軽量化したいiPad miniへの採用が決まり、エ場はフル稼働を続けている」

秘密保持契約

[アップルに納入していることさえ口外できず、違約金は24億円という噂]
 アップルの取引先は、神経質なまでの秘密保持契約を結ばされる一方で、逆にアップルには“丸裸”にされてしまう。
 アップルの支配は、取引先のエ場の情報をすべて把握することから始まる。(略)[その分野の専門家10〜20人体制による監査により、数パーセントの誤差で原価を見抜き、コストカットを要求]
アップルの言い値に難色を示したりすると、「原価はこれくらいだから、できるはずだ」と一刀両断
(略)
 自社の状況だけでなく、サプライチェーンの上流も下流も、アップルが完全に支配しているので、原価のみならず、生産工程まで白日の下に晒されてしまう。(略)
 「アップルにとって納期は“絶対”ではない。文字通りの“死守”だ」(略)
「飛行機が飛べなくなったので、カバンにしこたま部品を詰め込んで船に乗り込み、自力で部品を届けた」という“伝説”も残る

アップルストア

アップルストアの店舗面積30センチ四方の年間売上高は約35万円、ティファニーの24万円をしのぐ。

「彼らは、自分たちをシャネルか、ルイ・ヴィトンだと思っているんですよ」(略)
彼らは、これまでの家電メーカーにないほど強気な姿勢をとる。
 例えば、首都圏から離れた地方の店舗には、アップルは商品を卸すことを極端に嫌がるという。「こんな田舎でアップルの製品って売られているんだ」と思われれば、ブランドイメージが下がると考えるからだ。
(略)
アップルがその[郊外型家電量販]店舗立地を気に入らないと、肝心の商品を売ることができない。
 仮に一部店舗へ商品を卸してもらっても、安心できない。アップル製品の売れ行きが芳しくないと、アップルにメリットがないとして、扱えなくなる可能性があるからだ。半年間で取り扱い中止になったケースもある。だから必死でアップル製品を売らなくてはいけないのだという。
 むろん安売りはタブーだ。(略)
もし安売りをしているのが判明すれば、アップルはさりげなく『申し訳ありません。ちょっと在庫が足りなくなっていて……』といって、確実に出荷台数を絞ってきます」
 そもそも、アップル製品の値引きそのものを、決済システムで「弾く」ように設定している量販店チェーンもある。だから顧客がどんなにゴネようが値引きは難しく、仮に出来るとしたら、一緒に購入した他メーカーの商品を安くすることぐらいだという。(略)
[量販店幹部は]「アップル・ジャパンからは、『あなた方はiPhoneのケースを売って儲けてください』と、はっきり言われたことがありますから」と、苦々しげに回想する。(略)
 「中国などで100〜200円で作ったケースを、製造会社が1500円ほどで家電量販店に卸して、店頭では2倍の3000円前後で売っているイメージですかね」
(略)
 さらに、アップルは売り場の作り方まで、細かく介入してくる。
「アップル専用の販売スペースを作るため、グレーの絨毯を敷いたり、漆黒のボードを使って壁を作る。商品陳列のテーブルから、そこに載せていい商品、説明用のポップアップ、設置の施工業者までアップルの指定に従わないといけない」(略)
国内メーカーの製品を買い叩いて、泣かせつづけてきた2兆円企業のヤマダ電機ですら、ひざまずくがごとく「アップル・ルール」に従順に従っている。

アプリ開発「裏のルール」

一般の開発者には知られていない「裏のルール」があるという。
「アップルは、キャリアがアプリを通して課金するのを厳しく制限している」
[成年向けコンテンツの厳しい制限でも知られるが]
ガイドラインには記載されていないが、キャリアが金銭を徴収する仕組みにも極めて厳しい」とキャリア幹部の一人は説明する。
(略)
 App Storeのビジネスモデルは、「iモード」の仕組みを参考にしたとよく指摘される。だが両者の一番の違いは、この料金の徴収の仕方にある。クレジットカードが必要なアップルの仕組みとは違い、iモードは通話料に加算できる「キャリア課金」を駆使して年間約200億円のビジネスを育てた。キャリアが課金することの簡使さに気づいているからこそ、アップルも目を光らせているのかもしれない。


 販売代金に月額収入、アプリ販売――。アップルは、キャリアが利益を得る仕組みを徹底的に調べあげて、それを徹底的に収奪しようとしているようにもみえる。
(略)
ジョブズ氏は、07年のiPhone発売直前まで、アップル自身を通信キャリアにしてしまおうと考えていた」
(略)
だがその代わりに、キャリアのビジネスモデルを徹底的に調べあげることで、アップルは世界各国で、キャリアを支配する構造を築くことに成功したのだ。

ジョブズ孫正義

[2005年]ジョブズの元を訪れた孫が「iPodと携帯電話を足したようなものを作って欲しい」と伝えると、ジョブズは笑顔を見せて「詳しくは言えないが、今考えているところだ」と答えた(略)
孫は「必ずモバイル(携帯)の業界に参入する。そのときに戦う武器がほしい。それはあなたしか作れない。組んでくれないか」とオファーした(略)
[06年に]ボーダフォンを買収した孫の頭のなかには、「将来のiPhone」のイメージがすでにあったというのだ。