暴排条例、死刑制度の問題点

 

『日本の公安警察』著者・青木理実話ナックルズ編集長の対談本。
以下全て青木の発言。

暴力団排除条例の問題点

いわゆる暴力団による犯罪が増えているわけではない。なのになぜ警察が暴力団排除を声高に叫び始めたかというと(略)本質的には警察のパフォーマンスじゃないかと思う。その先には、警察の組織や権益の拡大という意図も透け見えてくる。
 冷静に考えれば、近年は公安事件などもほとんど起きないし、治安だって決して悪化していない。そんな状況の中で、警察官僚的な発想から何を手柄にできるかと考えた時、暴力団が格好のターゲットになったということに過ぎない。(略)
 多くの人が誤解しているようだけど、暴排条例というのは、暴力団を取り締まるというよりもむしろ、暴力団とつき合う市民の側を締め上げるものです。しかも、何がアウトで何がセーフなのか、条文が極めて曖昧でよく分からない。そうなると、警察の恣意によって取り締まられたり、取り締まられなかったりという現象が起きかねない。取り締まられる側にとっては非常な恐怖ですが、これを回避する方法は単純です。警察OBを内側に取り込むこと。企業なら警察OBの天下りを受け入れ、いちいちお伺いをたて、場合によってはお目こぼしをちょうだいする。実際に今、警察の天下りや利権が急拡大していて、暴対法や暴排条例がその梃子になってしまっている。

死刑問題

 死刑問題を取材をしてみてつくづく思ったんだけど、刑罰の現場に近ければ近いほど深く苦悩しているんだよね。逆に、当事者から離れた外野であればあるほど「あんな奴は死刑だ」「被害者の気持ちを考えれば当然だ」などといった言葉を軽々しく口にする。(略)
被害者の遺族にしても、極刑を望む声ばかりがメディアで伝えられてはいるけれど、深く入り込んで話を聞いてみると、加害者を絶対に許せないという怒りと侮しさを抱えつつ、死刑という究極の刑罰を前にして逡巡していることが分かってくる。
 少なくとも、僕が取材した被害者の遺族たちは、みんな悩んでいた。逡巡していた。たとえば長良川木曽川事件の被害者遺族の場合、二件目のリンチで死亡した男性の遺族は、三人の元少年のうちの一人がしたため続けた謝罪の手紙に心を動かされ、名古屋拘置所に面会に通って来てくれるようになったんだよね。お兄さんなんて、その元少年の死刑回避を訴える嘆願状を最高裁に提出してくれるまでになった。三件目のリンチで殺された男性のお父さんとお母さんは最後まで死刑を求め続けたんだけど、公判などで少年たちの生い立ちを知り、拘置所から幾度も謝罪の手紙などが送られてくると、やはり心は揺れてしまっているようだった。そのお父さんが言ってたんだけど、息子さんが亡くなって以降、命の大切さを訴えるボランティア活動に参加するようになったそうなんです。ところが、その活動に参加するのを辞めようかどうしようか悩んでると僕に言う。なぜかと尋ねたら、「私は死刑を求めている。しかし、加害者にだって命の重さはある。そんな私が、命の大切さを訴える活動をしていていいのかと悩むんです」と。

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原発から20キロ離れたところから撮影しておりまーす

原発周辺の現地取材については「政府の決めた指示に従え」という趣旨のことが書いてあった。つまり、報道にあたっては、お上の言うことに従って現地入りはするなということです。(略)原発を映し出すテレビ映像の脇には「これは20キロ以上離れたところから撮影しています」などと註釈してあった。馬鹿じゃないか、と僕などは思う。そんなに離れてないで、もっと近くに寄って撮ってくれよと。僕はそう思うんだけど、テレビ局の連中に聞くと、「政府が規制しているのに、その圏内に入るとはどういうことか」っていう抗議がきてしまうのを恐れているらしい。
 一方、幾人かのフリーのジャーナリストは現場に入っていった。ところが今回、新聞やテレビはフリーが撮ってきた素材を使いたがらなかったそうです。(略)
[イラクやアフガンではフリーから素材を買い上げたのに]
僕が思うに、他人の庭での不幸や他国の政府の規制についてはさほど気にせず振る舞えるけれど、自分たちの足元に降りかかった不幸や自国の政府と対峙したとき、日本のメディアは急に弱くなってしまう。抵抗の牙を抜いてしまう。(略)
 その意味でも、マスメディアは敗北したと思います。だからこそ、デマに近いような煽りを繰り返す自称ジャーナリストのような連中が跋扈してしまった。

上杉隆

確かに、少数ながら頑張っている記者はいる。(略)朝日でいえば、大阪地検特捜部の証拠改竄をすっぱ抜いた板橋洋佳君とかね。(略)僕がイベントの中で「朝日の板橋君はいい仕事をしている」っていう話をしたら、[上杉が]終了後に近寄ってきて、「あんまり板橋のことなんか褒めない方がいいですよ。かなり筋の悪い記者みたいだし、証拠改竄の原因となった郵便不正のネタを大阪地検に持ち込んだのは、そもそも朝日ですから」とか何とか、ワケ知り顔で囁いてきたんだよ。それを聞いて、ああ、この人は何も分かってないな、と思った。

勝間和代

[中部電力原発推進CMにでていた勝間が朝生で]
「今回の原子力の問題、死者が出ましたか?津波の死者と比べて、報道のされ具合と死者数のバランスが悪いと思います」などと言い放った。(略)批判が殺到したらしく、最終的に彼女は謝罪に追い込まれた。
 ところが、その後に彼女のブログを見ていたら、原発事故でエコや新エネルギー問題にでも目覚めたのか、日産のリーフという電気自動車を自宅に導入したと綴り始めた。マンションなのに電気自動車を置くための充電器を駐車場に設置して「ようやく今日、設置が終わりました」とか得々として書いてある。なんだかヘンだなと思って『FRIDAY』の編集者に取材させたら、日産の広報が「車は勝間さんに無償で提供しました」。なぜかといえば「非常に発進力のある方なので」と答えたそうです。企業にしてみれば、これも広告でしょう。ぜんぜん懲りてない
[ちなみに勝間の前にその原発CMの話を貰った某ジャーナリストが提示された額は3000万円だったとか]

警察に屈服

[北海道新聞が暴いた北海道警察の裏金問題、新聞協会賞を受賞したけど]
しばらくして道警が猛反撃に乗り出してきてね。まずは情報面で締め上げた。新聞は事件報道を異常に重視しているから、情報面で警察に締め上げられちゃうと、かなり困るわけ。(略)
 もう一つは、警察の強権を使った恫喝。(略)[内部不祥事]をネタにして道新に圧力をかけてきた。「場合によっては社長室にもガサをかける」とか言ってね。結局、道新は道警の恫喝と締め上げに直面し、最後は完全屈服してしまった。一連の裏金報道に附随する一本の記事に関しては一面に大々的な「お詫び記事」まで掲載させられ、裏金問題を追及した記者たちも次々と閑職に飛ばされていってしまうわけです。(略)
道新のデスクとして裏金報道の司令塔役を担った高田昌幸さんは、ロンドン支局に出された後、縁もゆかりもない運動部のデスクに追いやられ、結局は退社してしまいました。取材チームのメンバーも編集の中枢から軒並み外され、みんな冷や飯を食わされている。道警担当のキャップだった中堅記者は、地方版整理という閑職に追いやられてね。

法務大臣はあまりポスト

[村上正邦の話によると]どうして日本の法務大臣はこんなに軽いやつばかりなのかっていえば、法務大臣って利権がない上、政治的中立を掲げる検察庁との関係もあって権限も制限されている。だから組閣の時は、衆院の方で利権のありそうなポストをみんな取っちゃって、残りカスのようなポストが参院議員の方に回ってくる(略)死刑執行命令を発することなんかも求められるから、あまりやりたがる人がいない。だから参院でも当選回数の多くて、大臣をやったことのない人を順繰りにあてがっちゃう。軽量級ばかりになるのは当然だよね。