フランス反米主義の系譜学

シェルブールの軍艦、南北戦争がやってくる

 一八六四年六月一九日は日曜日である。英仏海峡の海岸には、すばらしい一日が約束されている。クリノリンのペチコートより軍服を見慣れたシェルブールの小さな町は、土曜日の朝から生粋のパリっ子の群衆によって占拠されている。(略)このはやめの避暑客は、外海の空気を吸いに来たのではなく、血のにおいを嗅ぎに来たのである。(略)分離戦争〔南北戦争〕がコタンタン半島に巡業に来るのである。ポスターには、北部対南部、ヤンキーの巡洋艦南部連合の私掠船、USS〔北部連邦〕キアサージュ対CSS〔南部連合アラバマとある。(略)
アラバマは、一八六四年には伝説の船である。二年間、ラファエル・セムズの指揮の下で、この船はおのれを破壊するために動員された連邦軍巡洋艦をものともせず、北軍の商船団を恐怖で震え上がらせた。(略)この船が連邦軍に与えた損害は、戦後、合衆国が英国に自国領土で私掠船の建造を許可したかどで、破格の補償金を要求するほど大きい。
(略)
船は疲弊し、ボイラーは修理が必要な状態である。セムズ自身も疲れ果て、シェルブールに寄港する決心をしたのである。埠頭に着くとすぐにアラバマは損傷状態を知らせ、修理のためにしばらく停泊する許可を求める。(略)
フランスの中立性を規定する文書はつぎのように明記している。すなわち、いかなる場合においても、「交戦国は火力強化のために、または修理の名目で結果的に軍事力の増強をもたらすような作業のために、フランスの港を使用することはできない」(略)
三日後の六月一四日に北軍巡洋艦キアサージュが停泊地の湾口に出現するのである。挑発は明白である。船体が損傷しているにもかかわらず、ラファエル・セムズは船を離港させる決定を下す。(略)
 つぎの日曜日の午前一〇時にアラバマシェルブール港を出発するが、フランス海域の境界線まで装甲艦ラ・クーロンヌが随行する。アラバマはキアサージュに真っ直ぐに向かっていく。キアサージュのほうはまず艦長が受け入れた指令に従って、さらに沖合までアラバマを連れ出し、その後、戦闘態勢に入る。
アラバマが射撃を開始する。セムズは知らなかったのだろうか、敵船が木製の船底被覆の装いの下で、甲鉄で防御されていることを?(略)勝負にならない。アラバマは致命傷を受けて数分で沈没する。しかしながら、セムズは戦闘に倒れることも、敵軍の手に落ちることもない。南部連合大義に共鳴したある金持ちの英国人が、自家用のヨット、ディアハウンドにセムズを拾い上げ、サウザンプトンに連れて行ったのである。
 正午には真夏の太陽の下を、ジョン・ウィンズロー艦長が、腰にピストルを下げて勝者としてシェルブールの埠頭を大股で歩いている。この埠頭は、一週間、南軍の最後の私掠船にとって避難所であった。パリの大衆は何となくがっかりして、町のなかへと散らばっていく――つぎの汽車を待ちながらである。


マネの描いた戦闘

この戦闘の観客全員が、ある一つの政策の難破を目撃した。帝政フランスの政策である。アラバマといっしょに沈んでいったのは、合衆国の持続的分割というひそかな望みである。マネが描いたのも、これなのである。
(略)
マネは分離戦争の現実と同時に、この戦争に向けられたフランス人の眼差しをも表現している。

南部への共感

フランス人を驚かせるのは、分離そのものより、戦争の激しさとその執拗さである。(略)
[驚くべき点は]多数派が南部に対して抱いている共感が、奴隷制に対する激しい非難と両立しているということである。(略)
[南部の宣伝家により]奴隷制の問題は、北部が攻撃するためのたんなる口実だとして提示されるのである(略)
内政干渉であるかもしれないという可能性にはびくびくしているとしても、多数派は明らかに南部に共感しており(略)
北部は奴隷制廃止論を、戦争の道具として、敵を妨害する手段として、あちこちで利用している(略)
内戦は高邁な精神によって謳われた奴隷解放の十字軍では決してなく、北部が南部に対しておこなった政治的・経済的隷属化という冷酷な企てであるという確信をフランス世論に持続的に植えつける

米露共謀

一八六三年にロシア帝政の船隊が華々しく米国の港を公式訪問したことで、アレクサンドル二世の専制政治リンカーンの軍事政府が共謀しているという非難が信憑性を帯びる。(略)
同じ時期に政府系日刊紙『祖国』は、読者にアメリカの戦争を読み解く「鍵」を差し出す。帝政ロシアが自由を追い求める国々の虐待者であるように、連邦は離脱していく諸州の追害者である。(略)ポーランドの反乱が残酷な仕方で弾圧されたこの年には、乱暴で臆面もない大国によっておこなわれる、ポーランド人の受難と類似した南部の受難のイマージュを大衆に強いることが、まさに重要なのである。

モンロー主義

この国は「最近まではまだ英国権力のあいまいな衛星」だったが、「今日、熱望しているのは、人類全体を自分の軌道に引きつけること以外の何ものでもない」。今日はメキシコ、明日は世界である。
(略)
連邦を結びつける絆は民主主義ではないからである。(略)合衆国を結びつける絆、それはいまや「国家的ドグマ」にまで昇格させられたモンロー主義である。
 モンローが古いヨーロッパで評判がよかったことは一度もない。そもそも、「アメリカ人のためのアメリカ」などという威嚇をはらんだ原理が、そこで人気を博しえたはずがあるだろうか。(略)
 ある後悔の念が彼らを苦しめる。内政不干渉だったことに対する後悔である。(略)皇帝はいまや、南部と共謀したことではなく、北部を前にして小心で臆病だったことで非難されている。

フランス対ヤンキー

メイン号の爆破とキューバヘの侵攻のわずか数か月後に、ギュスターヴ・ル・ルージュは一般大衆に向けて、奇想天外な反米的物語の第一巻を世に送り出した。この『億万長者の陰謀』はセンセーションを巻き起こした連載小説で、ヨーロッパを服従させようというヤンキーの陰謀に対する一握りのフランス人の英雄的で孤独な闘いを称賛している。(略)
アメリカがヨーロッパを「属国」にすべくとてつもない侵略計画を構想することができたとすれば、それはアメリカ自体が暴力と不正の地だからである。「〈新世界〉による〈旧世界〉の従属化」は、いまや「ここ数か月の問題、おそらくは数日の問題である」と、ル・ルージュの読者は不安を抱きながら知るだろう。(略)
[億万長者の手先となる「世界中で有名な電気技師」のなかに]トマス・エジソンを認めることにほとんど苦労しない。その10年前のエジソンのフランス訪問は、あらゆる新聞の一面を飾った。だがパリ中のサロンが奪い合いをしたこの蓄音機と白熱電球の発明家は、ここでは見下げはてた奴、「無口で、四六時中不機嫌な顔をした小男」と化している。発明の才があるというよりも悪賢く、自分自身のアイディアと同じく、他人のアイディアも抜け目なく利用し、缶詰王ウィリアム・ボルチンによって連盟を結成した資本主義者たちの好戦的計画に盲目的に協力しようとしているのである。
 機械化され序列化された世界であり、情け容赦ない世界であるこの薄情なアメリカを支配しているのは、ずうずうしい資本家と感情なき技師という悪魔のようなペアである。