「不愉快な現実」孫崎享

超大国になる中国と対峙するには東アジア共同体のような枠組み作っていかないと、軍事衝突しても尖閣失いますよと。

不愉快な現実  中国の大国化、米国の戦略転換 (講談社現代新書)

不愉快な現実 中国の大国化、米国の戦略転換 (講談社現代新書)

尖閣諸島が安保条約の対象になっている」ということと、「尖閣諸島に関する日中軍事紛争に米軍が出る」こととは実は同じではない。
(略)
米国の基本的な立場は、「尖閣諸島の主権は係争中である。米国は最終的な主権問題に立場をとらない」と、「1972年の沖縄返還以来、尖閣列島は日本の管轄権の下にある。60年安保条約第五条は日本の管轄地に適用されると述べている。したがって第五条は尖閣列島に適用される」である。
 安保条約第五条は「日本国の施政の下の領域に対する武力攻撃があった時は、両国は自国の憲法にしたがって行動する」と決めている。(略)
 ここに巧妙な法的仕掛けがある。(略)
つまり尖閣諸島へ中国が攻めてきた時は日本の自衛隊が対処する。ここで自衛隊が守れば問題ない。しかし守りきれなければ、管轄地は中国に渡る。その時にはもう安保条約の対象でなくなる。つまり米軍には尖閣諸島で戦う条約上の義務はない。
 この点を明らかにしたのがアーミテージ元国務副長官である。彼は『日米同盟vs中国・北朝鮮』で「日本が自ら尖閣を守らなければ、〔日本の施政下になくなり〕我々も尖閣を守ることができなくなるのですよ」と述べている。

日米同盟vs.中国・北朝鮮 (文春新書)

日米同盟vs.中国・北朝鮮 (文春新書)

「棚上げ」とは現状を容認し、その変更を武力でもって行わないことである。つまり、中国が日本による尖閣諸島の実効支配を認める、これを軍事力で変更しない約束である[日本が棚上げに合意している間は中国が軍事力を使用しない]。
 この約束は周恩来トウ小平[文字化けするのでカタカナに]が尖閣諸島は中国側としては中国領であることを認識しつつも、日本との関係を発展させることが重要だという判断で譲歩したものである。
 中国が譲歩し成立した「棚上げ」合意を日本側から破棄することは、あまりにも愚かな政策である。しかし前原誠司外務大臣(当時)は「棚上げは中国の主張。日本は同意していない」と国会等で述べてきた。憂うべき事態が展開された。

台湾危機

[1985年3%だった対中輸出が2007年には30%になり]
 この数字の下、台湾は経済的に中国との関係を強化する以外に合理的選択肢はない。
 台湾が独立しようとしない限り、中国が台湾を攻める可能性は低い。その意味では「台湾危機」は大きく後退している。

「核心的利益」

 中国は「核心的利益」という言葉は、一歩も譲らないと決意している地域に関して使用している。(略)
 では南沙諸島について、中国は「核心的利益」と見なすのか。南沙諸島の位置づけは中国内部でも揺れ動いている。中国にとって南沙諸島の扱いの難しさを示している。
 2010年3月、中国側は、訪中したスタインバーグ米国務副長官に、南シナ海を「核心的利益」とする方針をはじめて伝達した。(略)
 一方で2010年10月22日付「共同通信」は(略)「中国政府が、米政府に対し、南シナ海を台湾やチベットと並び領有権で絶対に譲らない『核心的利益』と位置づけると表明したこれまでの発言を否定し、『核心的利益』とする立場を事実上取り下げる姿勢を示していたことが22日、わかった」と報じている。(略)
 ただし、南沙諸島尖閣諸島よりもはるかに平和的に解決するフレームワークが存在している。(略)
[東南アジア友好協力条約13条で]
紛争が生じた場合には、武力による威嚇又は武力の行使を慎み、常に締約国間で友好的な交渉を通じてその紛争を解決する」ことを規定している。中国はASEAN諸国との関係を継続しようとするならば、この原則を守らなければならない。同時に同10条において(略)第三国との軍事同盟的活動を禁じている。
(略)
ASEAN諸国は中国の軍事的進出を法的枠組みで抑える動きを一貫して追求している。(略)
 日本国内には「中国が南沙諸島に進出しているので、日本、ASEAN諸国、米国が軍事的に連帯していこう」という主張が多い。しかし、この主張はASEAN諸国が目指している方向とは異なる。

北方領土

 こうして日本政府は国後・択捉をサンフランシスコ講和条約で放棄したにもかかわらず、その後これを「北方四島」の一部として要求していくことになる。
 整理してみよう。日本はポツダム宣言を受け入れた。そしてサンフランシスコ講和条約に署名した。この二つを基礎とする限り、日本が国後・択捉を現在も日本領と見なすという法的根拠はない。それは歴史的事実である。かつ当時の日本の責任者が選択した政策によるものである。
 日本が「我々はポツダム宣言を認めない。サンフランシスコ講和条約も認めない」というなら、それはそれで一つの考え方である。しかし、日本の生きる道は国際的な約束を守っていくことにある。その中では、ポツダム宣言サンフランシスコ講和条約で日本は何を約束したかを学び、そこから出る結論、「国後・択捉は日本領ではない」ことを出発点とすべきである。

軍事衝突したら

尖閣諸島を日本の国内法で処理することを貫いたら、何時の日か、尖閣諸島を自国領と見なしている中国も自国の国内法で処理すると主張し始める。そして武力で威嚇する。その時、軍事力でどちらが強いかで決着がつく。軍事力で劣る日本には、なす術がない事態がくる。
 尖閣諸島を「棚上げ」にする合意を大切にすれば、日本の実効支配は続く。しかし尖閣諸島に対し、国内法で対処する姿勢を強めるなら、残念ながら、日本は自ら尖閣諸島を失う、あるいは負けるしかない武力紛争に入る。いま、日本は将来必ず自国に不利な形で跳ね返る政策を実施しようとしている。

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