ギル・エヴァンスのマイルス分析

マイルスvsコルトレーン (文春新書)

マイルスvsコルトレーン (文春新書)

ギル・エヴァンスのマイルス分析

マイルス・デイヴィスの偉大な才能の大きな部分を占めているのは、「音を生み出す」ということだ。モダン・ジャズの革新のために、すべての新しいプレイヤーが新しい表現方式に関連して自分の音をみつけなければならないちょうどそのとき、マイルスは現れたのだ。たとえば、マイルスはルイ・アームストロングのようには演奏できなかった。なぜなら、ああいう音は彼の思考を妨げるからだ。マイルスはほとんど何も音がないところから始めなければならなかった。そのあと、しだいに自分の表現したい思考にぴったりの音を開発したのだ。多くのプレイヤーは、自分の音をあまり変えようとしない。彼らの演奏におけるヴァリエーションは、音、和声のパターン、リズムの使い方の選択に依存している。しかし、マイルスの場合はまわりの状況をすべて把握していて、基本的な音のなかにさえ存在する広範な音の可能性を利用する。いいかえれば、彼はそのときの状況に合った音を創造することができるのだ。あるコードの質によって、それに緊張感があろうがなかろうが、彼はそれに見合った音を創造できる。彼は自分の存在、自分の生気をひとつの音にのせることができ、あるべき位置にその音を配置することができるのだ。

Three Wishes: An Intimate Look at Jazz Greats

Three Wishes: An Intimate Look at Jazz Greats

↑洋書は千円強で、和書の1/4の値段だが、アマゾン・コメによると「アメリカ版ではフランス語版のナディーヌ・ドゥ・クゥニグズヴァルテールによるテキストが大幅に削られ」ており、和書は仏版を元に翻訳、写真も追加されていて豪華みたい、うーむ。

ニカ夫人はキャツトハウスを訪れるミュージシャンをポラロイド・カメラで撮影し、ある時期から「三つの願い事は?」という質問をぶつけていた[61年〜66年にかけ300人を対象に。2006年孫が写真と質問をフランスで出版]。(略)
マイルスがこれほど天真爛漫な屈託のない姿をカメラの前でみせたことはきわめて珍しく、コルトレーンがピアノを弾くモンクの横に座ってサックスを吹いている写真は、二人の共演が「ファイヴ・スポット」以外の場所でも行なわれていたことを裏づけている。
(略)
[以下、著者の意訳]
コルトレーンの回答
1.自分自身の音楽に無尽蔵の新鮮さがあること。私は目下、その鮮度を失っている
2.病気や心身の不調に対する免疫性
3.いまの3倍の性的なパワー。他にもある。つまり、人に対するもっとも自然な愛。それは性的なパワーにもつながるものだ
マイルスはありったけの皮肉を込めて[ひとつだけ]、こう答えている。
白くなること! "To be white!"