テラさんのコワイ話、手塚の娘

前日のつづき&『らららの娘』

神様の伴走者 手塚番13+2

神様の伴走者 手塚番13+2

 

「鈴木氏、5分だけ、5分だけ眠らしてください」っていわれて、15分眠らせたら怒られて(略)
「こんなに眠ったら、頭が元に戻らないですよ!」って

人気投票結果を問われ、3位だとは言えず、人気なんか気にしないで下さいと答えた日の深夜二時、他の編集者もアシスタントも居なかった

手塚さんが編集者の待機部屋にやってきて、「鈴木氏、いいですか。手塚先生は人気はどうでも良いんですって、みんながいう。でも、人気がないとすぐ切られる。これがこの世界です。テレビでもそう。(略)
鈴木氏は、まだ若いから知らないかもしれないけど、そこんところは、ちゃんとわかってないと」って、こんこんとお説教されて。あの夜のことは、編集者やってる間は、ずっと忘れなかったね。
[虫プロアニメ苦境時期]

余談ですが創刊編集長小西の誇りは人気投票がずっとビリだった『佐武と市捕物控』を4年連載したこと。

絶筆

「ペンが重たくて、今の自分の状態だとペンが持てないんです」と。「鉛筆でアタリを描くのが精一杯で、ペン入れは代筆になりますけど、良いでしょうか」と。そういわれたんです。(略)
先生はベッドに腰掛けて、頭に白いタオルを巻いて、病院のガウンを着て、画板を胸の前に下げ、そこに原稿用紙がありました。斜め横の椅子にチーフアシスタントが座って、先生の指示を受けてましたね。控えの間には、松谷社長と奥さまがいて、こちらはもう、いたたまれないですよ。先生の声は弱々しく、でも一所懸命、何か指示を出されてる。その時の手塚先生の姿というか横顔というのは、一生忘れられないですね。優しい静かな口調で、「代筆になっちゃって、どうもすいません。本当にお疲れさまでした」とおっしゃった。それが、手塚先生とお会いした最後、『ルードヴィヒ・B』の最終回の原稿です。

最後は藤子A先生インタビュー

[アシスタントのいない時代、安孫子はよく手塚の手伝いをしたが]
藤本氏は一切ないです。全くないです。(略)彼はね、できないです、そういう器用なことは。やっぱり、先生の手伝いするっていうのは、先生の絵を真似る、似せなきゃいけないわけで、タッチだって。(略)藤本氏、そういう器用さはないんです。一直線に王道を走ってるから。僕はわりと、そういうとこはうまいのよ、合わせるというか。

先生に嫉妬されなかったら一流じゃないっていうのもあってね。ある年の正月、共同の台所へお湯を沸かしにいったらね、石森氏、赤塚氏が正装して出てきた。「どこ行くの?」って聞いたら、「あれ、おたくたち、知らない?」「何よ」「いや、手塚先生の新年会」って。僕らのところにはオファーがかからなかった。だから、その時は、手塚先生が僕らに嫉妬してたんじゃないのかな(笑)

  • テラさんのちょっとコワイ話

潔癖症のテラさん、自分の載ってる雑誌に自分の許せないドンパチや斬ったはったの作品が載っていることが我慢できず、次々と連載を降り隠棲。10年ぶりに藤子A&F、石森、赤塚で寺田宅を訪問すると歓待してくれ、帰りはずっと手を振って見送ってくれた

「なんだかテラさん、最後の別れみたいだなあ」とかいって帰ってきて、次の日に、僕がお礼の電話をかけた。奥さんに、「いや、昨日はありがとうございました。ごちそうさまでした。楽しかった。テラさん、ちょっと出してよ」といったら、奥さんが、「寺田は今日限り、いっさい外部の電話に出ないことにしました」って。すごいでしょ。本当に最後の別れ。
(略)
テラさんとこは豪邸なんですよ。その庭に別棟があって、奥さんと子供さんは、そこに住んでるんです。テラさん、本宅に引きこもって。奥さんが朝、ご飯を玄関のとこに置いとくんだって。それが食べてあって、次にお昼を持ってく。食べてある。夜持ってく。食べてある。奥さんともいっさい顔を合わせない。1年後に、朝食持ってって、昼いったら、まったく手をつけていなかったんだって。心配になって奥さんが寝室へいったら、テラさん、ベッドで眠るように亡くなっていた。まあ、緩慢なる自殺っていうかね……。

少年のころの思い出漫画劇場 スポーツマン金太郎 寺田ヒロオの世界
 
トキワ荘の時代―寺田ヒロオのまんが道 (ちくまライブラリー)
 

kingfish.hatenablog.com

ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘 (文春文庫)

ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘 (文春文庫)

 

「手塚の話をしようか」と言われまくる、るみ子

[父レオに反発して都会に出たルネが]
挫折してジャングルに帰ってくる。だけど、すでにレオは死んでしまっている。その最期を看取ったヒゲオヤジが、「お父さんの話をしようか」って言って、ルネと並んで平原を歩いていく。それでレオの姿をした入道雲が出ているっていうラストシーン。これって、ルネがわたしなんですね。ずっと父・手塚治虫に反発して、好き勝手してきた。でも、ようやく父の偉大さを受け入れられて、父のもとで何かを始めようと思ったら、そのときはもう父がいないっていう。で、ヒゲオヤジみたいなのが世間にはいっぱいいるの。会う人会う人がヒゲオヤジ。

水木家

中三の長女「お父ちゃんの漫画には未来がない。手塚漫画にはある」
父は激怒「これが現実なんだ!おれは現実を描いているんだ!」
次女 「総員玉砕せよ!」とかの戦記モノを子供の頃に読んだんですけど、3日ぐらい暗ーい気持ちになる。

原稿が上がらず苛立つ編集者の八つ当たりのマトになって池に落とされたり……
手塚の女性観

同じアシスタントでも、女性のほうが役に立たないとか。徹夜できないし、あまり期待してなかったり。女の漫画家は結婚するとだめになるとか。(略)
[女性にすごくロマンティックな理想像をもっているせいか]
現実の女性に厳しいんじゃないのかな。特に現代女性は、自分ばかり主張して、そんなに大して中身もないのに、「わたしはこうよ」と言って。ウーマンリブとかキャリアウーマンとか。女性の地位向上とか。でもそう言いながら、恋におぼれていくと、とたんに仕事を辞めて結婚しちゃうじゃないかって……。現代女性にはすごい厳しいんです。
(略)
手塚治虫のエロスは、女性のエロスではなくて生物体としてのエロスのほう。たとえば、昆虫とかの生態のエロティックさ。生き物そのものの姿形、動きがエロいという……。女性という異性のエロさじゃないんですよ。