- 作者:牧野 武文
- 発売日: 2010/06/11
- メディア: 単行本
太陽電池から光線銃
[銃が好きだった軍平、科学雑誌で紹介されていたCDS光センサーによる光線銃を試作するも、反応が鈍くイマイチ]
そんな折、シャープが太陽電池の開発を始めたところで、任天堂にもなにか使ってくれないかと営業にきた。
[本来の用途に興味を示さなかった軍平だが、光を受けて発電するなら光センサーとして使えると気付き光線銃の話が本格化]
ちなみにこのときのシャープ側の技術者が上村雅之だった。(略)光線銃用太陽電池の開発をおこない、その後、任天堂に転職する。上村入社後の任天堂開発部は、横井の開発一部と上村の開発二部に分かれ[ライバル同士に。上村は移籍12年後にファミコンを開発]
(略)
[太陽電池は弱い光でも反応しセンサーとしては最適だったが、問題は価格。5ミリ角で500円]
しかし、横井はあきらめなかった。「なぜ、そんなに高くなるか」ということをしつこくシャープ側に聞いたのだ。すると、太陽電池そのものの製造コストではなく、電極をハンダ付けする技術が難しく、その工賃が高いということがわかってきた。
横井は、そこでハンダ付けしなくていい方法をシャープとともに開発する。要は、乾電池を入れるケースのように、プラスとマイナスの電極で太陽電池を挟みこんでやる方式だ。サンドイッチを作るように、電極・太陽電池・電極と置いていけばできあがる工夫をした。これで工賃が不要となり、500円だったものが150円程度まで下がったという。
[光線銃の大ヒット&電卓用需要でシャープの太陽電池事業は軌道に乗った]
レーザークレー
[ボーリングブーム終焉後の施設に社運を賭けレーザークレーを売り込もうとした山内。製品化の命を受けた軍平は、飛んでいるクレーの先を狙って撃つ「狙い越し」というテクニックの再現に苦心]
そこで、横井は大胆な仕組みを考えだす。逆転の発想といってもいい。(略)
[銃の光を的で感知し当たり判定するのが普通だが]
逆に的が信号を出し、銃が受信して、なにが問題なのかと考えたのだ。
(略)
的はふたつ映し出される。ひとつは光でクレーを表す的。もうひとつは人の目には見えない赤外線を使って、クレーの先に表示される、狙い越し用の的だ。壁に赤外線が投射されても人の目には何も見えないが、銃のカメラで見ると反射した赤外線を感じることができる(略)これで「狙い越し」ができるリアルなクレー射撃になった。
[注文は好調だったが、オイルショックで大失敗に終わる]
ゲーム&ウオッチ
[新幹線で電卓ゲームをやっていたサラリーマンを見て閃いたアイディアを山内に退屈しのぎ話として披露]
一週間ほどしたらシャープのトップクラスの人間が任天堂を訪問した。その席に横井が呼ばれた。横井はなんのことだか戸惑ったが、山内は「君が言った電卓サイズのゲームを作るんだったら、液晶はシャープが得意だから呼んだんだ」とあたり前のように言う。ここからゲーム&ウオッチの開発が始まる。
[軍平談]
新幹線の中で大きなゲーム機を出して遊ぶというのは、我々サラリーマンには恥ずかしくてできない。どうしたら、人目につかずにさり気なく遊べるかというと、座ったときに人間は自然に前に手を組む。その姿勢で遊べるのがいいだろうと考えました。その状態では親指で操作するしかない。それで、この横型の筐体ということになったんですね。
(略)
[電卓低価格化戦争で液晶も値下りしており]
シャープのお偉いさんから「あのとき、ゲーム&ウオッチの液晶がなかったら、シャープの液晶はここまできていなかっただろう。縮小しようとしていた液晶工場がゲーム&ウオッチで盛り上がったので、TFT液晶(パソコンのディスプレイの主流方式)までつながったんだ」とよく言われます。
逆襲のゲームボーイ
ファミコン以前のヒット玩具は、ほとんどが横井が手がけたと言っていい。しかし、ファミコンだけは横井とは無縁のところで生まれ[但し十字キーと筐体は軍平の仕事]、任天堂を世界企業に押し上げる推進力となっていた。だが、ファミコンの開発に社運を賭けることができたのは、横井が作ったゲーム&ウオッチで[借金を返済し、潤沢な開発資金を捻出したから](略)
「コンピューターは難しいから嫌いや」という横井は「過去の玩具の人」と見られ始めていた。(略)今や任天堂の中心はファミコンを開発した上村や、次々とヒットゲームを生み出す宮本に移っていたのだ。
このときの横井の心の中は横井しか知らない。この時期、横井がどういう思いでいたかを一度だけ聞いたことがあるが、完全黙秘だった。優等生的な答えさえ返ってこなかった。ほんとうに厳しい顔で黙り込んでしまったのだ。
[そこからゲームボーイで大逆転]
バーチャルボーイの真意
横井が突破しようとしていたのは、テレビ画面という“枠”だった。(略)
[聴き慣れた音楽と見慣れた風景がウォークマンによって、どちらもまったく違ったものになる]
ウォークマンをつけて外に出れば、昨日までの世界とはまったく違う刺激を与えてくれる新世界が待っているのだ。(略)
[3Dだからバーチャルという安易な発想ではなく]
真っ暗闇なら無限に広い空間が作れるのではないか。枠で制限されているテレビ画面の外に出られるのではないか。横井にとっては、3Dよりも「真っ暗闇」の方がはるかに重要だった。
(略)
横井が作り出した空間の中では、あたり前のことがあたり前でないように感じてしまう不思議な感覚に陥るのだ。
しかも、突然、謎のチューブが登場して、ボールを吸い込み、ボールを暗闇の彼方に連れ去ってしまう。あっけにとられていると、ボールは暗闇の中から突然戻ってきたりするのだ。(略)
現在、バーチャルボーイは「バーチャルリアリティを家庭内に持ち込んだマシン」として一部で評価されているが、それは横井が意図した通りの評価ではない。新しい遊びを生み出そうとした勇気ある試みとして評価すべきなのだ。
横井は家の中でテレビゲームばかりしている子供に、「勝手口から裏庭に出てごらん。そこにはテレビゲームよりもっと冒険的な空間と闇がどこまでも広がっているんだよ」というメッセージを伝えたかったはずだ。
軍平の仮想現実論
「仮想現実、仮想現実というけど、あれはちょっと言葉がおかしいんちゃうかなあ。仮想の現実って、ほんとうにおもろいんやろか。現実を仮想した世界の方が面白いに決まってるでしょ。見えているのは現実なんだけど、ほんとうの現実とはちょっと違っている。それが面白いんちゃうかなあ。だから、あれは仮想現実じゃなくて、現実仮想というべきなん違う?」