ロックで独立する方法/忌野清志郎

出版時期のずっと前、2000年のインタビュー、つまり、あんなことがあったから出たわけで……、未だに表紙は直視できません。一年経ってようやく読もうという気分になれた。肝心な話については長文引用になってしまった(これでも削った)。

ロックで独立する方法

ロックで独立する方法

 

崩壊の真相

「自然消滅」とか「天寿を全うした」とでも言うしかない。確かにギクシャクはしてたけど、何か決定的なトラブルや摩擦があったわけじゃないんだよ。(略)やっぱり最終的には、オレと仲井戸さんとの関係が大きかったかもしれない。(略)[数年前から自分のスタイルでやりたいと思っていたところに、新井田耕造が脱退し]チャボの中で弾けたんじゃないかな。ひとつの決心がついたというか。
 新井田さんが辞めたのは「時代」のせいもあったかもしれない。(略)
ドラマーはリズムボックスを聴きながら叩くっていう、ちょっと倒錯したスタイルが定着してしまった。(略)アナログなリズム感覚に変調をきたしたというか、彼の好きだった「たまった感じ」みたいのがズレてきちゃったというか……。(略)
[『RAZOR SHARP』の前、清志郎とG2抜きの“チャボバンド”(&春日)のツアーが楽しかったリンコさんが次のアルバムは春日をプロデューサーにしたいと言い出し]
春日といえばとにかくドラマーに人一倍うるさいタイプだから、それで新井田くんと揉め始めちゃってね……。まあ、いろいろあったんだ。
 オレとリンコさんの関係っていうのも、確かに不思議な関係かもしれない。なにしろもう当時で20年近く一緒にやってきたわけだし、ある種兄弟みたいなものだ。(略)で、RCが休業に決まった時点で、リンコさんの中にはチャボバンドに「移籍」しようという思惑もあったんだと思う。
ところが、チャボにはまったくその気がなかったみたいで……。
 そのへんはなかなか微妙なすれ違いなんだけど、仲井戸さんはああいう人だから、きっと「清志郎からリンコさんを奪うわけにはいかない」ぐらいの気持ちがあったのかもしれない。記憶は確かじゃないけど、いつかどこかでそういうことをチラッと言ってたような気がする。そういう人なんだ。
(略)
オレとチャボは仲よくて、オレとG2も仲いいけど、チャボとG2は仲悪い……と、バンド内がそういう複雑な関係になっていく。リンコさんともだんだん仲悪くなっちゃってたな。長い間にはいろいろあるさ。
(略)
[『RAZOR〜』や『カバーズ』での]試みもすべては危機感があったから。でも、「いよいよダメか」って時は、もう20年もバンドをやってればコミュニケーション以前にわかっちゃうものさ。そう感じたのは、確かレコーディングの最中だったと思う。(略)
[正式な解散の一年前]G2はもう音楽があまり好きじゃなくなってた。[長野のスキーロッジにこもり、夏場はそこを貸しスタジオにしていた。]
「辞めてもらうことになっちゃったんだけど……」と話を切りだしたら、一応驚いてはいたけど、薄々わかってた感じだった。少なくとも「まだやる気がある」という様子はなかったから。でも、それも仕方のないことだ。(略)
解散はスタッフや関係者の間でも暗黙の了解事項だった。(略)むしろ驚いてたのは、以前の関係者。破廉ケンチとかサカタとか。オレんちに押しかけてきて「もう一度考え直したほうがいいんじゃないの? しばらく休業ってことにして、また復活するためにオレが頑張るから」って言う。だから「いや、頑張らなくていいんだよ。やっとやめられたんだから。いいんだから頑張らなくって」ってなだめた。(略)
その時はもう「ああ、問題がいっぺんに片づいてスッキリした。あんな面倒くさいやつらともう一緒にやらなくていいんだ!」っていう解放感があった。
 もちろんそれだけじゃないけどね。なんて言うか、確かに失恋した時の気分に似てたな。バンドに失恋したんだよ。「オレのせいじゃないのにな」っていう後ろ向きの気分と「オレのせいじゃないんだから」っていうサバサバした気分が、複雑に絡み合ってて。(略)大袈裟に言えば「身を切られるような思い」「自分の中にぽっかり大穴が空いた気分」もあった。ラクになったけど、つらい。つらいけど、ラクになった。
(略)
 タイマーズが楽しかったのも、ある意味で無責任だったからだ。最初からどうせ一過性の活動と決めてたから、それを維持しなきゃいけないプレッシャーとも無縁だった。その点がRCの場合と決定的に違ってた。
(略)
[『パパの歌』TV出演用の即席バンド2・3’s]
もうRCの二の舞はごめんだっていう気持ちがあるから、あくまでもソロ活動のためのバンドと割り切ってた。「オレがソロで君たちはバックなんだ」っていう暗黙の了解があるはずなんだけど、ツアーで回ってるうちにバックの連中が「ここはこうした方が……」ってアイデアを出すようになる。で、オレもそこはソロとしてもっと仕切りゃいいのに「そうだなぁ」なんて受け入れちゃう。で、気がつくとやっぱりいつの間にかバンドになっちゃってるんだ、不思議なもので。
 結局、オレは厳密な意味でのソロにはなれない、根っからのバンドマン体質なのかもしれないな。

バンドマンと自転車

これまでずっと自分は「バンドマン」だと思ってきた。実際、そう名乗ってきた。自分が「バンドマン」以外の何者かだと思ったことは、一度だってない。自分は常にバンドのメンバーとして活動を続けてきたし、バンド以外の形で音楽をやりたいと思ったこともなかった。きっとこれからも、ずっとそうであり続けるはずだ。(略)
[仲間と自転車でツーリングすると]
全然意識が違ってくる。ちょっと辛くなっても、まだまだ余力があっても「とにかくみんなで目的地まで行かなくちゃ」っていう意識になるんだよ。(略)
なんかそういうところが「あ、RCがブレイクしてステージでむちゃくちゃ演ってた頃の『あの感じ』に似てんなあ」と思ったんだ。(略)急な坂道を登ってく時なんか、もう汗だくになって心臓が飛び出しそうになる。一瞬、このまま死ぬんじゃないかって思うくらい。そんな時、独りだったら「もうやめた」になるんだけど、仲間と登ってる時はそう簡単に勝手にやめられない。
 あの頃も「もうメジャーになったんだから、これ以上頑張んなくていいや」って独りなら思ったかもしれない。でも、みんなで思いっきり登り続けてた。二時間のワンステージ終わるまでに心臓が止まりそうなくらいにね。
 あれは独りじゃ絶対できない。あれは自転車のツーリングのパワーだったんだ。

30分泣いた……。

でもさ、オレはね、一生に一度、100万枚っていうのを売ってみたいんだ。音楽をなんにも変えないで、この感じで。

ファンとして新生RCを設定した春日博文

パーティーの帰りか何かにふらりと立ち寄った、さして面識もなかった売れっ子ギタリストが、RCの現状を目の当たりにするやいきなり「オレがギター弾いてやる。いいドラマーも付ける」ってわけで、一挙に新生RCの基礎工事をしてくれちゃったんだから。(略)正式メンバーになったわけじゃなく、彼はただの「こうすればRCは新しく強力になれる」というサンプルを提示してくれただけだった。でも、それが決定的だったんだ。(略)[ミュージシャン同士]面識はなくても、密かにファンだったりすることは、よくあることだ。この“奇跡”は、春日がRCの個人的ファンだったからこそ起こり得たケースだろう。

もはや「レコードをつくってるだけの場所」

確かにかつては大手レコード会社が音楽業界全体を牛耳ってた時代もあった。(略)もはや「レコードをつくってるだけの場所」と考えたほうがいい。(略)「プロダクション側が脅さなければレコード会社は動かない」というのが常識化してる。(略)例の『君が代』問題で揉めた時にも、昔からの友人で某プロダクションの社長のMに相談したんだけど、やっぱり「ポリドールはダメよ、脅かさなきゃダメなんだ、あの会社は!」って懇切丁寧なアドバイスをくれた。(略)
 オレもいろんなレコード会社を遍歴してきたけど、結局どこも同じようなもんだった。契約を結ぶ前は「もぉウチはロックだけは絶対どこにも負けませんから」みたいな調子なんだけど、中に入ればどこも同じ。(略)いかに会社を維持していくか、いかに社員を食わせるかだけの世界になっちゃってる。
(略)
[そんなシステムのアンチとして生まれたインディーズも、すっかりメジャー傘下]
 ようするにインディーズじゃなくて「インディーズ的な音」や「インディーズ風のスタイル」が、新しい売れセン商品として「インディーズ」の名前をつけてメジャーな路線に流されるだけ。ただし契約金ゼロ、製作費自己負担ってとこだけ「本物のインディーズ」だったりする。わけがわからない。

君が代』とジミヘン

『TIME』の記者と自然にジミヘンの話になって、こちらが「アメリカじゃこんなこと問題にならないだろ。ウッドストックでとっくの昔にジミヘンがあんなことやっちゃってるんだから」って逆取材したら、「そんなことない。実はあの時、ジミヘンだっていろんな非難を浴びてた。ただベトナム戦争に国中がうんざりし始めてたから大きな問題にならなかっただけで、仮にあれを湾岸戦争の頃にやってたら右翼が大騒ぎしたはずだ」って答えてた。

客層

何年か前から、ステージで最後に『雨上がりの空に』を演らなくてもよくなったんだ。演っても昔みたいな盛り上がり方がなくなった。ようするに、ちょうどその頃に客が入れ替わったんだな。RCをひきずってない新しいファンが多数派になったってわけだ。

ラタイガミタイ

[あぶないファンレターの話から]
中にはネタにさせてもらったのもあった。汚い字で「初めてお便りします。私はキヨシローさんの裸体が見たいです。他になにも望みはないです。最近そう思い続けています」とかなんとか書いてある。普通じゃないと思ったが、その「裸体が見たい」ってフレーズは韻を踏んでるし、不思議な響きなんで「きみのラタイが見たい」って歌詞に使わせてもらった。

独立は自由か面倒か

独立する前の「自分には見えなかった問題」とか「自分には関係なかった問題」ってのは、ようするに「自分ではどうにもならない問題」だった。それが「自分でどうにかしなきゃならない問題」になってくるわけだ。それはつまり「自分でどうにかできる問題」ということだ。それを「自由」と呼ぶか「面倒くさい」と呼ぶかは、本人の独立への覚悟や意識が決める。

  • 余談

イヤな仕事を断る場合「法外なギャラをふっかける」という方法があるが、たまに相手がOKして失敗する。その一例が陽水の「お元気ですか〜」CMですって。

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