ウルトラマンになった男

とりあえず、一番ほのぼのした会話から。

ウルトラマンって、何?どう演技プランを立てればいいの?」
「僕もあまりよくわからないけど、宇宙の人なんだって……」

ウルトラマンになった男

ウルトラマンになった男

  • 作者:古谷 敏
  • 発売日: 2009/12/21
  • メディア: 単行本

成田亨

[成田からの指名に、役者だから中の人はイヤだと固辞すると、成城の高級中華店に呼び出され]
「ビンさん、昼に飲むビールは一番うまいんだよ。なぜかわかるかな?」(略)「それはね、みんなが仕事をしているのに、自分だけビールを飲んでいる罪悪感があるから、それでうまいんだよ」
 成田さんはのんびりと、とてもおだやかなしゃべり方をする。店内が暖かいので、ビールがうまそうだった。成田さんが、
「『ウルトラQ』のケムール人、僕が描いていたイメージ通りでとてもよかった。あれだけやれる人はほかにいないよ。ビンさんの演技力だよ」
 ぼろぼろと少しずつ、思いつくままに話す。
「そのビンさんを見てデザインしたんだよ。すごくかっこいいヒーローなんだ。だから、ほかの人ではだめなんだよ」

  • 匿名

最後までやれるか不安だったので絶対匿名にしてと言ったのに、いきなりテロップに古谷敏。予算がないから古谷仕様のウルトラマンしか作ってないので、代役はいないよと宣告される。

金城哲夫

「ビンちゃん、この『映画』、絶対に当たるから!」
 そう言った時の金城さんの目は真剣だった。みんなを巻き込む確信に満ちた表情と声。この人なら大丈夫だ。僕はこの時、金城さんと一緒に仕事をしようと心に決めた。だから、僕は言った。(略)[中の人の待遇改善を訴えた。]
僕が『ウルトラQ』のケムール人や、ラゴンに入った時、現場の人たちの対応はすごくぞんざいだった。ぬいぐるみの中に入っている人への思いやりが、全くありませんでした。粗末な部屋で着替えたり、いすもなくて立ったまま撮影待ちしたり、水も用意されなかったり、苦しい思いや、やるせない思いをしました。今度の撮影が始まったら、ステージの中に水やレモン、塩とか、砂糖、いすも用意していただきたい。風呂やシャワー、控室の整備もやってください。こんな細かいこと、金城さんに話すべきではないと思ったのですが……。新野さんから聞いています。円谷プロで一番影響力を持っている人だと。金城さん、いい環境で仕事させてください。気持ちよくできれば、いい作品ができます」
 金城さんは黙って聞いてくれた。(略)
[そして実際に環境は改善された]
僕はますます金城さんに尊敬の気持ちを持つようになった。

スーツ

最初の国産のウエットスーツはベースが黒色だったのでそれに[刷毛で]銀や赤を塗っていた。(略)後半のアメリカ製の生地は赤で、銀の生地も入手できるようになったので、それを貼り合わせるような作り方に

目の穴

[撮影会当日に完成したマスク、だがほとんど前が見えず転んでしまう]
 成田さんが、手にドリルを持って控室に来た。何か、腹を立てている感じがした。
 「ビンさん、仮面の目の位置を決めて、穴を開けるから……」
 僕は成田さんの顔を見た。複雑な表情をしていた。
(略)
[だいぶ後に成田が語ったところによると]
自分に腹を立てていたのだそうだ。本当は透明なプラスチック板とかを入れて、きれいに仕上げたかったのに、なんでもっと早くやらなかったのだろうと。
 「あの時は、仮面に穴を開けるのはつらかったし、やるせなかったよ。やるしかなかったのでやったけど、撮影の時にちゃんと元に戻すつもりだったんだ。だけど時間もないし、めんどうくさくなってあのままにしてしまったんだ。デザイナーとしては失格だったよ」(略)
仮面は三回変わったが、結局目の処理は特に変わらなかった。たぶん最初のやり方で定着しちゃったので仕方がないと、成田さんたちも思ったのだと思う。

隊員になりたくて

ウルトラマンの中から隊員たちを見ている。
オレンジ色の隊員服が、僕には金色に輝いて見えた。
まぶしかった。
うらやましかった。
(略)
ウルトラマン、どうだ、苦しいか、息はちゃんとできているかい、暑いかい? 外、見えるようになったかな?」
 仮面を見て円谷監督が話しかけてくれた。びっくりした。僕らはふだん、そばにも寄れないくらいの偉い監督だ。(略)僕は感激してうわずった声で答えた。
 「はい……、目がよく見えません、汗が流れ出ています。全身を締めつけられているので、手足がしびれています。でも、慣れれば大丈夫だと思います」
 そう答えた。
 「大変だけどね……夢だよ、夢を、こ……」

イデ

 同期のニヘイは、もともとイデ隊員役に決まっていた石川進さんが降りたので、急きょ出演が決まった。ラッキーだった。
 ニヘイが少しうらやましかった。
[ハヤタとアキコは東宝の後輩]

胸騒ぎの腰つき

[ジェームス・ディーンを意識したポーズに、高野宏一が]
 「フルヤちゃん、もう少しかがんでみて。ホリゾントが切れちゃうから、もう少し、もう少し、オーケー!!今の形、忘れないでね」(略)
来るたびに、「この腰が引けているポーズ、ヒップラインが、なんともいえず色っぽいんだよな」。そう言いながら、僕のお尻を手でさわりながら、笑顔でステージを出ていく、変な人がいた。金城さんだった。そして、変な人はもう一人いた。成田さんだった。成田さんにもゴムの手ざわりがよいと言って、よくお尻をさわられた。

飛びます

[飛び去るシーンは六人で台を持ち上げるのだが、そのたび転げ落ちて打撲]
 この苦労したカットは撮影の最後に必ずやるようになった。お約束のカットだ。
 高野監督に聞いたことがある。
 「同じカットだから、前に撮ったフィルムを使えばいいのに」
 監督は、こう答えた。
 「作品、作品でラストシーンは違うから、最後のカットでそういった臨場感が欲しいんだよ。それと特撮スタッフがみんな一緒に作ったという、チームワークの確認だ」

最強怪獣・中島春雄

(「ホイホイ」というのは著者自らが提案したあだ名。)

 「ホイホイ、こうやっておれの首を持って、本気で思いっきり遠くへ投げろ。本気でけとばせ。本気で殴れ!」
 怪獣は厚いゴムだから、力いっぱい殴られてもなんにも感じない。殴る僕の手の方がむしろ痛いのだ。中島さんは力いっぱい本気で、ウルトラマンを投げる、押しつぶす、殴る、馬乗りになって全体重をかける。テストも本番も、何回もやるので、あっちこっちが痛くなってしまう。(略)
ウルトラマンが戦った怪獣で、一番強かったのは? 怖かったのは? 大変だったのは?」 その後よく聞かれた質問だ。答えは……「中島さん」。

下田ロケ

[気分転換にと、満田&高野の計らいでジラースの回にチョイ役]
ゲームコーナーのボーイ役だ。照明が暗い感じで、カメラもロングで撮っているので古谷とはわからないだろう。撮影はすぐに終わってしまった。何か物足りなかった。もちろんノンクレジットだった。

死ぬかと思った

 石油タンクが次々と爆発した、すごい音と火柱が立った。ペスターのいる海の中も炎が走っていく。中に入っている二人は、水と火の中で苦しそうにもがいている。演技なのか本当に苦しんでいるのか、わからない。(略)タンクのブリキの蓋が空飛ぶ円盤みたいに、あっちこっちに飛んでいる。プールの表面は火の海だった。
 二人の動きがにぶくなってきた。もう限界だ、助けに行こう。同時にカットの声がかかった。(略)血の気がなく顔が真っ白。そして引きつっていた。苦しくて怖かったんだな。この気持ちはぬいぐるみに入った人にしかわからない。(略)
[ギャンゴの回が]終わった後に高野監督と話をした。水のシーンは恐ろしいです。[仮面に水が入ってきて]息ができなくなって死にそうになります。水の中に入るシーンは少し考えてください。
 それから水のシーンは減った。ウルトラマンが死んじゃうと困るからね、監督はそう言ってくれた。
(略)
 火のシーンも怖い。
 爆発のシーンは、火薬とガソリンを一緒に使う。その炎の中に立っていると、熱風が起きる。そしてまもなく煙は仮面の中に入ってくる。一瞬酸欠になるのだ。 

やさしいウルトラマン

 「金城さん、最近怪獣を殺すの、嫌になってきました。何かもやもやして、やりきれなくなっていい演技ができない、そんな心境なんですよ。たまには殺さないで、宇宙に帰してやりたい。金城さん、そんなやさしいウルトラマンがいてもいいじゃないですか」(略) 
 しばらくたって、第20話の台本をもらって読んだ。金城さんの脚本だった。
「恐怖のルート87」怪獣は、ヒドラ
 怪獣を殺さないストーリーだっだ。(略)
ウルトラマン』も終わりに近づいたころ、金城さんは僕に、「ヒドラとウーはやってよかったよ。いい作品だった」
 そう言ってくれた。

ジャミラ

には荒垣輝雄さんが入って演技した。悲しい顔をしている、人間そのままの動きをしている。荒垣さんは僕に、
ジャミラになったけど人間に戻りたい、そんな思いで演技をしたんだ」
と話してくれた。

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