ナラ・レオンの真実・その2

前回の続き。

ナラ・レオン 美しきボサノヴァのミューズの真実 (P‐Vine BOOKs)

ナラ・レオン 美しきボサノヴァのミューズの真実 (P‐Vine BOOKs)

 

犬猿の仲・エリス・レジーナ

ナラ・レオンっていう女の子には、何の反感もなかったの。今は、MPB内外でナラがころころ姿勢を変えることにイライラしちゃうのよ。長い間、女神だったくせに、次第にあるムーヴメントに参加しては次に移ることを繰り返すようになった。ボサノヴァから始まって、そのあと、モーホのサンバを歌うようになって、のちには、プロテストソングに向かい、それが今では、イエ・イエ・イエを支持しているわ。全部自分で否定してきたものよ。(略)全てのスクラップをみんなで集めたら、結局は“でたらめ”という名のゲームだって分かるわ。
(略)
ナラはいつも旬な人にケンカを吹っかけるの、自分がそれで目立つようにね。(略)とにかく実際のところは、ナラはとても歌が下手で、話が上手いということ。自分がやりたいことがわらかないんだわ。(略)いつの日かナラが正直になると決めたら、私たちは友達に戻るって確信しているの」 

ナラの方も「人生何がそんなに楽しいんだか。ずっと笑っているだけじゃない」と返している。
 

カエターノ・ヴェローゾによる納得の解説

「エリスには、ナラが思いも及ばないような音楽的な才能と歌がある。でも、エリスには無名の商業歌手としてのコンディションからテレビを介して商業的に成功した人としてのイメージがあり、ナラの軌跡と比較したときに不安定さを感じてしまうのだろう。ナラは、ボサノヴァ創始者であり、政治的なポジションを決めるにしても、知的好奇心という意味でも上流階級の余裕があって、わざわざ何かを証明したりとか、飛びぬけた才能を見せ付けたりする必要がない。

パリへ

政令第五号の時代、シコ・ブアルキ、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ジェラルド・ヴァンドレー、エドゥ・ロボらは既にブラジル脱出。八年間の歌手生活に疲れた27歳のナラは、69年ヴェネチア経由でパリへ。そこでの仲間の一人が

ガルシア・マルケスはナラが大好きで(略)一目見ただけで自分の映画への出演依頼をしたのだ。(略)
ナラは、フランス人が歌うブラジルの曲に、フランス語の歌詞をつけて家計を助けていた。その中の一人が、音楽活動の絶頂期にあったフランソワーズ・アルディだ。
(略)
[子供も産まれ]パリでの穏やかな生活が、ナラに働く喜びを思い出させた。(略)音楽を通して、再び「ブラジル」を見出したいと思っていた。でもそれは、フランスに追いやられることになった灰色のブラジルではなく、思春期や青春時代の、クビシェッキ大統領の希望に満ちたブラジルだった。「うまく説明できないのだけれど、でも、急に、唯一歌いたいと思ったのがボサノヴァだったの。ギターを取ってトムや、カルロス・リラの歌を歌い始めた。(略)ずいぶんと時間がかかったけれど、音楽を再び好きになったの。それまでというもの、音楽がずっと嫌いだった。

『美しきボサノヴァのミューズ』

71年夫の仕事と言葉を話し始めた娘のためにブラジルへ戻ることに。

新しいアルバムは『美しきボサノヴァのミューズ』と名付けられ、ナラは出来に満足していた。「このアルバムでは、とてもうまく歌えていると思う。“趣味はいいけど歌が下手”とか言っている人たちにも、そう言いたい。もうそんな話はうんざり。だって本当に、私は歌がうまいと思う。(略)[声量がなく音程が外れているといった批判]には飽き飽きだし、すごく傷ついたわ。(略)昔は「どうしてヒットしたと思う?」って聞かれると、謙虚に「レパートリーがいいから」って答えて、それにみんなも納得していたけれど、もうそういうのは終わりにしたの。私は歌がうまいのよ」

美しきボサノヴァのミューズ

美しきボサノヴァのミューズ

 

ナラは、当時マンシェッチ誌のパリ支局長だった幼馴染のネイ・スロウレヴィッチにアルバムジャケットのレイアウトと写真を依頼した。ネイはおそらく、1964年の軍事クーデター後に初めてパリに亡命したブラジル人だ。(略)
[観光客相手に写真を撮って生計を立てていたが、凱旋門正面で燃える車を激写したのがきっかけでマンシェッチ誌に採用された。]
ネイとナラは、アルバムの写真をセーヌ川の川辺で撮る約束をしていたが、予定していた時間のパリはとても冷え込み、雪が降っていた。ナラは時間を変更してもらおうと電話をしたが、ネイは賛成しなかった。
「こんなに雪が降っている中で写真を撮るわけ?」
「この雪で撮るからこそいいんだよ」
 ナラが黒いレインコートをまとって、黒い帽子でやってくるのを見て、ネイは「ロシアの兵隊みたいだ」と思い、ナラに挨拶をする前から写真を撮り始めた。写真の出来は本当に素晴らしいものだった。