ナラ・レオンの真実

ナラ・レオン 美しきボサノヴァのミューズの真実 (P‐Vine BOOKs)

ナラ・レオン 美しきボサノヴァのミューズの真実 (P‐Vine BOOKs)

 

ボサノヴァはもうたくさん

[64年10月のインタビュー]
ボサノヴァはもうたくさん。意味もないし、もうたくさん。アパートの音楽集会で、ニ、三のインテリのために歌うなんてもううんざり。(略)もっとメッセージがある純粋なサンバが歌いたいの。それに、ボサノヴァがうちで生まれたなんて大嘘。メンバーは私の家にも集まっていたけれど、他の場所でもたくさん集まっていたのよ。私は本当にボサノヴァと関係ないんだから。(略)ボサノヴァなんて眠くなるし興味が沸かないわ。」

後に本人も攻撃的だったと認めているこの発言に、「“みんな”のインテリジェンスを過小評価しすぎ(シルヴィア・テリス)」「少し過ちを犯しているように感じるけれど、それは若さによるものだ。(ルイス・エサ)」etc。
父は弁護士、母は教師、女でも自立することが大事だとだけ教えられ、あとは自由奔放に育てられたナラ。16歳でブラジル一有名なモデルとなった姉に劣等感。

12歳の頃は泣いてばかりいた。おとなしくて、シャイで、自分自身をすごく醜いと思っていたの。最悪なのは、美人の妹だっていうこと。あのとき、ナラ・レオンはまだ存在していなかったわ。(略)
何かあるといつも自分のせいじゃないかと過剰な罪の意識を感じて(略)19歳の頃にはコンスタントに自殺を考えるようになった。音楽活動をしていたから、青春なんてなかったし。

左傾化

[62年恋人ルイ・ゲーハ監督の『良心なき世代』出演オファーを断るも、多くのシネマ・ノーヴォ映画人と知り合いに]
ナラが政治的活動をするようになったのは、カルロス・リラの影響だと思っている人が多いが、(略)[当時は断交しており]リラも著書で「ナラが政治的になったのは、シネマ・ノーヴォの影響だ」と述べている。

“反逆分子”

[64年フィリップス移籍。メディアに「Asa Branca」を録音したいと話し「コパカパーナの女の子が北東部のバイアォンを歌うなんて!」と驚かれる。当時“反逆分子”は軍事政権に反対する人間を意味する言葉]
ナラは「人々の悲劇や、問題、悲しみ、苦悩や喜びを歌うのが“反逆分子”と分類されるんだったら、そう呼ばれることから逃れられないと思う。(略)」と話している。
 この「本当のブラジル音楽のルーツを探したい」という発言は、まさに真剣なもので、ベレンからリオヘの帰り、各地の音楽を知るために北東部のたくさんの街に寄っている。高性能のレコーダーも買った。(略)旅の最後はサルヴァドールヘ。そこでは、数々の音楽を、特にホーダ・ヂ・サンバの曲を収集するつもりだった。
[そこで21歳のカエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジル、17歳のマリア・ベターニャと知り合う]
カエターノは著書に「その身軽さ。実用的な考え方で偏見がなく、気品のあるその振る舞い。高慢なところのない、繊細な輝き」と

Opinião

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64年来日

 日本滞在中、全てはうまく行っていた。しかし、ナラがファッションショーで「オピニオン」を歌うと決めた時、事件は起こった。セルジオ・メンデスがピアノで伴奏することを拒否したのだ。(略)
ナラがショーの間や休憩時間に、若いモデルたちにも熱心に政治の話をして興味を持たせようとしていたことを、セルジオ・メンデスは知っていた。ナラは女の子たちに、ファッションや流行などの無益なことはやめて、民衆の貧困などのもっと深刻なことに関心を持つように説教していた。(略)
[結局自分でギターを弾き「オピニオン」を歌った]
ナラによると、セルジオ・メンデスはショーの間にナラに嫌がらせをしていたそうだ。例えばいくつかの曲で、ナラが歌で入ろうとした瞬間に曲のキーを変えて意地悪をした。そこで、各曲のキーをよく理解していたナラは、いつも自分でギターを弾いて歌うようになった。

この後で冒頭の発言となる。でも、セルメンがイラッとするのもなんとなくわかる。

マルコス・ヴァーリナラ・レオン批判

[マルコス・ヴァーリと兄の共作「A resposta」の歌詞は]
明らかに「郊外に住む人たちを心配したゾーナ・スル地区の女の子」であるナラ・レオンを批判するもので、政治的な音楽を支持する人たちも批判している。
(略)
自分の言いたいことも分からないような
人たちのことは放っておきな
彼らには理解できないんだ
いいサンバには
空や海を歌ったものもあるって
だけど、いいサンバは人々が日々感じる
飢えを歌ったものらしい
(略)
貧しい人のために何もしないのに
海の見えるところに住んで、モーホの話をしたところで
生活が良くなる人がいるわけじゃない
[“ビーチのサンバ”と紹介されていたヴァーリ兄弟だが、すぐに農地改革を擁護する“Terra De Ninguem”(後にエリス・レジーナが大ヒットさせる)をリリース“社会的な音楽”に参加してゆく。「ギターを弾く手も戦争をするし大地を傷つける」という“Viola Enluarada”がヒットしたり。]

Terra de Ninguém

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Viola Enluarada

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うんざり

[65年]「歌手としての生活に耐えられない」と話し、音楽活動に対する冷めた発言で読者をびっくりさせたことがあった。「きっともう私、歌わないわ。最初は、街に出ると『ほら、ナラ・レオンよ』って言われるのを聞いて、すごく気持ちが良かったの。でも、毎日すごい数の電話がかかってくるのよ、そのほとんどは不躾だし。お客さんががっかりしちゃうから、毎回必ず「カルカラー」を歌わないといけないし、女の子たちが真似するから、この前髪も服装も変えられないし。みんなに抑圧されているようで苦しいの。まるで私の意思なんてないみたいだし、みんながナラという人を作り上げていて、それが自分じゃないように感じるなら、全てをやめるしかないじゃない」

Carcara

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明日につづく