そして戦争は終わらない

そして戦争は終わらない 〜「テロとの戦い」の現場から

そして戦争は終わらない 〜「テロとの戦い」の現場から

仇討ち

[障害者&女性用区画も設置されたサッカー競技場で処刑ショー。スリが片腕を切断され、次は殺人罪の男]
 「コーランには、社会の平和を守るために、人殺しは死をもって償うとある」スピーカーの声が、競技場内にこだまする。「もし罰が与えられなければ、そのような罪が社会にあふれてしまうだろう。無秩序と混沌がふたたび戻ってくるだろう」(略)
二つの家族は、互いに触れそうなくらい近くにいた。法典には、慈悲の可能性も記されている。もし被害者の家族が望むならば、アティクラの処刑は中止される。(略)
[加害者の父]は泣きながらさらに続ける。「お願いです、息子を許してください」
 「そんな気はさらさらない」と被害者の父親、アフマド・ヌールが冷静に応える。「やつを許すつもりなどない。あいつは私の息子を殺した。その報いは受けるべきだ。決して許さない」
 両家共に、古い毛布のような黄緑色の衣服をまとい、その頬はこけて乾いている。みんな泣いているので、同じように見え、誰が誰だかわからない。
 「たとえ世界中の黄金をくれると言っても」とメールは言う。「絶対に受け取らない」
[被害者の弟にカラシニコフが手渡される]
(略)
 「信仰者たちよ!」スピーカーの声が言う。(略)「誰しも復讐の権利が認められている」(略) 「命をもって償うのだ」(略) 弟が引き金を引いた。(略)
大学フットボールの試合が終わったかのように、観客がグラウンドになだれ込んだ。(略)
アメリカじゃあ、ビデオや映画があるけど」と、アフガニスタン人の一人が話してくれた。「ここじゃあ、これが唯一の娯楽なんだよ」

地雷

 カンダハールの近くに地雷原がある。それ自体はどこにでもあり、別段珍しくもないのだが、そのそばにジュマ・ハーン・グラライという男がいた。きれいな縁の野原だった。グラライは肉屋で、その場所に肉切り台を持ち込んでいた。エプロンと包丁も用意ずみだ。グラライの説明によると、毎日のようにヤギが草地にふらふらとやって来て、草を食べるのだという。そして地雷を踏みつけ、吹っ飛ばされるというわけだ。そのあとに野原に入り込み、残骸を回収する――もちろん命がけで――そして、ヤギを肉切り台に載せて切り刻み、それらを売る。
(略)
ソビエトが埋めた地雷の上にムジャヒディーンが、その次にタリバン、次にまたムジャヒディーンが地雷を埋める。(略)将軍はさらに新しい地雷を埋め込みつづける。(略)
 「時々夢を見る、自分がここで吹っ飛ばされる夢を」

タリバン

 たしかにタリバンの連中は恐ろしい。ハイラックスに乗り、いつも興奮状態で白いターバンをひらめかせているやつら。彼らは町でも最悪のゲス野郎であり、自分たちでもそれをわかっている。レストランの向かいの席に座ったら、出されたカバブに文句を言い、黒く縁取った目で、こちらをじっとにらみつけてくるだろう。そして、もし一瞬でも目が合おうものなら、殺されると思ったほうがいい。レンガのように頭の足りない連中だが、そんなのは問題ではない。支配的な文化とはいつもそんなものだ。ギリシア、ローマ、そしてイギリス人。彼らも他人がどう思うかなどお構いなしだった。理由など斟酌しない。立ち上がって実行するだけ。タリバン。その力と無知。相手のことを気にかけるなど、やつらの頭にはない。(略)
 タリバン兵は平気で地雷原に突入していく。爆発しても彼らは突入をやめない。どんな幻想に駆られているのか、あるいは熱病にかかっているのかもしれない。

少なくとも最初のうちは、多くの市民が支持していた。タリバンについて訊ねてみるといい。誰もが言うのは、彼らは将軍たちの力を抑えてくれたという事実だ。かつては町を横切ることもできなかった。将軍たちが町の中心で激戦を繰り広げ、縄張りを争っていたからだ、ギャングさながら、税金と窃盗の権利を得るために。(略)
[内戦の時代、彼はタリバンの指揮官としてカブールにいた。]
夜通し彼の話に耳を傾けているうちに、自然とこの老兵に尊敬の念を抱いていた。無秩序が支配するこの国を、何もない荒野に戻せるのは、卑劣で凶悪なタリバンしかいなかった。
 「タリバンは、神の言葉以外には耳を傾けない」とモハンメディが語る。「彼らは無法の国に、秩序をもたらしたのだ。彼らがすべての敵に勝利し、あれほどの権力を持ち、残酷になるということを、いったい誰が想像できただろうか?」

拷問ビデオ

 時々、私たちは精神病院に侵入してきたのではないかと思うことがある。(略)患者たちは寄り添い、部屋の隅で頭を抱えながら、自分たちが垂れ流した汚物の上に座っている。言ってみれば、今のイラクはこんな感じなのだ。(略)殺人と拷問とサディズムが、今やイラクの一部となり、それが人々の頭の中から離れないのである。
 たまに「ニューヨーク・タイムズ」紙バグダッド支局の編集室に入ると、イラク人従業員がテレビの周りに集まり、拷問ビデオを見ていることがある。バグダッドのバザールに行けば、そうしたビデオはすぐに手に入れられる。いわばサダム時代の副産物だ。そんなときの彼らは決して画面から目を離すことなく、黙ってビデオを観ている。あるビデオの中で、バース党の連中が一人の男の両腕を床に押さえつけ、さらに別の役人が男の前腕を千切れるまで金属のパイプで殴りつづけているというものがあった。そのビデオに音声はなかったが、男の叫び声が今にも開こえてきそうだった。編集室のイラク人は、誰も口を開かなかった。

非致死の罰

 夜のチグリス川に飛び込ませるやり方は、ササーマン中佐の部下が考え出した、まったく言うことを聞かないイラク人たちに対する罰の一つだった。殺さずに、規律を守らせようとしたのである。兵士たちは“非致死の罰”と呼んでいた。(略)
理解できないわけではない。2003年の秋になる頃には、スンニ派の中心地では、反乱が日常的に起きていた。それは単に、武装勢力が米軍兵士を殺害するだけでは終わらなかった。民間人があらゆる方法で、米軍を拒絶したのである。(略)
 イラク人をふたたび支配下に収めるために、ササーマンたちは様々な“非致死”の刑罰を編み出す。(略)子供たちが米兵に石を投げると、ササーマンは石を投げ返させた。(略)[子供が首を掻っ切るしぐさをすれば]追いかけ、村の壁をぶち壊し、家の中から引きずり出した。夜間外出禁止令を破った住民を逮捕すれば、町から何十キロも離れた場所まで連れていき、そこから歩いて帰宅させた。反米の落書きを見つけると、その壁を壊して整地した。

自爆テロ

 自爆で最も忌まわしいのは、頭部――しばしば無傷で残ることのある、爆弾犯人の頭部だ。それは、物理学者にしか説明できない、不可思議な法則の結果だ。分離した頭部が、破壊される前に遠くへ飛ばされてしまうのだが、爆風の速度が速すぎるために起きるそうだ。その結果、頭部はレンガの上とか、電柱の足元にちょこんと置かれたようになっている。
(略)
イラク人は、自爆犯はどこか別の場所からやって来た人間だという主張を決して譲ろうとしない。「イラク人はこんなことはしない」と彼らは言う。まるで豚を食べることや酒を飲むことを否定するように。とはいえ、しないと言うことをやるのがイラク人だ。あるとき私が自爆の現場に駆けつけると、足が落ちていた。イラク人たちに、どうしてこれが犯人の足だとわかるのかと訊くと、「これはイラク人の足じゃないからだ」と答えた。

イラク国境シリア側にて

「米軍はやたらと銃を撃つから困る」とシャマド少佐が言った。一週間前、地元の人間が二人、シリア人とイラク人のいとこ同士がイラクに入ろうとして銃撃され、死亡していた。(略)
うんざりした様子でため息をついた。「あんたらにわかってほしいんだが、国境の両側にいる人間は親戚なんだよ。シリア人とイラク人は――同じなんだ」彼らは同じ部族に所属している。互いに商品を密輸入し、国境の両サイドでヒツジを育てている。以前は、誰も彼らを止めなかった。「米軍はどうしてそんなこともわからないんだ?」
(略)
[米軍に射殺された青年の父は]
 「あんたたちは、俺がイラク人だとか、パレスチナ人だとか、シリア人と呼んで区別をするが、みんな同じなんだよ。違いなんてないんだ」彼は窓の外を指し示した。「この地に住む人々は、いつ蜂起してもおかしくないほど怒っている。今すぐにでも、俺たちは米軍に立ち向かう覚悟がある」

明日につづく。