容疑者ケインズ

容疑者ケインズ (ピンポイント選書)

容疑者ケインズ (ピンポイント選書)

格差是正にこそ、資本主義の安定の道がある」

ケインズは、「格差是正にこそ、資本主義の安定の道がある」という画期的なことを考えていたに違いない

 非常に乱暴な言い方でまとめるなら、失業者という、免税され、所得のほとんどを使い切ってしまうような人々にお金を移転することで、強い有効需要が生み出され、それが景気をよくする、ということなのである。
 ここで注意しておかなければならないのは、これと同じ効果を、失業手当のような税金を使った所得移転も引き起こすことができる、という点だ。つまり、二兆円を、仕事を持つ国民から徴収し失業者に移転すれば、それだけで景気はよくなる。これは、ケインズのいう「穴を掘って埋めるような公共事業でも、失業手当よりまし」ということばが、ケインズの組み立てた経済の仕組みの中でさえ誤りであることを意味している。
 ケインズの『一般理論』は、このような富んだ者から貧しい者への所得移転が、景気を下支えする効果があることに最後の最後で触れてはいるのだが、理論的な枠組みに中にきちんと取り込んではいなかった。
(略)
 これはあくまで推測の域を出ないのだが、ケインズ乗数効果を主張した、その真意の中には、このような格差社会における所得移転が有効需要を作り出し、社会を安定化させることがあったのではないか、とぼくは思う。つまり、ケインズは、「格差是正にこそ、資本主義の安定の道がある」という画期的なことを考えていたに違いない、ということである。

バブルはいつはじけるか

最近になって、物理理論を経済学に応用する研究が盛んになりつつある。それは物理と経済ということばを合体したエコノフィジックス経済物理学)と呼ばれる分野である。(略)
[海蔵寺大成と海蔵寺道代が2004年に]「土地の価格」についての実証研究に用いたのは、経済学で「不平等度」を計測するために導入された「ジニ係数」だった。(略)そのような指標を、バブルの研究に用いる、という発想自体に驚かされる。(略)
 ジニ係数が最大値の1.0に近づくほど、不平等の度合いが激しくなる。
[海蔵寺ら]が興味を待ったのは、「土地の平均価格が高いかどうか」ではないのである。彼らが注目したのは、土地価格が全体として「まんべんなく高くなっている」のか、それとも「値上がりが一部に偏っている」のか、そういう問題だった。そういう「偏り」を計測するには、ジニ係数が適している。
 この論文によれば、ジニ係数は1980-84年頃には0.57程度の水準だったものが、1985年頃から急上昇し、1987-92年の間ずっとピーク水準の0.75程度を保っている。そして、この期間にバブルが崩壊を迎えたのは周知の事実である。バブル崩壊後は、ジニ係数は急速に下がり2000年には0.5程度の水準に戻っている。
 このことから、彼らは、バブルの崩壊は「価格水準がピーク」のときに起きるのではなく、むしろ「価格の偏りがピーク」のときに起きるのではないか、という仮説を提出した。

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余白たっぷりなので、オマケ画像。