見えないアメリカ

ヒラリー上院選スタッフを経てテレ東という経歴の著者。

見えないアメリカ (講談社現代新書)

見えないアメリカ (講談社現代新書)

二大政党勢力図変遷

 南部を中心とした農村を地盤としていた民主党を尻目に、共和党はアーバナイゼーションという都市化の波に乗った。とくに東部、中西部五大湖周辺の工業州の都市で1880年代を通して共和党が支持を勝ちえた。共和党はこの時期、産業化を促進する政策を打ち出し、経済成長の後押しをした「都市政党」とみられていた。(略)
 大転換のきっかけは、新しいヨーロッパ移民だった。(略)
「反カトリック」のプロテスタントが主流をなし、孤立主義によるヨーロッパからの断絶を志向していた当時の共和党には、[カトリックの]新移民はまったく共感を抱けなかった。(略)
大都市には「マシーン政治」と呼ばれる、政治ボスを介在した利益誘導の構図ができあがっていた。(略)
このマシーンが[極貧で定職を求める]新移民を助けた。雇用を約束するかわりに票を獲得するという、双方にとってとても好都合なシステムだったからだ。こうしてイタリア系をはじめとした新移民は、大都市のマシーンのなかに「票」として取り込まれていった。(略)
1932年のフランクリン・D・ローズヴェルトの勝利とともに(略)民主党は、大都市と南部全域を地盤とする「大都市と農村」の政党になった。この大勢力を1960年代まで支えたのは「ニューディール連合」というカトリック新移民、南部白人、黒人という奇妙な連合だった。(略)
[一方、都市の共和党支持層は郊外へ移動]
都市の移民社会から切り離された郊外内部では、エスニック意識は希薄だった。郊外人になることは、更地だった新しい空間で、窮屈なエスニック意識を忘れて「新しいアメリカ人」になることでもあった。

ステレオタイプ

どんなに民主党の地盤が強いはずの州や地域でも、マンハッタンやボストンを一歩出れば、「ニューヨーク・タイムズ」は手に入りにくい。地元紙中心のアメリカでは購読の需要そのものが少ない。そしてリベラルな民主党員のはずなのに、銃を愛好し、カントリー音楽を聴くひとがあらわれる。農村に行けば行くほど、いわゆるステレオタイプで描かれるプアホワイトの白人保守層と外見上はどこも変わらない、熱心な「民主党員」に歓待された。

難病撲滅運動を通じて交友を深めた民主党議員事務所で働いていた共和党員が共和党から立候補するという「事件」があり、議員は落胆した

ジェイの政治思想は複雑だった。旧西ドイツ駐留中に空軍ヘリコプターパイロットとして表彰されている軍人の彼にとって、愛国心は優先すべきことがらだった。しかし、銃規制に賛成する、国内の社会問題ではリベラル派でもあった。「小さな政府」を好む経済保守であり、ビジネスに政府は規制を加えるべきではないとしていて、人種マイノリティヘの過剰福祉にも反対だった。しかし、難病のための研究助成や障害者へのバリアフリー支援については手厚くやるべきだという考えだった。環境問題にはあまり興味がなく、熱心なゴルフ愛好家だった。アカデミックな政策論争にあまり興味をもたず、ささやかな愛国心をもち、政府に干渉されない暮らしを続けていきたいと願っていた。ジェイは州議会選挙に失敗したのちIT会社の経営者に転身してしまった。

エスニック・コミュニティ

なぜ市民が投票したほうがいいのか、権利の有り難さから話すのだが、反応はきわめて鈍い。エスニック・コミュニティ内部にいれば、食べてはいけるのである。彼らにとってアメリカ人であることは、明日をしのぐためでしかないこともある。最新移民が政治意識にめざめるきっかけは、多くの場合、黒人とおなじくヘイトクライムという人種や移民の差別をめぐって嫌がらせをうける経験なのだが、コミュニティの外に一歩も出なければ、そうした嫌な思いからも逃げきれることが少なくない。
 かつてヨーロッパ系の移民のあいだで機能したマシーン政治のモデルは、現在、人口も多く結束力もある中国系に受け継がれている。

国旗より州旗、反ワシントン

[議員会館の各議員の部屋の前には州旗が]
こと議員となると、州の旗の価値は、その星条旗すら上回る。優先すべきは政党のロゴ(民主党はロバで共和党はゾウ)でもない。(略)
 アメリカではなぜ知事が大統領になりやすく、市長への尊敬が強いのだろうか。日本であまり知られていないことの一つに、アメリカ民衆の「反ワシントン政治」感情がある。(略)
非選挙年には「ワシントンの理屈」で動く政治が優先するが、選挙年には「反ワシントン」の民衆ポピュリズムが勢いを増す。

ポピュリズム

ポピュリズムという言葉が政治の領域を飛び越えて拡散しはじめたのは、アメリカでは1980年代の半ば頃だった。「ポピュリズム的である」ということがファッションのひとつのように扱われ、広告のコピーに利用されるようになった。
 ヒューレット・パッカードは、発売した新商品のプリンターを「ポピュリスト、大衆向けにパーフェクトなプリンター」という文句で売り出した。
(略)
 明らかなのは、アメリカでは「ポピュリスト」「ポピュリズム」が肯定的な意味でも捉えられていることである。日本語でいうところの「ポピュリズム」が、大衆迎合主義として否定的な意味しか持っていないことと対照的である。

  • 1860年の成人男性奴隷価格は2000ドル(今なら30万ドル)

疲れたので明日につづく。