ライシャワー覚書1942

希望と憲法 日本国憲法の発話主体と応答

希望と憲法 日本国憲法の発話主体と応答

本文で引用されている1942年のライシャワー「対日政策に関する覚書」翻訳が巻末に載っている。

(略)[ドイツやイタリアとちがって]
日本ではこのように指導者に責務を転嫁することによって、(人民の)面子を救うことはできません。なぜなら、すべての人民が天皇には責任がないことをよく知っているからで、天皇を告発することは国旗を非難すること以上の憂さ晴らしになるとは思えないからであります。日本では現実の指導層はむしろ匿名的な権力使用を常習としており、責任を取らせる政党は存在せず、スケープ・ゴートの役を演じてもらえるような傑出した個人はほとんど見当たりません。偽りの邪悪な指導者の役を演じてもらえる唯一の組織は陸軍でしょうが、いまや全国民が何らかの形で陸軍と軍人崇拝の永い伝統と同化してしまっており、陸軍を責めることで日本人が憂さを晴らせるとは思えないのです。実をいえば、軍事的敗北は軍部独裁制に終止符を打つどころか、軍部独裁制を強化する恐れさえあります。

傀儡

日本は何度も傀儡政府の戦略に訴えてきましたが、たいした成功を収めることはできませんでした、というのも、彼らが用いた傀儡が役不足だったからであります。ところが、日本それ自身が我々の目標に最も適った傀儡を作り上げてくれております。それは、我々の側に転向させることができるだけでなく、中国での日本の傀儡が常に欠いていた素晴らしい権威の重みをそれ自身が担っております。もちろん、私が言おうとしているのは、日本の天皇のことであります。
 (略)日本の基準からいって、天皇自由主義者であり内心は平和主義者であると考えてもよい理由があります。天皇国際連合と協力する政策に転向させることが、彼の臣民を転向させることよりも、ずっと易しいことであるというのは、大いにありそうなことであります。(略)もし、天皇が、彼の祖父のような真の指導者としての資質をもっていることにでもなれば、我々にとってはますます都合の良いことになります。たとえ、彼の半気違いの父親程度の能力さえないことが判明したとしても、それでも、協力と善意の象徴としての彼の価値はきわめて貴重なものであります。
 (略)天皇を貴重な同盟者あるいは傀儡として使用可能な状態に温存するためには、現在の戦争によって汚点がつかないように、我々は彼を隔離しておかなければならないのであります。換言いたしますと、アメリカの人びとに対して、天皇をアジアにおけるヒトラームッソリーニの等価物、あるいは日本版の全体主義を体現する人格であるかのように宣伝することを許してはならないのであります。

人種戦争

日本は国際連合に対する戦争を黄・褐人種の白人種からの解放のための聖戦としようとしております。中国の勇気ある抵抗が、日本がこの種のプロパガンダを過度に利用することを防いでおりますが、日本のプロパガンダはシャムや東南アジアの植民地、そして中国の一部でさえ、ある程度の成功を収めております。中国が戦争から脱落するような事態があった場合は、日本人はアジアにおける闘争を全面的な人種戦争へと変換することが可能であるかもしれません。(略)
 [日系人強制収容は日本のプロパガンダに手を貸すことに]
今次の戦争はアジアにおける白人優越主義を温存するための戦争ではなく、人種にかかわらずすべての人間にとってよりよい世界を樹立するための戦争であるということを示すためには、(日系アメリカ人による)合州国に対する誠実で熱意に満ちた支持ほど優れた証拠はありえません。

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本文に戻って。

 英米帝国主義が特殊主義的であるという批判が日本の統治の正当化になるためには、日本の帝国主義者は西洋の帝国主義とは違った支配の形態を模索し、またその違いを占領地の人びとに積極的に示さなければならなくなってくる。(略)
人種主義を伴わない植民地経営がありうるかのように、帝国日本のアジア支配を特徴づけようとした。(略)
そしてアジア・太平洋戦争後には、今度は、ヘゲモニーを握ったアメリカ合州国が同じ戦術を繰り返すことになる。

黒と黄

1920年代には次第に軍事力を獲得した日本人が、黒人を煽動し、ついには中国人と和解して白人優位を脅かすようになる、といった空想がまことしやかに白人至上主義者によって宣伝されることになる。
(略)
アフリカ系アメリカ人知識人が密かに日本政府から資金援助を得ているのではないかという恐怖は、1920年代以来合州国政府指導者層に常に存在したのであり、真珠湾攻撃の直後に開かれた黒人指導者会議でも、アフリカ系アメリカ人は全面的には戦争協力できない、という決議が多数決で採択されていたといわれている。合州国戦争省長官ヘンリー・スティムソンは、合州国内で共産主義者と日本人が、密かに、黒人暴動を煽動するのではないかという妄想に捉えられており

白人至上主義の露呈

占領のための思想戦において連合国にとって最も恐ろしかったのは「白人」至上主義の批判であり(略)
自らの人種主義を暴露されることは、旧大東亜共栄圈の地域を占領管理するうえで、さらにはアジアにおける合州国ヘゲモニーを打ち立てるうえで、もっとも不都合な事態を招来することになっただろう。1920年代以降、「白人」至上主義を指摘することで日本の帝国的国民主義は、アメリカ合州国大英帝国の特殊主義的な現実を弾劾することができたからである。(略)
[占領軍内での]
人種差別と叛乱については厳しい報道管制が敷かれていて、松本清張の「黒地の絵」のような短篇小説でしか発表できなかった。[朝鮮戦争勃発直後の小倉での黒人兵叛乱を描いている]