レイプ被害者のわがまま

はてなサイズではわかりにくいかもしれないけれど(密林拡大表紙参照のこと)、「性犯罪にあうということ」というタイトルでヴァルネラブルなかんじの女性が表紙である、御丁寧に裏ジャケではしゃがみこんでカメラ目線である。商売上はこれで正しいのであるが、当の本人は「あざとい」などという発想のかけらもなく、ただ、けなげに被写体になっていて、そこが根本的な問題なのだなあと言っても伝わらないとこが根本的な問題。

性犯罪被害にあうということ

性犯罪被害にあうということ

イヤミなイントロからして駄目本認定と思われた方もいるかもしれないが、ある意味ではよくできた本。
AVの延長のように実に陳腐に実行されてしまうレイプと、その後放り出された被害者が直面する身も蓋もない現実とのコントラスト。「感じるか?」「いいだろ?」などと口にする犯人の非現実的陳腐さと、血まみれの体を公園の薄汚れたトイレでポケットティッシュで拭う被害者の実に索漠とした現実。警察から向かった病院で治療費を七千円請求され釈然としない気持になったり、逆に警察で調書を取ったあとに一万円渡されたり。

 大きな怪我がないことを確認され、写真を撮られた。血のついたシャツを着て、「いかにもいま、何かありました」といった感じの私の写真を。この血は、私自身のものだった。自分の生理の血を、誰かの手によって服や身体につけられることがあるなんて、想像したこともなかった。カメラを向けられ、まさか笑うわけもなく、ただ呆然と、立っていただけ。正面からと横向きを二、三枚撮られた。フラッシュがまぶしくて、恥ずかしくも感じた。屈辱と感じたのは、後になってからだった。同時に、撮る側の心情も気になった。
 『服の乱れた、泣いている人間の写真を撮るというのは、どんな気持ちなのだろう』

『こんなに多くの人が、被害にあっているのか……』
と、許せない気持が募る反面、ホッとする気持ちもあった。
『どこかで、私と同じ気持でいる人がいる』と。
その一方で、自分の汚い考えに、嫌気がさしもした。

まあ普通だったらこんなところを引用して勉強になりました、レイプ被害者が一生懸命“事実を受け止め”事実を伝えようとする姿に心打たれましたと済ませればきっと女性からの好感度も上がろうというものだが、許しがたい点があるので、正直に書く。

 別れ話を切り出されれば、
「逃げる気? ずっと側にいてくれるって言ったじゃない!」
「あのとき私が公園の周りを通ったのはあなたのせいよ!」
「結局そんな薄情な人間なんだ!」
 という具合に彼をなじる始末。ひど過ぎる。
 そんな私の相手をすることに疲れたのか、喧嘩をすると、彼の口からも、
「お前ホントは喜んでたんだろ。スリルがあって気持ちいいとか思ってたんだろ」
「お前みたいな汚れた女とつき合ってやってんだ。感謝しろ!」
という言葉が出るようになった。
きつかった。これが、事件以来私のわがままを極力聞き入れてくれていた彼の本音かもしれない。ずっと私に聞きたかったのかもしれない。重荷だと思い続けていたのかもしれない。
 そこまで彼を追い詰め、責任感を持たせ、苦しめてしまった。

さてこんな文章を読めば、恋人からも酷いこと言われてカワイソウとなるでしょうが、騙されないでください。
この彼というのは元彼なのです。三年間つきあってた彼と喧嘩別れして一週間悲しくて泣きながら自転車をこいでたら呼び止められレイプされたのです。そこで著者はどうしたか、親も警察もイヤだ、元彼しかいないと現場まで助けに来てもらったわけです。そんな状況になれば普通の男は愛は醒めていても元彼として(君が元気になるまで)「ずっと側に」いるよとは言うでしょう、でも、それは元彼としてであって恋人ではないのです。著者はそれを認めたくないから「私がレイプされたから愛が醒めたのだ」というフィクションに巻き込もうと元彼を追い詰めていくわけです。だって普通レイプされた恋人に上記引用のようなヒドイことを面と向かっては言わないです、第一、彼はそんなことを言う必要がないのだ。
だって彼は元彼だから。
あくまで元彼として接しようとする男に女は愛がないじゃないと詰め寄って、「だって愛はもうないもの」とレイプで傷付いた元彼女に答えるのはしのびない男、ぎりぎりと追い詰めてくる女、「私がレイプされたから愛が醒めたのだ」、オッケー、君の気が済むならそれでいいよ、俺が悪役になるよ、それ以外に上記引用の会話は成立しないのである。「汚れた女」云々と本気で口走る男なら被害に遭った元彼女のフォローなんてしないよ、「オメーとはもう終わってんの」で終了でしょう。また事件がきっかけで愛が復活して、元彼から恋人になったのなら尚更「汚れた」などとは言わないのでしょう。
著者自身被害者となったのをいいことに周囲にわがまま言い放題だったと書いているのだからそれでいいではないかと言われるかもしれないが、それとこれとはちがうのですよ。
レイプで愛が醒めたとか「汚れた」とか言う男は普通いないのです。少なくともこの元彼はそういう人じゃないのです。言わせてるのは男にふられた現実を見たくない著者のフィクションなのです。それをこういう性犯罪を題材にした本で展開されては困るのです。
さらにヒドイことを書くなら、なぜ親でも警察でもなく、元彼だったのか。この不幸を最大限に利用するにはどうするのがいいのか、そもそもこんな状況になってしまったのは元彼が私をふったから(以下略)という無意識の計算女(略)とかなんとか書くと非難轟々だろうなあ。

それでも甘え、あのときの私の顔を見た彼にしか、感情をぶつけることができなかった。顔を見て、知っていたからこそ、彼にぶつけてしまった。

最初に親とか警察を呼んでは成立しないわけです。(念のために書いておくと著者は犯行現場近くで一時停止取締り中のパトカーに遭遇しているのです。ええ、わかりますよ、だからといって警察にすぐ泣きつけないものなのだ、元彼に電話で助けを呼ぶのが女心なのだと。わかるけどねー、上記引用部に漂う「無意識の企み」に気付かないかなー、女性でも読解力がある人だったら、ひっかかると思うけどな。でも、題材がレイプだからすべてスルー、被害者はオールマイティですかね。)
しかしまあこのくらいは御愛嬌であって、苦笑で済ますのだが、この人はそれでは済まないバカなことをやっているのである。
バカ炸裂の肝心の話は明日につづく。
そういうわけで、オメーのやってることは「セカンドレイプYO」云々といったカバコメントは明日の分を読んでからにしてくれたまえ(まあ、どちらにしても、カバコメントはゴメンだが)。