落合と松井-マツイの軸

マツイの軸―思索する心技体

マツイの軸―思索する心技体

 

落合と東京ドームの風呂で

のんびり屋の落合と松井は東京ドームの風呂でよく二人きりに

 お前のバッティング、小学生以下だな。
 それが21歳上の落合の口癖だった。
 「そんなことないでしょって思ったけど……。落合さんは、ぶっきらぼうだったけど、いろいろ教えてくれるんだよね。技術的なことを言うの。勝手に教えるの。バッティングに関しては、すごく勉強になった。本当にメカニック的なことだよね。(略)
スイングどうこうよりも、スイングにいくまでをすごく大切にする人でした。ボールの見方だとか、間の取り方だとか、そういうことをすごく大事にする人でした。ボールさえしっかり見れれば、打てるってことです。スイングなんてあんまり関係ない。そんな感じでしたね。スイングも大切ですよ、もちろんね。でも、いい間合いが取れないと、自分で一番いいスイングができない。窮屈になったり、泳がされたりしてね。技術的なことを言ってくれたのは落合さんぐらいかなあ。やっぱりいい事言いますよ。ぶっきらぼうだったけど、勉強になりました(略)聞いてると、落合さんは、なんかすごい言い回しが複雑なんだよね。でも言ってることはシンプルなのかもしれない。

落合の助言

巨人一年目二軍で末次の指導で足をあげるフォームに転向、結果も出たのだが、二年で終わった。落合の助言のせいだった。

 松井さあ、打席では歩いた方がいいに決まってるよ。
 人間にとってそれが自然な動きだ。タイミングも取りやすいし、崩されにくい。(略)
 「落合さんに『やってみろ』と言われた。(略)で、打席で歩きながら打つ練習を始めた。落合さんも同じような練習をしてたし。パッ、パッ、と、二、三歩歩いて、最後に軸足に重心を置いて、そこからスーーーッみたいな感じね(略)
歩くときって、あんまり足上げないじゃないですか。高く上げるよりも、スーーーッみたいなね。むしろ地面を這うようにして踏み出すみたいな感じですかね」

イチロー

足を上げずにタイミングをゆっくり取るバッターって、そんなにいない。非常に難しいんです。でもそれができれば本当に自分が探している感覚がつかめるんじゃないか。そう思う(略)
[長嶋]監督はね、始動を早く取れっていつも言ってました。始動を早く取るためには、足を上げてる時間を長くしなくちゃいけない。早く取って、待つ体勢を先に作っておけってことですよね。早く取って、スーーーッていう時間を長くするということですよね」(略)
[落合以外の日本人選手では]
基本的にはイチローさんもそうでしょ(略)
日本の最高傑作でしょう。振り子打法って言われてましたけど、上げてるように見えて高くは上げてない。右足を上げてスーーーッと前に出していってる。ボールをゆっくり見るという意味では、同じ感覚を求めているんじゃないかなあ(略)
イチローさんは右足に体重が乗って打ち終わる。僕は軸足に残ったまま終わる。その辺の違いはある。

落合のバット

プロ一年目のオフ、落合のバットをミズノで見せてもらい衝撃を受ける

「見たことないような形だった。なんだこれ、みたいな感じ」
 松井の常識ではバットといえばビール瓶型。落合のバットは、ミズノの「M」マーク付近の肉付きが極端に薄く削ってあった。バットの先端を底辺とすると、両辺が異様に長い二等辺三角形といったイメージか。
 「詰まっても飛ぶんですよ。スイートスポットはちっちゃいけど、詰まっても飛ばすことができる。遠心力がある分、飛んでくれる。でも、難しいバットなんです。技術がないと扱えない。そういうバットを扱えるぐらいの技術を身に付けたいと思った。落合さんは技術的には一番といっていい人だったから、それに近づけるように、バッと変えた」
(略)
 毎年ミリ単位の修正を施し、本塁打50本の2002年に使っていたのが「一番難しいバット」。Mマークの上、先端寄りの部分の幅を見ると、1994年に49.5ミリだったのが、2002年は44ミリまで細くなった。(略)
メジャーではそのバットを捨てた。
 「メジャーに行くにあたって、難しいバットは使いたくなかった。(略)
チームメートで、落合さんに近いバットを使っていたのは、バーニーくらいかなあ。
[メジャー一年目47.5ミリ、二年目に46ミリ]

ボールを意識しないで済む練習

今打ってるなとか、自分のことを意識できる練習を多くやりたい。一番は素振りです。ボールを意識しなくていいでしょ。次は緩いトスを打つ。それでも自分のことを意識しながら十分打てます。バッティングマシンは使いません。(略)
[メジャー3年目スランプ時にドン・マッティングリーに勧められて以来ティーバッティングもやるように]

構え

 「僕ね、今よりいいバッティングができるなら、右でだって打ちますよ。構えなんて重要じゃないんです。それが、心地いいなら、何でもいい。いい結果を出すためだったら、何でもします。構えにプライド持ってても、しょうがないじゃないですか」

入団以来毎日続いた長嶋道場

遠征先だと、監督の部屋が多かったですね。いつも二人っきりですよ。十分、十五分ぐらい、結構全力でバンバン振りました。だいたい六十、七十本ぐらい。いいスイングが何本か続けば終わるんですよ。だから、いいときは早く終わっちゃう。五十本ぐらいでね。悪いときはずっとやっている。多いときは百本ぐらいでしたね」
 長嶋の持論は「スイングの良しあしは音で分かる」。松井が素振りしている間、長嶋は目を閉じ、じっと耳を澄ましていた。(略)
 「高くて短い音がいいんです。ピュッていう音です。(略)長嶋さんが、スイングごとにいいとか悪いとかいうから、自分もだんだん分かってきた。自分のスイングの良しあしが、音で分かるようになりました」(略)
[監督が原になった2002年も時折ドーム近くのホテルで長嶋道場]
 入団五、六年目で、松井の「耳」はようやく完成したという。初めてタイトルを取ったのは入団六年目

マメ

 マメができてしまうような力任せの打撃は、理想とかけ離れている。(略)
[巨人二年目背筋挫傷時]
「治療法として、PNFに出会ったんです。それを続けることで、いかに楽に打つか、を考えるようになりました」(略)
[PNFは]リハビリから来ているもので、もともと患者さんの神経を再び通わすための治療法なんです。(略)いくら筋力があっても、神経が通ってなければ、その筋肉を思い通りに動かせないわけでしょ。
(略)
「長嶋さんは、俺はマメなんか絶対できなかった、って、よく自慢してた。マメできるヤツなんて悪いバッターだ、って言い張ってた。そういうことを、はっきり言っちゃうのが、長嶋さん。(略)
 耳の完成に五、六年かかったという松井は、マメの消滅までには、入団から七、八年の歳月を要した

無死か一死、走者三塁で打点を入れる確率71.8%はメジャー過去40年間で松井が歴代トップ
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