1923年の女たち

「女はすべてスカーレット」というものすごい副題、装丁挿絵すべて『風と共に去りぬ』全開なのだが、実際の中身は著者が『風〜』を書く10年程前に書いた新聞記事をまとめたもので、1923、4年の風俗・社会事情が描かれていて、これが結構興味深い。ある意味、「ア工ラ」だか「大テコ町」だかとさして時代差を感じない(どっちもよく知らぬが)。『風〜』に興味のない人が読んでも面白いと思うが、この表紙・タイトルではなかなか手がないだろう。

明日は明日の風が吹く―女はすべてスカーレット

明日は明日の風が吹く―女はすべてスカーレット

仕事につく社交界の娘たち

 シフォンのストッキングに包まれた美しい脚を、自家用車の中で優雅に伸ばす代わりに、朝六時のぎゅうぎゅう詰めの市街電車に乗りたいと思うだろうか?
 仕事でクタクタになって、マニキュアがきれいに塗られたご自慢の手の皮がむけるほど電車の手すりに強くしがみついて帰宅する生活をしたいと思うだろうか?
(略)
 実際、アトランタ社交界で名の知られた娘たちの多くが、会社で働いたり、学校で代用教員をしたり、テザインの仕事をしたり、お店を経営したりしており、仕事をしていない娘たちから同情ではなく羨望を集めているのだ。
(略)
「自分でお金を稼ぐって最高です」
彼女は言う。
「今、多くの若い娘たちが働いているのも、そこに原因があるんじゃないでしょうか。
(略)
「私は働きたかったんです。なぜなら……、働きたかったから!」彼女は説明する。
「これといった理由があるわけではないの。だから、働きたかったからというのが正直な理由です。とにかく何かをしたかったんです!」

自立

 「じゃあ、あなたたちが働きたいのは、自立したいからなの?」
 その瞬間、ざわめきが波のように沸き起こった。一番大きかったのが、「自己実現のためよ!」「自立よ!」そして「お金よ!」という声だった。
 すると、後列の控えめな少女が再び甲高い声でこう言った。
自己実現ですって!仕事っていうのは、結婚するまでの単なる暇つぶしよ!」

美人論

 「潤んだ目やピンクのほおより、何より服装が大事よ。個人的には、すらりとしていて、ボブヘアで、自立している、現代的なタイプが好きね」
(略)
 今、美しさを決めるのは、人柄と洋服の着こなしよ。自分の個性に合った着こなしをするにはセンスが必要だわ。だから、私にとって理想の美しさとは賢さのこと。
(略)
 「何よりもまず、薄いシフォンのストッキングと小さなヒールのついた華奢なサンダルを履いて軽やかに踊る脚よ」マリオン・モーガンが言った。
 「最近では、一番人目にさらされるのが脚なのよ。脚がキュートじゃなくちゃ、誰も顔なんて見てくれないもの」
(略)
「まなざしよ」スーザン・リビングストンが言った。
「五分ごとに表情が変わるまなざしよ。大音響の音楽のなかでも消えることのないまなざしっていうのは……」
「キラキラしてるのよ」ベティ・ストライビングが口を挟んだ。
「顔が穏やかで目がキラキラしていると、何かとっておきの秘密を抱えているみたいに見えるわ」

六年間の「恐怖の時代」を経て、礼儀の基準が変化した

 かつて、紳士のしるしは女性に対してうやうやしくふるまうことであったが、今日それは傲慢な態度に取って代わられている。昨今若い男性が社会で優位に立つには、大げさなほど傲慢な態度を身につけなくてはならない。また女性は、いつも必ず面白いところで話の腰を折って、退屈そうにしてみせるのが当然のことのようになった。
 六年前には、そんなふるまいは非難され、受け入れられなかったはずだ。
[男はブサイコを人前で笑い者にしなかったし、女は結婚式や葬式でガムをかまなかった]
(略)
女性連れでない男性客は、ダンスもせずにただフロアの中央にたむろし、娘たちの品定めをする。戦争前には、容貌に恵まれていない娘でも、それなりに人生を楽しんでいたものだが、今日では容赦なく排除される。おめがねにかなった女性だけがその輪に入るのを許されるのだ。
(略)
 女主人はもはや、「かわいそうなスーザンをエスコートしてやって来ておきながら、ほっぽらかしにした不心得な青年」に癇癪を起こしたりはしない。(略)
 それほど遠くない昔、恋人を侮辱された青年は決闘で決着をつけた。だが最近では、他人の恋人をこき下ろしても何の問題もない。他人の恋人のことを「まぬけ」「ダンス下手」「身内からしか愛されない顔」と言っても、撃ち殺される心配はまったくないのだ。
 少し前までガムをかむのは、ことに行儀が悪いこととされていた。ガムをかむことと、厚化粧は育ちの悪さの代名詞だった。

モテる女

 ちやほやされる娘もいれば、同じくらいかわいいのに、見向きもされない娘もいる。
 どうしてだろう?
 若者たちに聞いても、その謎は解決しない。彼らにわかるのはただ、もてる娘はちやほやされ、その事実がさらにその娘の人気に拍車をかけるということだけだ。
(略)
 「僕は、爪の先まで今風の娘が好きだ。とくに、ブロンドのボブヘアは格別だな。生きがよくて、ダンスが好きなんだけど、二、三曲踊ると疲れてしまって、のんびりと月の光を眺めるような娘がいたら最高だよ」
(略)
「僕の場合は、すでに調教されてちまってる娘はいやだ」ジョー・ヒルが言った。
「好きな娘が、ほかの男の好みに調教されちまってたら興ざめだよ。僕がつき合う娘は、僕が調教するんだ!」

女の顔は請求書

若い男たちは女の子をダンスに連れて行くことにいやけが差して、男同士でつるむほうを好むようになってきているんだ。だって、女の子をダンスに連れて行くには、まず花をもっていかなくちゃいけない。しかも、ほかの女の子がもらったのと比べて見劣りしない花じゃなくちゃ駄目だ。
 それから、自分の車がない場合にはタクシーに乗らなきゃいけない。それからようやくダンスに行って、ダンスの後は食事だ。そう、絶対に食事は外せない。その食事というのがまた、サンドイッチとかじゃなくて、ステーキやフランス料理なんだから
(略)
 彼女たちは、自分たちがつき合っている男は学校を出たばかりで、自分を喜ばせるために給料を使い果たしていることに気づかないんだ。そのせいで、若い男は女の子に言い寄ったり、結婚したりすることができなくなってしまったことに気づかないんだ。女の子はわがままだよ。
(略)
年上の男なら、彼女たちが欲しがるものを与えてあげられるからね。女の子たちが享楽的になればなるほど、夫の年齢は上るのさ。

気分がのらないので明日につづく。

  • 今日のヒット賞

「身内からしか愛されない顔」