吉本隆明の労組結成話

現代思想2007年12月臨時増刊号 総特集=戦後民衆精神史

現代思想2007年12月臨時増刊号 総特集=戦後民衆精神史

吉本隆明インタビュー。軍国少年の頃の話から聞いているが、そこら辺はよく語られているので省略して労組話のところだけを。長文引用ですが、これでもだいぶ削ったのです。

[面接で二・一ストには反対ですとは言えなくて、いつも不採用]
 それで、中小企業で技術者を求とか新聞広告を見て、化粧品会社や石鹸会社に就職するわけです。みんな何も分からないんですよ。つまり、労働者の団結権というのも分からないし、労働基準法というのすら分からない。そうすると話にも何もなっていない。雇い主からしてなっていないわけ。近所のおばさんがパートでやって来て、やるわけです。そういう中で、つまり場所がないわけです。
(略)
 戦後の労働基準法というのはいいですから、理想的ですから、それを読んで、ああこういうことになっているんだ、恐縮してやらせてもらうことはないんで、ちゃんと主張していいんだとか、労働者には団結権があるんだとか、不服だったらストでも何でもやってもいいんだ、そういうようなことがだんだん自分で分かってきたんです。
(略)
 それではというので、三人でも四人でも集まって、届けに行くわけです、労働省に行けば組合が結成されるから、というので、そういうのを教えられるようになったんですよ。
(略)
なんといっても産業報告会ですから、両方とも知らないんです。経営者も無知だし、こっちの働いている人も知らない。そういうふうに組合を作ると、少し向こうも驚き始める。
(略)
ストをやろうと思って、総評かなんかへ行って、金を貸してくれと言う。戦前からの慣れきった連中がいて、ふふんというような顔して、そんなことは張り切ってやらないで、おとなしくしていた方がいいだろう、なんて言うんです。馬鹿にするなと思うわけです。お前達はそういうことは初めてやるんだろうという感じが露骨にして
(略)
三日間ストやるとしても、一ヶ月分の給料を組合が払えるというような仕組みがないと、ストはできないんですよ。三日やるんだから、三日分払えばいいというんじゃないんですよ。組合が会社の代わりに払えないと、だめなんです。それ以外は借金するしかないんです。大きいところだと出したんでしょうが、僕らみたいな中小企業の、せいぜい100人いるかいないかのところが行ったって、話にならないわけです。
 それで僕らが行ったのは、近所の労働組合です。近所の労働組合で、しっかりしているなあと思う人がいる会合なんかに出ると、そういうところに行って、そこの組合の役員と会って、これこれこうやりたいんだけどお金を貨してくれないかと言うと、いいですよ、と返事してくれるんです。この人達の方がよっぽど話が分かる。
(略)
会社も世間に対して闇やっているけど、こっちも会社に対して闇をやっているわけです。石鹸を製造するわけですね。石鹸を作ると、その一部分を会社に内緒で、原料をつかって自分達で石鹸を作っちゃう。それをどうするかといったら、みんなで平等に分けるんです。
(略)
この平等に、っていうところが肝心なところでね。そうでなければ成り立たないんですね。相互に文句が出たらお終いですから。石鹸持ってれば、家で使うのものいいし、いろんなものと換えられるということはみんな知ってますから。そういうことを時々やる。めちゃくちゃだね。みんな闇で何やっていたんだかわかんねえけど、まあそれでいいかなと。

吉本インタビューだけで済まそうかと思いつつチラ見してたら、60年安保前に自壊したサークル運動で作られたガリ版雑誌掲載の詩が紹介されていて、やはり殆どがいかにも労働詩といったカンジで風化しているのだけれど、その中でまだアリと思えるものを引用してみた(これだけ読むと古いと思えるだろうけど他と比べると現代性ありのような)。


二・一スト  高橋元弘

(略)
共産党ラクしたのかと
俺自身 むやみやたらと
暴れたくなりぬ
(略)
机をひっくりかえせ
どわうち破れ
卑怯者去らばされ
歌わめきねり歩く
なんにも喰いたくない夜
電車の中で前途を思う


朝 つめたい水で顔をあらい
あけゆく空を
じっとみつめる
(略)

パージ反対闘争  高橋元弘

関東配電大田営業所
桃色の腕章まくダイゴ組
課長もそいつに
頭下げている


ピストルも
コン棒も持たぬ十三名の
首切る有刺鉄線
塀にはりめぐらせ

せびろ  無署名

コンの背広でなくても
ただ作業衣でない奴を
(略)
オーバーもカッパも
服も 新しいフトンも
何でもほしい おれだが
だから
洋服のようで
ジャンパーのようで
ふだん着にもなって
訪問着にもなって
五年ぐらいもつ奴を 欲じゃねえ
二〇〇〇円ぐらいのを
月末には「ほしい」と思うんだ


アメリカ仕立ての服をきて
そんな奴がいるのがしゃくで
そんな奴にはかみつきたい気持を
いつもおさえているおれだ


「欲じゃねえ」……おれのねがいは
「欲じゃねえ」といつもそう思うんだ