森達也「死刑」

冤罪、絞首刑は残酷なのではないか、死刑囚を殺すのは現場の刑務官なんだよお、etc。
森達也死刑廃止派だから読まねえという人のために順番を逆にして最後の方の殺された

春奈ちゃんの祖父へのインタビューから

死刑廃止派の人はよく『人権を尊重しろ』と言われるけれど、じゃあ死んだ人の人権はどうなるのか。
(略)
執行ボタンを押すのが嫌だという人は刑務官になるべきじゃないんだよね。そういうことだったら、うちの会員でボタンを押しますっていう人はいっぱいいますから」(略)
彼女が本当に更生して、ものすごく良い人間になったとしても、やっぱり許せないですね。だって更生してくれなんて誰も願ってないわけですよ。

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

 

『弟を殺した彼と、僕。』

犯人の改心・犯人家族の自殺によって死刑廃止運動に参加するようになった原田正治『弟を殺した彼と、僕。』からの引用の引用

 その頃、僕は、こんなことをイメージしていました。明男と僕ら家族が長谷川君たちの手で崖から突き落とされたイメージです。僕らは全身傷だらけで、明男は死んでいます。崖の上から、司法関係者やマスコミや世間の人々が、僕らを高みの見物です。彼らは、崖の上の平らで広々としたところから、「痛いだろう。かわいそうに」そう言いながら、長谷川君たちとその家族を突き落とそうとしています。僕も最初は長谷川君たちを自分たちと同じ目に遭わせたいと思っていました。しかし、ふと気がつくと、僕が本当に望んでいることは違うことのようなのです。僕も僕たち家族も、大勢の人が平穏に暮らしている崖の上の平らな土地にもうー度のぼりたい、そう思っていることに気がついたのです。ところが、崖の上にいる人たちは、誰一人として「おーい、ひきあげてやるぞー」とは言ってくれません。代わりに「おまえのいる崖の下に、こいつらも落としてやるからなー。それで気がすむだろう」被害者と加害者をともに崖の下に放り出して、崖の上では、何もなかったように、平和な時が流れているのです。

宅間の弁護をしたことで死刑廃止の気持が揺らいだ人権派弁護士

多くの人が誤解しているのだけど、法廷で毎回毒づいていたわけじゃないんです。むしろ彼は法廷でかなり遺族から罵倒されて、……まあやったことを考えれば当然なのでしょうが(略)ずっと我慢していましたね。とにかく何を言っても何をしても、メディアは一定のパターンに嵌めこんで報道する。……仕方がないのかもしれませんが」
(略)
遺族の話を聞きながら、確かに目が潤んでいました。これを朝日の記者に話したんです。そして記事になった。怒りましてね。なんで先生あんなことをばらしたんだって。自分が死刑判決をどんな顔をして受けるのかを遺族に見させたくないとも言っていましたね。いかにも彼らしい虚勢です。弱い人間だと思われたくないのでしょう」
(略)
「……彼は、人の悲しみを共有できる想像力を持っていたと考えられますか」
「ある」
 一言だった。戸谷の強い意思をそこに感じた。怒りでもあり、哀しみでもあり、苛立ちでもある。
(略)
戸谷さんは死刑制度について今はどう考えていますか」
 「……私はもともと、死刑は廃止すべきと考えていました」
 「はい」
 「でも今回のケースでは、あってもいいのかなあという気がしないでもない。今はペンディングです」
 僕はメモから顔を上げる。意外だった。例外を作るのなら、それはもう死刑廃止論ではない。存置論だ。人権派の弁護士としては、戸谷はかなり知られた存在だ。(略)
[死刑は廃止すべきだと再度述べた後に]
 「……あってもいいのかなあ。容易に発動すべきでないことはそのとおりなんですが。……でも、……だって八人殺して、十五人に対しては殺人未遂ですよ」
(略)
[宅間の矯正の可能性]
「なかったとは断言できないということですね。……あったとまでは保証できないですが……(略)
悪いのは悪いなりに処罰される。本人も納得するし、社会も守られる。本来の弁護士の役割はそこにあるわけですから。判決文によく、『被告人は生来人格下劣であって』とかいうフレーズを裁判官が書くんです。……許しがたいです。このヤロウって思います。生来なんてことをなぜ裁判官が断定できるんですか」

 ずっと淡々と話してきた戸谷が、このときは確かに言葉に力を込めた。内側に必死に抑え込んできた憤りが、一瞬だけ青白い炎のように燃えあがったような気がした。

亀井静香:冤罪の多さを知っているから反対

「……警察官出身だからこそ、冤罪がいかに多いかを私は知っています」(略)
 「私自身がね、誤逮捕しかけたことが過去に二回あるんです。(略)
[他にも警察官出身の政治家はいるのに何故亀井だけなのか]
 「……何かなあ。家が貧乏だったからかなあ」
(略)
ただうちの場合、親子兄弟、貧しいだけに仲良かった。……だから俺なんか、もしも貧しくて愛情の薄い家庭に生まれていたら、人殺しやって死刑になっていたかもしれない。たまたま周りの人に恵まれて生きてきた。これは自分の力じゃねえのよ。……今はね、弱者が強者に対して反抗しない時代になっている。(鬱憤が)下へいっちゃう。だから死刑囚なんか殺しちゃえってなっちゃう。弱いものを仕置きして満足している。ひどい時代になったと俺は思うよ」
(略)
[麻原の死刑確定について]
「私は個々のケースについては言わない。制度そのものがいかんとは言う。しかし個々の判決に関してはコメントしない」
「でも死刑制度について否定するならば、麻原処刑についても反対ですよね」
「ぜんぶ、すべて、誰であろうとです」

刑場は裸電球に照らされ能の舞台のようでした。殺人現場に比べればきれいなものです。

「吊るされたまま。……即死みたいな感じかと思います。わからないけれど」と少しかすれかけた声でつぶやいた。ほとんど感情を表さないタイプの三井だが、このときはさすがに状況を思い出すことで、少しだけ動揺があったのかもしれない。その後約三十分間、死刑囚は吊るされたまま放置される。そのあいだ立会い人の検事や所長たちは、隣室からガラス越しに、人が息絶えてゆく過程を凝視する。

冤罪:免田栄

 「執行の伝達はだいたい朝食後です。(略)だから朝食後の一時間か一時間半くらいのあいだ、死刑囚の舎房は、針を落としてもその音が聞こえるぐらいに静かです。(略)看守の『運動用意』という声を聞いたならば、冷たかった氷にお湯をかけたときのように、緊張がすーっと融けてしまう。自然と顔がほころぶ。運動場に行くために廊下に整列するとき、みんな笑顔になっています」
(略)
 「最初に再審が決定したとき(略)房の死刑囚みんなで胴上げをしてくれました。涙を流しながら喜んでくれた人もいた。あのとき私も初めて、みんなの人間性に触れたような気分になりました。それまでは他の死刑囚たちと潔白である自分とのあいだに一線を引いていた。そういう自分の浅はかな気持ちを反省しましたね。当たり前だけど血の通った人たちです。すれ違ったらこんにちはって頭下げるし、こっちも挨拶するし、一人ひとりは何も変わらない人間です」

明日につづく。
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