かおる子は見た、クラッシュ楽屋

ミーハーだからとバカにしてスルーしてたのだけど、クラッシュやジャパンは意外に拾い物。

  • 77年クラッシュを追いロンドンへ。喧嘩を始めた少年二人に出て行けとジョーが喝。終了後、バック・ステージに向かうとすごい人混み。

見ると、さっきジョーに怒られた少年達もいる。「な?こんな所でケガしても、つまんねえだろ?分かったか?」とミック・ジョーンズが、まだ半ベソの二人にお説教している、その隅ではポール・シムノンが女の子達と談笑中だ。部屋中、汗とアルコールと煙草と、なにやらキナ臭い匂いが充満して、とてもじゃないが取材なんて雰囲気じゃない。ジョーはどこ? と人並みをかき分けると、なんと彼はその狭いバック・ステージの天井から吊り下げられた戸棚に腰掛けていた。「あの〜、インタビューしたいんだけど降りて来てくれませんか?」と叫ぶと、彼は手を振りながら私に上がって来いと言う。上がって来いって簡単に言ってくれるが、そこは吊り戸棚なんですけど……躊躇しているとジョーは手を伸ばして私の腕をつかみ、戸棚に上げてくれた。
 彼の隣に座り、さてインタビューを、と思ったのだが異常に騒々しいうえに、心ここにあらずという風情のジョーを見てあきらめた。コンサート直後だったせいだろう。彼は、まだ夢の中にいるような不思議な表情のまま、その戸棚から下の人混みをながめていた。「あの人達は一体、誰なんですか? 地元の放送局とか、雑誌関係の人?」と問うと「いや皆、今夜コンサートに来てくれたファンだよ」と言う。そう、ジョー・ストラマーはいつもコンサートの終了後に、こんな風にファンにサービスする人だということを、この時、初めて知った。

  • 71年ピンクフロイドがメインで開催された野外ライヴ「箱根アフロディーテ」、日本ロック・ジャズ・フォーク勢集結、なぜか著者が到着した時サブステージではダーク・ダックスが「花のメルヘン」を歌っていた。
  • 73年ストーンズ来日中止発表会見で主催者を糾弾していたのはロックに興味のない社会部記者のオッサンたちだった。
  • シラフで観葉植物を振り回し辺りを泥だらけにするロバート・プラント

唖然とする私達を尻目にゲラゲラ笑いながら、彼はひたすら、その根っこを振り回し続けた。

  • 74年エリック・クラプトン来日、異常にガードが固い。突撃撮影しようと隠れていたら、うつろな目で関係者に支えられるように歩いてくるクラプトン、まだアル中で取材を受けられる状態ではなかったのだ。
  • ライヴ終了後も「興奮を鎮めるための儀式」として爆音ギターを二時間弾きまくるテッド・ニュージェント。どんな野人かと思えば、素顔は息子に会いたいとホームシックになっている家庭人。
  • 79年ジャパン来日。福岡で完全密着取材。

「自分達らしい場所で撮影したい」と言い張る。(略)博多湾に面した田舎町を通った時だ。デヴィッドが「ここで降りたい」と言い出した。(略)細い路地裏の突き当たりにある小さな工場のような所が気に入ったと見えて、スタスタと中に入ってしまった。そこはノリの加工工場で、なかでは従業員が黙々と作業していた。
(略)[事情を説明しても気まずい沈黙](略)
再び、当て所なく町を歩く。辺ぴな昼下がりの田舎町は人通りもなく静まり返っている。そこを歩く化粧軍団と、カメラ機材を担いだ私達……異常な集団に見えたことだろう。ふとデヴィッドが足を止め、三輪車に乗った小さな男の子に話しかけ始めた。
(略)[デヴィッドが男の子を抱き上げると号泣](略)
 結局、写真を撮影したのは名もない薄汚れた砂浜だった。板切れだの、空き缶が転がっている、その砂浜に立つジャパンはレンズを通してみると、それなりに絵になっていた……ような気がする。

79年5月米南部でエアロスミス取材

 5月だというのに南部の町モビールは、ひどく蒸し暑かった。会場は、ひたすらだだっ広い体育館。周辺にはこの建物以外、何もない。草っぱらにはトラクターが何台か放置され、ここが農業地帯だということをうかがわせた。こんな退屈そうな町のティーンエイジャーにとって、ロック・バンドのコンサートは格好の憂さ晴らしと見え、会場には床に寝転がってラリッている少年が目立った。75年にベトナム戦争が終わったばかりのアメリカの片田舎の風景は、どこもこんなものだったのだろう。(略)
エアロスミスの演奏は、来日時の勢いが全然なくなっていた。要するに、いかにもドサ回りという風情だったのだ。そのバラバラな印象のステージを観て私は、バンド内の雰囲気が良くないことを感知した。(略)
[不機嫌なジョーの取材は諦め、グループ撮影に]
ここでも問題勃発。バンドの二枚看板のはずのジョーとスティーヴンが両端に分かれて立ち、さらに、あからさまに互いにそっぽを向いてしまう。(略)
 結局、この年の11月にジョーはバンドを脱退。

56歳のクラプトン

 「恋多き男と言われる、あなたの女性観は?」と訊いた時だ。「僕は多分、恋をしているという錯覚に陥りやすい人間なんだ。父親がいなかったせいか、男性には不信感があるが、強く知性的な女性には、だめな自分を肋けてもらおうと思ってしまう。それは恋とは違う。でも、いつも同じ過ちを犯してしまうのさ」と答えた。
 これだな……と思った。女性は、こういうダメでズルイ男に弱いのだ。