シャルル・喪男・フーリエ伝

 

禿しく飛ばし読みなのだが、なんかトンデモな人。パリの奴等は俺の才能を恐れて無視するのだと激怒してるけど、こんなノリだとやはりそれは。

フーリエはある晩、アレクサンドル・ビクショという医学生を連れてノディエ家の夕べを辞そうとしていた。「空は晴れ渡り、満月が燦然と輝いていた。ビクショは思いのままを口にした。『きれいな月ですねえ、フーリエさん』。フーリエはうんざり顔で答えた。『そうですね。最後の輝きですから見逃さないようにしてください。どうしたって私の法則からは逃れられないわけですからね』」。月が消滅し、代わりに眼にもあやな五つの衛星が新たに生じるというフーリエの予言をビクショが知ったのは後になってからだった。

農業アソシアシオン、「情熱系列」

300家族の農家が協同化されれば、手入れの悪いいままでの300の穀物庫の代わりに、手入れの良いたった一つの穀物倉があればよい。大部分が極端な無知をもって扱われてきた300のワイン醸造桶の代わりに、たった一つの醸造所があればこと足りるのだ。
 いちばんの問題は、フーリエが看て取っているとおり、こうした共同体のメンバーがかならずもつだろう相反する欲望や利益や情念を調停することだった。
(略)
この理論が意味するのは、個人の欲望充足が一般の利益に役立ち、個人が社会的に有用な任務を労働することをみずから欲するような、新しい形態の社会組織の一モデルの構成である。
(略)
もし個々に好みを共有する人々を、年齢や財産や性格や教育程度を注意ぶかく細かに区別し対照化した集団間の系列に分別するならば、仕事は誘引的になり対立は調和される、という発見だった。自然的アソシアシオンのなかでの諸情念と生活の構成を調和することになる基本単位にフーリエが与えた名称こそ「情念系列」だった。

乙女たちへの告白

このフーリエさん、「25歳のときにはもう私は女性の気を惹こうなどとは全然思わなくなっていた」という喪男。でも「私はたくさんの乙女たちに100回以上もへたな詩を作った」という序文のついた、告白したいけど……、てな詩が残されてたりする。
1815年12月(33歳)。母の遺産が少し入ったので仕事を辞め田舎でゆっくりすることし、死んだ姉夫婦の遺児7人の親代わりになろうとしたばかりに、姪相手に悶々することに。ここらへん長々引用しないとその切なさ(おかしさ)が伝わらないのだが大胆にカットしてお届け。

ファニーの二人の妹、オルタンスとクラリスはいずれも20代前半だったが、その自由で安逸な暮らしぶりはこの地方である種の評判を得ていた。彼女らの放縦な振舞いの噂はすでにリヨンのフーリエの耳へ届いていたが、「原則として寛大」なのを誇りにしていた以上、彼はそれをなんとも思っていなかった。(略)家はしょっちゅう娘たちの友人の騒がしく言葉遣いの乱暴な軍人たちで溢れた。怪しげに入ったり出たり、夜毎奇妙な物音が聞こえた。(略)
こうしてフーリエは、タリシューに住んで最初の六か月間を通じて、姪たちときわめて良好な関係を維持した。彼には娘たちのうち最も魅力的だったクラリスヘの「小さな愛情」さえも芽生えたのだ。もっとも彼はその気持ちをひた隠しにしていた(略)
彼は姪たちの友人でロジーヌという名の若い娘にも魅力を覚えた。彼女の「味方に私はなろう、というのは皆が彼女を手荒に扱うから」。しかし彼はロジーヌにつきまといはしなかった。彼が後年言うには、「私は[タリシューヘ]来たとき女性に指一本触れることはすまいと思って」いたからだ。
(略)
 五月になると、オルタンスがにわかに、叔父への愛情のそぶりを示すようになった。(略)オルタンスはクラリスほど可愛くなかった。(略)いくらもたたないうちに、オルタンスがノートをちらちらと見るのを許すようになった。数行を彼女が読み、笑い、ときには「鋭敏で適切な」批評を加えて彼を「愕然」とさせた。

姪の励まし

田舎の才人たちにフーリエが本を書こうとしていることがバレ嘲笑をあびており、姪の励ましは執筆継続のための唯一の心の支えとなる。

「運命が送ってくれた支援」にしがみつくように、彼は彼女に飛びついた。数週間も経たないうちに、フーリエは自分の姪にのぼせ上がるようになり、同時にしだいに彼女のもつ批評の才能に感嘆するようにもなった。概論で扱うさまざまな問題について彼はこの姪にアドヴァイスを求め(略)
自分に必要なのは、オルタンスがずっと協力してくれると信じることだけだ。
 けれどもこのときフーリエに疑いが湧き上がった。オルタンスは気まぐれで移り気な女性だと彼は知っていた。彼女がそんなに長いあいだ論文に興味をもち続けてくれるなどということが、ほんとうにありうるだろうか。「守り札」が突然なくなってしまったらどうなってしまうだろう。そうなったらどうしようという思いに悩まされたあげく、彼は姪の金銭欲に訴えることにした。オルタンスはよくフーリエに、人生に望むものは最低五万フランの財産をもち、完全な恋愛の自由を許してくれるほど年老いた伴侶だと話していた。この何も要求しない年老いた伴侶の役割をどうして彼が演じえないはずがあるだろうか。(略)[五万フランの財産をつくるため]フーリエは商業界へ戻ろうと決心した。彼女のため、そして自分の著作のために。
[遠まわしにプロポーズ]
そのときまで私は君に二点を註文します。第一に、君の仮面を外すこと。あれこれの光景を見れば私には何から何までわかりました。もし君の姉妹が私に貞淑なふりをしたいなら、彼女たちにはしたいようにさせてやります。君に率直になってほしいだけです。……それともう一つ(略)[財産をつくるから仕事の補佐をしてねという要求]

だが散歩中に行為を目撃。

「ギャランはオルスタンスのスカートの中に手を入れ、腕は肘まで隠れていた。妹のクラリスがその前で見ていた」。三人は彼に気づかなかった。

傷心で家を出る

嫌われる事を恐れ黙ったままに。姪達が男に弄ばれていると思い、そこに愛しさを見出していたのだが、ようやく姪達の方がヤリマンなのだということに気付く。だんだん気まずくなり、8月にフーリエは家を出る決意。

彼の決心を聞くと、オルタンスは考え直した。叔父が出ていって、あれこれ噂されるのではないか、と心配し始めたのである。彼女はその夜おそくフーリエの部屋に現れ、行かないでほしいと頼んだ。彼が断るとオルタンスは、「罵言の雨あられ(略)そればかりか彼女は、フーリエの男を試そうとし始めた。彼は「男としてふるまって」いないと言い立てた。自由恋愛の信奉者だと言うわりには、「絶好機が向こうから転がってきているのに、うまく利用してこなかった」、と言うのだ。(略)

翌年1月までフーリエは未練残して愚図愚図。

 [1817年]1月26日の晩、衝突が起こり、彼は出発を早める結果になった。(略)フーリエが酔っているので娘たちが叱ると、フーリエは突然怒りだし、怒鳴り散らした。「六か月の侮辱に私は15分のにがい真理で応えた。『エロ爺』といういつものあだ名に私は逆=真理で、『エロ娘』の称号で応じた」
(略)
 フーリエがベレーヘ着きパラ=ブリヤ家へ身を寄せてみて初めてわかったのだが、リュバ家の娘たちとの反目の噂は彼の到着より先に届いていた。覗きをしたと言って責められ、若い世代の敵、好色で嫉妬に狂った年寄り呼ばわりされ、実の姪に始まってタリシューの娘たちすべてをたらしこもうとし(て失敗し)た、と糾弾された。

(´・ω・) カワイソス。
残り少しだが明日につづく。