ヘンリー・フォード著作集/その2

前日のつづき。

民主主義について言葉たくみに話す人には懐疑的だ

我々がやってはならない極端な例が二つある。一つは、教育を軽蔑すること、一つは、教育を受けることが無知や凡庸をなくすことと信ずる横柄さである。

 多分“民主主義”という言葉ぐらい、今日多く使われる言葉は他にないだろう。そして、私に言わせれば、その言葉を声高に叫ぶ人は民主主義を望んでいない人達なのだ。私は常に、民主主義について言葉たくみに話す人には懐疑的だ。彼らは、ある種の独裁制を作ろうとしているのではないか、あるいは、自らやるべきことを自らのためにやってもらおうとしているのではないかと私は考えてしまうのだ。

鉄道批判

 鉄道事業が初めに行ったことは、他の輸送手段の息の根を止めることであった。当時米国では素時らしい運河システムの建設が始められていた。鉄道会社は運河会社を買収し、雑草や廃棄物で運河を埋めて運行できなくしてしまった。(略)
 しかし、問題は他にもあった。鉄道計画はできる限り長い距離を輸送するシステムとして考えられた。州間商業委員会の人なら、その結果が何を意味するか判っているはずだ。鉄道輸送が、人々の旅行や、生産や交易に奉仕するものとは考えられていない時期だった。交易はあたかも鉄道の利益のために存在しているものとして扱われていた。この馬鹿げた時代には、品物を出荷地点から入荷地点まで最も短かい距離で運ぶのはよい鉄道ではなく、できるだけ長い距離を廻り道して多くの接続路線に利益をもたらし、大衆に時間と経費の損失を負担させるのがよい鉄道とされていたのだ。そして今日でも、このような事柄は完全に解消しているとは言えない。(略)
 穀物についてはどうか。広告を見れば我国の最大の製粉工場がどこにあるか判る。これらの製粉工場は、米国の穀倉地帯にはない。とてつもない量の穀物や何千台という貨車が無駄に長い距離を移動し、製粉された後再び長い距離を穀物が穫れた地点へ運び返され、独占的な製粉工場や鉄道以外には何の利益をもたらさないのだ。鉄道は国中の事業を助けるためではなく、一部の大企業のためだけに存在している。そして常に無用な距離を走っているのだ。

労働組合役員批判

本当の労働組合のリーダーとは、労働者達を仕事に就かせ、賃金が労働者の懐へ入るようにする人であり、労働者をストライキサボタージュに追い立てたり、賃金の支払いがなくて労働者の家庭を飢えに苦しませるような人ではないはずだ。(略)
変化は起こりつつある。いわゆる組合役員なる連中の支配する労働組合が解消すれば、同時に従業員のために有益なことは何もしない名前だけの愚かな雇用主もいなくなるはずだ。(略)
双方共にその任にない者達で、よく組織された社会には居場所のない連中なのだ。(略)
不満を利用することが、現在では一つの職業になってきている。その目的は問題を解決するのではなく、ただその不満を持続させることにある。その用いる手段は偽りの論理であり、実行されることのない約束事である。私は、労働組合には反対ではないし、進歩に益するいかなる組織にも反対ではない。雇用者によるか、あるいは従業員によるか、いずれによるものであっても生産を制限する組織、これが問題なのだ。(略)
 健全で、豊かな生活を人々が送れる機会を多く作る事業、これが人々が誇りを待って働くことのできる事業なのだ。

なぜ事業利益を賃上げではなく値下げにまわすか

今日、スピードの出る、耐久性のある、そして信頼性の高い自動車があるのは、かつて人々が試作時代の大きな自動車を買ってくれたお蔭なのだ。今日、様々な石油製品が手に入るのは、かつて人々が品質の劣った灯油を買い、使用し、そして人々の信頼と支援によって石油産業が世界的なものになったお蔭なのだ。つまり、事業は大衆によって作り上げられてきたのであり、したがって事業の第一の責任は大衆のために果たされなければならない、ということだ。(略)
車輪を回すのは結局、消費者なのだ。一般大衆に物を買い易くすること、これが仕事を生み賃金を作り出し、事業の成長とより広い奉仕のための余裕を作り出す。

厖大なリサイクル実例の一部

ドリル、きり、リーマーが古くなれば製作図にしたがって一段寸法の小さなものに加工され(略)
廃油も回収され、潤滑用やサビ止め用に活用され、それ以外は燃料として使われる。
熱処理に使われるシアン化合物については濃度が半分にできるプロセスを開発した。(略)
廃木材についての当初の考えは、それで紙を作ることであった。当時、それには軟質の廃木材しか利用できないと言われていたが、我社の独自の研究で硬質材も利用できる製紙法の開発に成功した。(略)この紙板は引っ張り強度が高く10インチ幅の紙板で作ったベルトでフォードの自動車一台を吊るすことができるものだった。
(略)
 溶鉱炉では1日500トンの鉱滓スラグが発生し、このうち225トンはセメント用に利用し、残りは粉砕して道路用に用いている。