江戸時代の身分願望

 

百姓でも神童なら養子経由で武士になれたし、「平百姓」との身分の差をつけるというエサで簡単に百姓を臨時兵力として徴兵できた。

10年毎日「就職活動」

[猟官活動を「日勤」で十年続けた男を称えた川路聖謨は、百姓から武士に身分上りした父を持ち、無役の旗本家に養子入りした男]
聖謨本人は、勘定奉行勘定吟味役の屋敷に日参した。早暁、彼らが江戸城に登城する前に訪ねて声が掛かるのを持つ。(略)
実家と養家の親たちも神仏へ願掛けをし、養父は三年間の酒断ち、実家の母は寒中の水垢離を続けたのである。

懐柔策としての身分昇格

伊勢国の藤堂氏は伊賀にも領地があり参勤交代時に藩主が訪れる以外は城代家老が実質トップ。だが城代の藤堂采女は藤堂家とは全く無縁の伊賀の土豪上がり。下克上の時代でもないの何故。

上野城代が、高虎の異母弟藤堂高清から伊賀の土豪出身者に替えられたのは寛永一七年(1640)(略)
その時勢認識とは、領内になお一揆構造的な性格が残っており、火種を抱え込んでいるというものである。それが伊賀の在地勢力の掌握の工夫を促し、その頂点にある者を城代に取り立て、かつ藩主家苗字の藤堂姓を与えて伊賀一国を支配させるという、これ以上ない懐柔策によって安定させるという逆手の策を思いつかせたのだろう。(略)
上野城代と無足人身分への引き上げによって、伊賀の惣国一揆の最終的な解体と、一国惣無事を藤堂氏は手に入れることができたのである。

自ら武士を捨て商人として成功するものもあれば

農村でも同じで、村役人層や百姓一揆の指導者で義民化した者は、たいへん高い比率で武士出自を記録・伝承で証する家筋の出であった。やや大げさに概括すれば、近世の上層商家・上層農家は武士の転身として形成された。(略)
そしてこの階層こそが、じつはもっとも自覚的で普遍性のある「御百姓意識」「町人意識」を育てたのである。

「身分上がり」をエサに

身分制度を維持したい権力側が「身分上がり」をエサにして謀叛勢力を懐柔して

個々の才能ある村役人を、武士身分に引き上げて公儀の側の地方巧者に編制するということのほかに、公儀は、士分化を褒賞の撒き餌にして、村社会の政治的抵抗力を削ぎ、秩序を維持しようとした。ここでの政治的抵抗力とは、百姓一揆である。

賤民頭・浅草弾左衛門

関ヶ原の戦いでは首集めの仕事を勤め(略)家康や公儀の権威を背景に、はじめは皮革業集団*1の支配圈・支配力を拡大強化した。やがて(略)関八州と近国の広域にわたって諸種の賎民職業集団を支配する頭の地位を確立した。

特権を与えられた闇の勢力

近世ではこうした裁判処刑の司法的権能は百姓町人共同体から奪われた−局地的には見られる−が、弾左衛門が束ねる賎民共同組織には認められた。また、帯刀・羽織に見られる弾左衛門士分性は、近世公儀が良民共同体あるいは公民職業身分社会を直接に編成・裁許する力は持ちえても、賎民共同体あるいは非公民職業身分社会を編成・裁許する絶対的な力はもちえなかったことを示している。
しかし、行刑・技芸・皮革・履物・灯心など周縁社会へ延びる広範な能力は幕藩体制の存続に不可欠であり、それらの把捉しにくい諸集団を統括できる者に対し、治者に似た格式と機能を認めることが必要であった。

神君の前の平等

武州窮民層は、地域に深く浸透した「東照大権現」「東照大神君」に彩色された徳川将軍家に対する親昵感情のせいか、政道不信の破壊行為を行いながらも、「平均世直将軍」と、平均も世直しも「将軍」の威力として待望することを示唆する旗をかざしていた。徳川将軍家への親昵心情は、世情が悪化し当節の支配への不信が高まるにつれて、往時をよくみたがり、それを神君家康が「安民」と「無事」をもたらしてくれたという追憶の美化として強まるという関係にある。(略)
武州騒動も上州・野州騒動も、同質の平等平均意識を噴出させたことは疑いないが、特色をいえば、武州では「君」(「将軍」)の前の平等、上州・野州では「神」の前の平等平均を求めたということになろうか。(略)
ただし、それは民主・人権意識にもとづくものではなく、神前・君前の平等主張である。

夫の死後、婿養子を迎えるまでの六年間だけ女性大名となった

清心尼が創始したという城内年中行事に、「片角様のお叱り」と呼ばれるものがある。(略)
[由緒ある龍の]片角を、毎年正月七日に城内で、御開帳祭りとして上下の諸士のすべてに拝観させる。そして役務の上での悪政失政・不道徳を公然と叱りつけ謝らせる。(略)もっとも片角は物をいわないから、神懸りした者が叱正役を代行する。内容はあらかじめの調査によってまとめられているのであろう。(略)
「箆持ち」慣行--飯をよそう木器を管理することで主婦の立場とする--を制度化して、家事における妻の主婦権の位置を高めようとしたともいわれる。

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*1:かわた