世界は村上春樹をどう読むか

全世界のハルキ翻訳家が日本に大集結。

恋する惑星 [DVD]

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  • 『有事跳舞』(邦題『異邦人たち』)

クワンは1970年代後半から80年代にかけて生じた香港ニューウェイヴのなかで、もっとも繊細な作風をもった監督である。このフィルムの物語は、香港の小さな離島を舞台として展開する。アメリカで活躍している著名な日本人女性カメラマン(桃井かおり)とその女友達、香港映画界のトップスター男優(レスリー・チャン的な孤独なナルシシスト)、日本の有名な小説家ハルキが、たまたまこの島に別個に滞在していたところ、伝染病が蔓延したというので島が閉鎖されてしまう。彼らは島から脱出がかなわないままに、一晩を過ごすことになる。ハルキは日本のマスコミの喧騒を逃れ、執筆に専念するために島におしのびで来ているうちに、たまたま同じく喧騒の映画業界から出奔してきたスター男優と心を交わし合う。お互いに相手のことを何も知らず、無名の存在としてつかの間の友情を交わし合う。ハルキは、孤独で内省的で、人間嫌いの日本人作家として登場している。このイメージが村上春樹に由来していることは、言うまでもない。

異邦人たち [DVD]

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書き直された「中国行きのスロウ・ボート

もうひとつ大きな変化は主人公が青山の喫茶店で第三の中国人と出会うときに読んでいた本が、初出の雑誌「海」ではジョン・ル・カレの新しい小説と明記されている。
(略)ル・カレがこの物語の現在である1977年に書いたスパイ小説といえば、香港を舞台とする(略)『スクールボーイ閣下』です。この小説の主人公は上海人兄弟で、祖国中国を裏切ってソ連のスパイになります。祖国は裏切るが兄弟同士は深く信頼しあい、さらに部下に対しては裏切りは絶対に赦さない。裏切ったものには徹底して復讐する。そういった信頼をめぐる物語でもあります。日本のハヤカワ文庫版の表紙は香港の紙幣ですが、最近台北で中国語の訳書を買ったところ、表紙に描かれているのがジャンク、つまり中国風の小さなボートだったんです。私の勤める東京大学の図書館にはル・カレのスパイ小説は入っておりませんで、確認は難しいのですが、洋書の原書でも装頓にジャンクを使ったものもあるようです。あるいは村上は「中国行きのスロウ・ボート」というタイトルを、香港や上海のジャンクから想像したのかもしれない。

  • 「ダンス〜」のドルフィン・ホテル

北海道大学でのシンポの前に、(略)ドルフィン・ホテルとおぼしきホテルに立ち寄ったのだ。フロントからエレベーター、そして最上階のバーにいたるまで、小説が描くとおりの雰囲気で、一同、大いに盛り上がった次第である。

全編を通して雰囲気を一人で盛り下げていた四方田“粗製濫造”犬彦。大学教授なのだから生活にも困らぬだろうに、なぜ好きでもないのに参加するのだ。

わたしはこの山中湖に滞在していて、さる女性の翻訳者とたまたま廊下で二人っきりになったことがあった。四方田さん、ひとつ聞いてもいい?と彼女は尋ねた。あのね、あなたは本当はハルキって、全然好きでも何でもないのじゃない?この三日間ほど打ち合わせを含めてあなたの発言を聞いていて、ほかの人たちとはどこか違うなって思ったのよ。
わたしが黙っていると、彼女は最後に言った。だいじょうぶ、他の人には黙っててあげるから。

チェコノルウェイNorské dřevo謎ジャケ↓
https://www.martinus.sk/data/tovar/_l/21/l21121.jpg
謎のオッサン、傘折れてるし。
イタリア版Dance dance danceのジャケ、この写真だとわからないけど、ハルキ似。本文119ページの写真をチェック。
https://www.libreriauniversitaria.it/data/images/BIT/995/880615995Xg.jpg