アンダースロー論 渡辺俊介

キモである技術論以外のところを。

アンダースロー論 (光文社新書)

アンダースロー論 (光文社新書)

クビがちらつく一軍未満の心理

ファームから一軍に昇格して試合で投げるときは、打たれるよりも、またファームに落ちることが怖くてたまらない。ちょっとフォアボールを出すと、監督の顔が気になって仕方がない。いつも自軍のベンチを意識して投げていて、ちっとも相手と試合をしていませんでした。(このピッチングで、一軍に残してくれるかな)勝ち星が自分につく、つかないよりも、一軍に残れるかどうかの方が大事。

再度昇格して、自信を持って挑んだが

あっという間にボンボンボンと打たれて、頭の中からホームランのイメージが消えない。マウンドを降りたときにはショックで、(これでまたファームだ)と、ひどく落ち込みました。シェルドン、竜太郎、日高にも打たれたのかな……、相手が誰だったかは覚えていません。みんなに打たれたように思えて……。ホームランだけではなく、連打も食らいましたし、まあ面白いようにカンカン、カンカン打たれました。悪いボールではないのに打たれたという感覚です。あれからしばらく、オリックス恐怖症でした。神戸の球場に行くだけで、気持ちが滅入るくらい。もちろん、監督は大激怒している。「もうお前なんか使うもんか」という雰囲気でした。

山本功児監督を袴田&井上コーチがとりなして首の皮一枚。満塁の場面で出番が。たちまちワン・スリーに。

あとでビデオを見ると、ワン・スリーになったとき、僕が監督の方を見て「あぁー」って顔をしている。監督の怒った顔が映っている。あの場面は、いま見ても苦しくなります。次の一球は、ど真ん中に置きにいきました。それを和田さんが見逃して、ツー・スリー。最後の球はシンカーでした。(曲がりきれっ!)と、必死の思いで投げたら、風が強かったので、ものすごく曲がった。和田さんがそれを空振りして三振です。それで勢いづいて、その試合、最後まで投げました。勝ちはつきませんでしたが(四対二で負け)。それから、「西武にも通用するんだ」ということになりました。それまでは、オリックスが最下位だったので「オリックスじゃないとお前は投げさせない」という感じだったのですが、「そうか、オリックスは最下位だけど、打線はいいし、お前との相性の問題か」と評価が変わった。

メジャーのボール

(これほど使いにくいボールを、どうしてこの時代に使っているんだろう)と、思いました。
一個一個、包みを開けるたびにボールの感触が違う。箱ごとに縫い目の感覚も違います。

メジャーのボールは、結構形がいびつなものがあります。普通に投げても、変化する。あのボールで真っ直ぐ投げるのは難しい。だから、わざとツーシームやら何やら、小さく変化するボールを武器にするというメジャーの傾向は、よくわかります。
しかも、一回打つとものすごく形が変わったりします。メジャーのピッチャーはあまりボールを替えたがらないですよね。傷がついたりするとよけい曲がるので、好んで、使い込んだボールを使う。日本のピッチャーは真っ直ぐ投げたいから、すぐボールを替えます。その辺の感覚は、日本とメジャーではかなり違います。
日本のピッチャーは、自分の思い通りのボールを投げたいと考えるのが基本です。向こうは、自分も予測できないような変化をさせたいようです。

いつも二番手だった渡辺俊介新日鐵の監督がアンダースローを苦手としていたので、別の選手をスカウトしにきて渡辺に惚れこむ。申し込まれた大学の監督の方がそれでいいの、あんたの鑑識眼鈍ったんじゃないのと言ったくらいの低評価。
アマ時代表彰式で一緒になった工藤と黒木の会話からつかんだ投げ方で試行錯誤。

でも、投げていてすごく物足りない。力が入っていない感じがして、満足感がない。理屈では、「無駄がない」のがわかるけど、「投げた、すごい球がいった、力が伝わった」という実感がありません。