悪魔のピクニック

国が規制しているものをその国に行って摂取するという企画。当然ドラッグも出てくるが、それより衛生戦争?で禁止されているチーズとかの方が面白い。

ノルウェー

こういう書き方をすれば、どこの国だってヘンな国にできるような気もしないではないが。シンガポール篇はもっと悪夢。

ノルウェーは世界でもっとも投獄率の低い国なのだ。しかし刑務所には三千人以下しか収容できないので、刑が確定してから懲役を受け始めるまで二年も待つ受刑者もいる。(略)
平等主義者のユートピアであるこの国では、墓石の高さはみな同じであり、”すべての国民の権利”を守るために、国民は国内のどこででもテントを張り、果物をもぎ、スキーをすることができる。たとえそれが他人の所有する土地の中であっても。性的にも自由な王国であり、皇太子はコカイン依存症だったと認めたシングルマザーと結婚し、財務相は男性の長年の伴侶と結婚したが、首相はルター派の元僧侶であり、絶対禁酒主義なのだ。

国が酒を専売するノルウェー。購入がメンドウ&量規制となれば、ヤミ&密輸が横行するだけで、結局酒の消費量に大差はない無意味なドタバタ。

この現状で得をしているのは誰か? 国は放っておいてもこんなにも莫大な税収を生んでくれる専売体制を手放したくないのだ。(略)
ここで一つ疑問が生まれる。アルコールという物質が政府の専売制度で管理されなければならないほど危険なのだとしたら、政府はなぜそんなに手をかけてまで売っているのか? 答えは簡単だ。ノルウェーでは、そしてカナダでも、組合活勤にどっぷりつかった役人のせいで硬直した政府直営の酒店のネットワークを維持するのに莫大な金がかかるのだ(酒の専売所はいまや巨大な金食い虫の役所になっているだけでなく、腐敗しているという証拠もある。(略)

禁酒法時代のアメリ

メイン州アメリカの州で初めてアルコールの販売を禁止すると、店主たちはクラッカーを五セントで売り、そのおまけとして、ただでラム酒を一杯つけた。酒を売ってはいないのだから、犯罪にはならない。ヴォルステッド法が施行されるとすぐ、シカゴだけでも五万七千人の薬屋が「医療用」のアルコール販売免許を申請し、すぐにウィスキーは痛風から腰痛までありとあらゆる病気に欠かせない治療薬になった。おそらく、その中でももっともおかしなものは、ナパ・バレーのワイン醸造業者が編み出したアイデアだ。彼は干しぶどうやレーズンケーキを作った。食料品店にいる宣伝係は客にわざとらしく、コルクでふたをしたジャグの中で水に潰けてそのまま三週間ほうっておいてはいけないと説明する。発酵が始まってしまうかもしれないから、と。さらにもう一押しが必要な者のために、ケーキにはこんなラベルがついていた。「注意:発酵するとワインになります」

やすらかに酔いつぶれるノルウェーの若者と比較される

日本と英国

私はいままでの旅の中でもっとひどい光景を目にしてきた。土曜の夜の東京の中心部は、ヒエロニムス・ボスの悪夢の絵のような眺めだった。プラットホームには吐瀉物があり、自分の体の機能をコントロールできなくなったサラリーマンたちがよろめき歩いていた。そして海外のビーチでパーティーをし、飲んで騒ぎ始めたイギリス人がほとばしらせた得体の知れない激しい怒りや階級への不満、外国人への嫌悪を超えるものはない。日本もイギリスもアルコール販売に関する法律はゆるく、さらに両国とも序列にこだわる文化を持っている。この二国の人々のどんちゃん騒ぎは厳しい法律の反動というより、社会的抑圧への不満の捌け口なのだ。対照的に、平等主義のノルウェー人たちは、日本人やイギリス人たちより単純な酔っ払いで、ただ酔いつぶれたいだけなのだ。ここではつぶれるまで飲むのは心理的な抑圧ではなく法律上の抑圧への反抗だ。

1969年発行の酔態調査"Drunken Comportment"

この論文は、アルコールは万国共通で自意識を消滅させるもので、いやおうなく脳の高次の中枢を麻痺させ、抵抗感を取り除いて、その人がしらふの時には決してやらないようなことをさせるという通念に疑問を投げかけている。むしろ逆にタブーや社会体制が厳しく守られている多数の社会では、酒を飲んでも抵抗感はなくならず、極端な無茶飲みをしていても変わらないことを例にあげている。(略)
酩酊の様子は社会的につくられていくことになる。人々は他人を見て、どう酔うべきかを学んでいるのだ。

タヒチの人々は、イギリスの船乗りと接触した1767年には明らかにアルコールを嫌い、カバの根をしぼって造る土着の麻酔性飲料の方を好んでいた。しかしキャプテン・ヴァンクーバーがタヒチに立ち寄った1791年には、現地の人々は酒で酔っ払うようになっていた。そして20世紀になる頃には、週末に酒を飲む習慣ができ、さらにはそれに伴って暴力も発生するようになっていた。(略)北米のネイティブ・アメリカンの社会の多くで、初めてアルコールに触れた人々が千鳥足になり、疲れる程度の穏やかな反応しか示さなかったと指摘している。

世界一臭いチーズ

さて、貧乏人の僕はスライスチーズみたいなものしか食べた事がないわけで、こういう描写ではじめて本物のチーズは発酵品であると実感?するわけです。アメリカで禁止されている「未処理の生乳から作った熟成期間が60日未満」のチーズは、マラカスまんぼー満腔フレイヴァーなのだ。

「ああ、すばらしい!」と彼は叫んだ。気の抜けたシメイビールの香りは、一瞬のうちに食欲をそそる悪臭に圧倒される。彼は目を閉じてため息をついた。「セックスの匂いみたいだ!」
(略)
やがてウェイターがテーブルにやってきた。彼は心配そうに顔を硬くしている。
「その匂いをどうにかしなければなりません」と彼は息をつまらせ、甲高い声で言った。「お客様がみんないなくなってしまいます!」

世界一臭いチーズ、エポワス。ドリアンが公衆便所でカスタードなら

エポワスを食べるのは飼育場の肥溜めの中を歩きながら、便器の消臭剤にかぶりつくようなものだ。しかしアンモニアと納屋の前庭の入り混じったようなにおいというバリアを越えてしまいさえすれば、悪魔は実は堕ちた天使だったとみな思い出すだろう。舌の上に突然新鮮なミルクや純粋な塩や砂糖やクリームのえもいわれぬ味わいと、ブルゴーニュ郊外の豊かな香りがひろがるのだ。

そんなチーズが何故に禁止になるのかという大西洋を挟んだ争いの話は明日でいいですかあ。