赤塚不二夫のことを書いたのだ!!

赤塚不二夫のことを書いたのだ!!

赤塚不二夫のことを書いたのだ!!

「おそ松」キャラを書いたのは高井研一郎

赤塚が口で説明したものを高井が絵にした。高井は自分の絵柄を封じられてしまった。

[妻・登茂子の証言]私も少し絵が判ったから、「不二夫さんの絵は古いんじゃない」と、言ったことがあった。何気ない一言だったんだけど、赤塚は、すっかり考え込んじゃった。そんな時、少年サンデーで『おそ松くん』が新連載されることになったの。悩んだ赤塚は、共同執筆者に高井研一郎さんを入れることにした。仕事に関しては、凄く柔軟性のある人だと思ったわ。
自分の絵が古かったら、絵が上手い人を入れればいい、って単純に考えられる人。さすが、トキワ荘で、石森さんや水野さんと共同執筆した人よ。作品を良くするためなら、誰にでも頭を下げられる謙虚さを持ってるの。プロデューサー的資質があるのね。
絵では高井さん、アイデアでは、その後、古谷さんや長谷さんの力を借りていく。(略)
「高井さんが入って、赤塚の絵は、明らかに変わったわ」
と、登茂子は『おそ松くん』の初期の頃の話を始める。
『おそ松くん』で、赤塚の作ったキャラの絵は、六つ子と、その父母、トト子ちゃんくらいね。他のキャラは、ほとんど高井さんの絵よ。
(略)
高井研一郎の証言。
「僕は、大人漫画を目指していた。『おそ松くん』で赤塚氏に協力して、チビ太やイヤミのキャラクターを作った。自分の絵柄を全部、赤塚漫画に投入した。僕が、赤塚氏の後に雑誌に入ったら、赤塚の物真似作家になっちゃう。僕は僕なりに、そのことで悩んだ。でも、割り切ったの、赤塚氏が売れっ子になるまで協力しようと。割り切っているつもりでも、時々不機嫌になったりするのね。だけど、赤塚氏のほうが一枚上手だからね。でも、僕は、天才赤塚不二夫の手伝いが出来ただけでも幸せだった、と今は思ってる」

高井の機嫌をとる赤塚

これを読むと武居が担当になって最初に目撃した何気ない光景がかなりコワくなってくる。「アシスタントにも気を使う細心な先生」というノンキなものではないのである。

その頃までに、三々五々集まってきたアシスタントが、全員揃う。皆、「赤塚時間」を知っているのだ。
いや、高井がいない。
「オレ、研ちゃん迎えに行ってくるよ」
机の上のベンツのキーを手に、赤塚は、気軽に飛び出していく。
二〇分ほどで、赤塚は、高井を連れて戻ってきた。赤塚が盛んにギャグを連発するが、高井はブスッとしている。
赤塚は、当たりを始める。
順調だ。
ふっと高井が席を立つ。便所かなと思っていたが、帰ってこない。
(略)
[この後喫茶店にいた高井に電話でいたずらを仕掛け]
ひとしきり皆が笑い、高井の機嫌も直ったようだ。

ま、ミッキーを描いたことのないウォルトや、プログラムを書いたことのないゲイツに比べればコワクないけど。

セッセと『ダメおやじ』を描く赤塚

新連載『ダン』不人気の中、アシスタント古谷の新連載に協力する赤塚。そして逆に赤塚がアシスタント化。後のほのぼの薀蓄テイストと、最初のエゲツなさの落差はそういうことなのか。

バカボンのパパのアンチはどうだろう、と赤塚は言う。パパは無敵だ。そのアンチの、弱いおやじを描いてみよう。父権失墜の現代の象徴だ。
タイトルは、ズバリ『ダメおやじ』。
とりいに徹底的に汚い漫画を描かせて成功した。古谷の『ダメおやじ』では、徹底的に家族のいじめにあうおやじを、主人公にしよう。赤塚は、アイデア、ネーム、当たりまで手伝う。自分の作品と全く同じスタイルだ。
ダメおやじの頭には、毎週、フォークや包丁が突き立てられた。五ページの『ダメおやじ』は、サンデーで人気トップになっていく。
赤塚の『ダン』は相変わらず冴えない。『ダメおやじ』を描きながら、赤塚は言う。
「『ダメおやじ』描いてると、オレの勘、狂ってないなと思えるんだよ」(略)
[『ぶッかれダン』は結局30回で終了]
赤塚は、セッセと『ダメおやじ』を描いている。『ダメ』のクレジットは、古谷三敏とフジオ・プロ。つまりフジオ・プロ作品だ。赤塚に異和感はない。だが、何か違う、と思い始めている。赤塚の中にある、ありあまるエネルギーが、出口を求めて悲鳴をあげているのだ。

アシスタントに責任を取るという悲劇

長谷の証言。「古谷さんは、アイデアの席にいるだけで、存在感があった。赤塚にとって、古谷さんがアイデアから抜けたのは、本当に痛かった」
赤塚は、自分のアシスタントを次々に一本立ちさせる。それは、すなわち自分の作品を痩せさせることだ。右腕を、左腕を切り落としていくのと同じだ。アイデアが薄まり、絵が枯れていく。赤塚にも、それが判っている。判っていながら、それをやる。僕は、それを見ていて、本当に立派だと思う。人の道にはずれていないと思う。

壁村伝説再び。

古谷への新連載依頼で一週間泊り込んでいたが、古谷が何気なく「赤塚さん」と口にしたから大変

壁村は、その一言に怒った。
「てめえの原稿なんかいらねえよ」
と啖呵を切って、古谷の部屋から出ていった。(略)
壁村は、『ダメおやじ』のヒットで増長した古谷が、赤塚と対等の口をきくようになったと解釈した。その古谷を許せなかったのだろう。「義」に生きる人だった。

長谷邦夫に嫉妬する古谷

勢いで始めてすぐ投げ出し、長谷邦夫が実質編集となった『まんがNo.1』

まんがNo.1をめぐって、古谷は赤塚に噛みついたことがある。
「先生、売れる雑誌を作りたいんでしょ。僕と芳谷さん、今、人気絶頂だよ。どうして二人に、もっと描かせないの?」
「いや、あの雑誌やってるの長谷だから」
赤塚は逃げをうつ。
「だって、表紙で赤塚不二夫・責任編集ってうたってるじゃない」
「オレ忙しいし、長谷にやって貰うしかないじゃない。長谷の好み入るのは、しょうがないよ」
古谷は、そんな赤塚を眺めながら、
(いつも長谷の悪口を言ってるが、先生は、オレより長谷のほうが大事なんだ。このままじゃ、オレ、フジオ・プロ出てっちゃうよ。)
古谷の胸に、赤塚の元を離れようという思いが、この時、初めて芽生えた。

最後の漫画『シェー教の崩壊』のために涙の全員集合

アシスタントが揃った。チーフは、あだち勉。以下、高井、古谷、北見、土田よしこ。名古屋から、とりいも駆けつけている。長谷には声がかけられていない。(略)
版画家の棟方志功のように、赤塚は、原稿に顔を近づけ、当たりをやっている。長年の目の酷使、アル中のせいもあったろう。この頃の赤塚は、老眼がひどくなっている。僕は、赤塚が当たりをやっている姿を久しぶりに見た。線が太くなり、昔の軽やかな線とは違う。
赤塚がトイレに行った時、あだちが僕に囁いた。
「先生、絵下手になったなあ。当たりの線濃過ぎるしさあ。オレ、先生の線、全部消して描き直してるの」(略)
皆、感慨を込めてペン入れをしているのが、ヒシヒシと伝わってくる。赤塚の絵が、微妙に歪んでいる。しかし、誰にもとがめられない。

黒澤明なのだ

「これでいいのだ!!」
このセリフは、黒澤明の『どん底』がヒントになっている。藤田山が駕籠かきに扮して言うセリフ「夜は寝るのだ!!」から生まれた。
赤塚には、そう聞こえている。しかし、実際の藤田山のセリフは「夜は寝るだ!!」。赤塚の聞き間違いが、パパの名セリフにつながったのだ!!(略)

安田講堂占拠

赤塚と僕は、TVに釘づけになっている。室内では、ストーブが赤々と燃えている。
「冷たいだろうな、学生達」
赤塚がポツンと言う。
「オレのおふくろは偉いよ」
僕は、一瞬、現実に連れ戻される。
「おふくろはさあ、悪さをしたオレを、薪ザッポウを手にして自分で撲ったよ。我が子のおしおきを他人任せにしたり、おまわりに頼んだりはしなかったよ」

石井いさみトリビア

打倒マガジン、打倒『巨人の星』で、野球に対抗してサッカー、やたらの号泣に対抗してタイトルは『くたばれ!!涙くん』。
さらに梶原一騎をサンデーに引き抜くと、梶原は石井を指名。実は梶原兄弟と石井は幼馴染だった。軌道にのりだしていた『くたばれ!!涙くん』を終了させて始めた連載だったが石井の絵はどうしても梶原節と馴染まず。
手があくと文庫本を読んでいた18歳の寡黙な石井アシスタントが、あだち充
サンデーが読み切りで描かせた『750ロック』に、あのチャンピョン”手塚原稿破り”壁村編集長が目をつけて『750ライダー』大ヒット。

  • 著者と長谷邦夫はウマが合わなかった模様。

「赤塚は長谷が嫌いだったが作品のため我慢してつきあってきた」とかヒドイことを書いている。
kingfish.hatenablog.com
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