人民元は世界の脅威か

ドルの源流はスペインなのか。

スペインが発行したスペインドル銀貨は、やがて植民地のメキシコに受け継がれてメキシコドル銀貨に代わり、その優れた品質によりその後アジアで一世を風靡するに至った。さらに驚くことには、このメキシコドルが米国独立後の80年間ほど米国の国内通貨として通用し、米国が独自の通貨を発行する段階でドルという呼称をそのまま継承したという事実がある。

1871年、通貨単位を両から圓に移行し

、明治政府は廃止された香港ドルの鋳造機械を買い受ける

すでに新規の鋳造がやんだ香港ドルには「香港壱圓 ONE DOLLAR HONG KONG」の刻印があり、また香港より持ち込まれた英国やフランスの鋳造機械には、圓の英字表記としてYENが刻まれていたとされる。この圓とYENを、日本政府がそのまま新通貨に借用した可能性が高い。開国によりアジア一円に飛躍しようとした日本にとって、すでにアジアに浸透していた香港ドルの圓やYENという呼称を利用できるメリットは、想像を超えるほど高かったに違いない。

日中通貨戦争

各国の洋銀が乱立するなかで、一八九〇年代の半ばにはデザインや品質に優れた日本の貿易銀が、英領海峡植民地やマレー諸島で高い人気を博し、さらにアジアの主要な海港で広く利用された。列強の侵略によって疲弊した中国を尻目に、明治の新政府が明確な目的をもって通貨競争に目覚め、一時的とはいえ成功を収めたのである。そもそも香港から[英人技師]キンドルを招聘したことにも、両・圓・元という呼称が混在する清朝末期の状況に照らし、新生日本の通貨として「圓」を先取りしようとする気迫がみえる。開国時に、金銀の国際商品価格に関する情報不足のため、大量の金を失うという屈辱を昧わった。こうしたことへの反省が契機になったとはいえ、その後現在に至る受身の通貨外交と比較して、往時の政府の行動には躍動感が溢れていたといえよう。
メキシコドルと同様の国際通貨として信認を獲得しようと、各国がほぼ同量の銀の純分をもった洋銀や貿易銀の発行をめぐって覇を競った。自国の銀貨が多く利用されるほど、自国の通貨発行によるシニョリッジ(通貨発行益)を多く稼げたからである。ドルと圓と元は、このようにしてアジアで一同に会し、その後それぞれの道を歩むことになった。
(略)
その後中国は新生中国に向けて政変を繰り返したが、発行された紙幣の表示はほぼ一貫して圓であった。
一九三三年の廃両改元で、両という呼称は中国の歴史から消え、一九三五年に不換紙幣としての法幣が発行され、通貨単位は元に統一された。しかし、米英両国の支援により印刷された券面の表示は、圓であった。次いで人民軍による人民幣が台頭したが、これも表示は圓であった。さらに当時大陸に進出していた日本の紙幣や軍票などの表示は、もちろん圓そのものであった。いわゆる「日中通貨戦争」は、政治的・軍事的な背景をもった「圓」の覇権争いという側面もあったことになる。

現在の中国における圓と元。

[圓で円と元が統一なんてこたぁないw]。

この圓と元が中国では、現在でも一般に区別なく使用されているため、話がかなり混乱してくる。中国人にしてみれば、日常生活において圓と元を区別することなく使用してきた長い慣行がある。まず、ともに漢字の発音yuan(ユェン)とまったく同音である。圓と元を一緒にまとめた、オカネを意味する塊銭(クヮイチェン)という言葉さえある。
現在の人民元は、一九四九年の建国後に通貨単位の呼称を人民幣、そして通貨単位を元と定めたことによって呼ばれるようになった、いわば通称である。しかし紙幣の表示は、相変わらず圓のままで、これは清末より変わっていないことになる。正式の中国語では、日本円が日元(日本の通貨)、米ドルが美元(美国、すなわち米国の通貨)、ユーロが欧元(欧州の通貨)である。ここで使われている元は、実は圓の簡体字であって、この場は本位通貨(その国の正式通貨)の意味である。したがって、人民元中華人民共和国の通貨であり、「われわれ人民の国の」通貨を意味することになる。
以上の複雑な絵解きをするためには、戦後の中国でこれまで二度にわたって行なわれた漢字改革の経緯を振り返る必要がある。すなわち、圓は一般の活字から消え、圓の簡体字の「元」と書くことを義務づけられた。したがって、中国で漢字の元と書く場合は通貨単位の元と、圓の簡体字としての元のいずれかを意味している。しかも圓のほうには元と同一の意味と、本位通貨としての意味、そして本来の丸(円)いの意味があることになる。ちなみに日本語の円は、日本で戦後に採用された新漢字であるから、もちろん日本でしか通用しない。
(略)
圓の呼称は、日本の「満州統治」時代(現在の中国ではこれを「偽満州」と呼ぶ)を含め、民衆に馴染んできたのであろう。通貨にとって最も本源的な基盤である庶民生活の場では、圓も元もまったく区別なしに使われていることがよくわかる。

1ドル=1円だったことがあったなんて知りませんでした。円高って、なにかね。
以下円の変遷(1ドル=)。
1871年 1円 円の誕生(明治政府)
1897年 2円 金本位制移行
1941年 4.25円 太平洋戦突入
1945年 15円 米軍占領下
1949年 360円