目には見えない何か

目には見えない何か

目には見えない何か

小説を読まない人間が何故に手にしたかといえば、小林信彦を読めばいつもパトリシア・ハイスミスなんですよ。ネタバレありなのかなあ。
まるで中原昌也みたいなタイトル「死ぬときに聞こえてくる音楽」。同僚を殺したことを日記につけるところから始まるけれど、実はそれはただの妄想で。
なんだかすごく中原昌也

しかし、一日じゅう鳴りつづける音楽には頭がへんになりそうだから、辞めるかもしれない。死ぬときに聞こえてくる音楽。アーロンはそう考えることがあった。いつだったかニューヨークのどこかで、行くのが嫌でたまらない約束があり---歯医者だったか、医者だったか---エレベーターで上に向かっているとき、そんな吐き気をもよおす音楽が、甘美なヴァイオリンの調べが、エレベーターの天井から聞こえてきたことがあった。

殺したつもり日記

妙なことに、歩く屍が郵便局にいる。考えると変な気分だが、もうじき局内で生きているのは自分だけになる。ある日、誰もいなくなった局を出て行き、この手で錠を下ろすことになるだろう---あのミューザク・ボックスのスイッチを切ったあとで。生き残るのは自分だけだ。次にボビー、それから配達人たち。配達人のなかでは、ヴィンセントを最初に始末しよう。あのチューインガムのにおいが鼻につくし、そばにいると毎朝のように肩を叩かれるのには、もううんざりだ。

1965年に「北斗の拳」を先取り

月曜日、ロジャーに呼ばれ、カウンターに積まれている小包の処理を手伝うようにいわれたとき、アーロンは、誤解の余地なく、きっぱりと答えた。
「おまえは死んでいる」
ロジャーは、あんぐりと口を開けた。
ボビーは、彼を見つめた。
カウンターの反対側でその言葉を聞いた数名の人々が、驚いたようにぽかんとした。そのうちの一人は笑みを浮かべた。
アーロンはロジャーを見つめた。これでロジャーはすくみ上がるだろう、とアーロンは思った。実際、ロジャーはひどくおびえた顔をしていた。
「こいつ、いったいどうしたんだ?」 ロジャーがボビーに訊ねた。
ボビーはアーロンに近寄った。「いったいどうしたんだよ、アーロン? 気分でも悪いのか?」
「気分は爽快だよ」アーロンはふてぶてしく答えたが、睡眠不足で自分の目が血走っていることはわかっていた。

「生まれながらの失敗者」負け組の雑貨屋、妻は流産で子供ができない体。かつかつの商い、兄が無一文でころがりこみ、当然妻はいい顔をしない。結局兄は金を持ち逃げ、それでも毎年やってる養護施設への寄付をしようとする。泣ける描写。泣けるわ、泣くわよ。

ウィニーは苦心して百ドルの現金をかき集めて、菓子やクッキーを買い、馬や橇を借りて、子供たちみんなを六人か八人ずつ橇に乗せて走りまわった。ローズは、ウィニーが子供たちのクリスマスにお金をかけても、小言をいわなかった。子供たちに囲まれて手綱を握るとき、ウィニーの疲れてやつれた顔がぱっと明るくなり、くっくっという声をだして馬を元気よく速歩で駆けさせると、彼のアライグマの帽子の毛が風に吹かれてぺしゃんこになる。そんな夫を見るのが、ローズは大好きだった。彼がどんなに自分の子供を持ちたがっていたか、ローズにはよくわかっていた。

やっぱり小説はメンドクサイので、全部読んでません。「帰国者たち」は戦後ドイツの微妙な空気を描いてます。

本音を申せば

本音を申せば

旧作DVDになれば百円、それまで待つ。ビンボー。

結論をいってしまえば、ぼくにとって、「下妻物語」は「ニッポン無責任時代」(一九六二年、試写室で観た)以来の〈予想しなかった面白さの映画〉だった。