タイガー&ドラゴン「猫の皿」

自分が価値を認めているものを評価しない人間に与えるにはどうすればいいか、価値観の違う者同士が交換を行うにはどうするか、それが「猫の皿」の裏テーマじゃないのか。茶屋の主は皿の価値がわかったうえで「猫の皿」扱いして、汚い猫を3両で買わせてしまうが、果たしてその猫は本当にただの汚い猫なのか。商人からすれば、一杯喰わされ汚い猫を買わされたとなるが、茶屋の主はひそかに思っているのかもしれない。一度家に持って帰ってとくと吟味してみなさい、ただの汚い猫ではありませんよ、と。
一方、クドカンは「猫の皿」の構造を逆にして、欲しいとは言えない物を竜二(岡田准一)に獲得させる。高級古着が「猫の皿」、大島紬が汚い猫である。高級古着が三位の商品というのがミソで、これで竜二のメンツを立てつつ、竜二の落語への思いを問うことができる。あくまでも高級古着が欲しかっただけと言い張りつつ、竜二は大島紬(落語)を手にする。優勝してしまう落語をやったことで古着より落語がやりたいと竜二に表明させるが、それでも形式上は古着が欲しかったと言い張れる、こんな汚い猫欲しくもなかったと言い張れる。
一番問題になるのは竜二が最後にやった「猫の皿」は小しん(小日向文世)のなのか、師匠のなのか、それとも竜二がアレンジした「猫の皿」なのか。
以下とりとめなく。

  • 小しんは意地悪な人だろうか。

馬鹿にされていることに怒っているだけなんじゃないだろうか。人情噺が一番だと思っている面白味のない奴と世間から思われていることに小しんは怒っている。わかっていないのではなく、認めないという立場に立っているだけなのだ。
小しんは竜二が単に真打になりたいから自分のところに来ていると思っているので、じゃあ俺の「子別れ」は、真打目当てで買われる汚い猫かよ、と嫌味で「猫の皿」を教え、同時に謎をかける。
俺はお前の親父・どん兵衛西田敏行)の「猫の皿」の価値をよくわかっている。下に見ているとお前は思っているのだろうが、そんなことはない。だがあえて小しん流の「猫の皿」を教える。それをお前がどうとるかだ。ただの汚い猫だと思うのか、それとも価値を見出せるのか。こんなつまらない「猫の皿」なら、自分の師匠に習えばいいと思うならそうすればいい。落語が習いたくて来ているのならそれでいい。もし本当に真打になる力があるのなら、人情派の「猫の皿」と面白派の「猫の皿」を併せ持ったような、「猫の皿」をやってみろ。お前にはそれができる力量があると俺は思っている。お前が一日しか習っていない「子別れ」をやるなら、それは単に真打になりたくてきている証拠だ。
謎をかけられた竜二は、ボロボロの「子別れ」をやって、さらに小しんの「猫の皿」の価値にも気付かなかった。そして今回ようやく小しんに答えて、「猫の皿」をやった。正しい答えを返した竜二に、小しんは「子別れ」を習いに来いと言う。

これまでの話だと、「うまいけれど面白くない」ことに煮詰まって落語をドロップアウトして服屋になって、それでどん兵衛が怒って勘当という流れなので、落語界に再度竜二が引き込まれていくには展開が弱いわけである。なんだよ、竜二の服への情熱はそんなもんなのかということになるわけ。そこで落語を辞めなきゃならなくなった重い経緯が必要になる。だがそれは、危険なのである。人情噺になってしまうのである。「小しん、客より先に自分が泣いちゃってるよ」の世界。それでも人情噺は必要だし、やらなければならない。どうすればいいか。
若者は「ヘヴィな状況」を怖れる、怖れるけれど確かに生きているとそれはさけられなくて、自分には一大事であり、なのに他人にはどうでもいい話で、だからヘヴィにこんがらがって、人情噺に酔うのは恥ずかしい。しかしそのヘヴィを人に提示しなければ伝わらない事がある。さてどうしたらいいのか。それで「猫の皿」。

  • 竜二の状況

どん兵衛は人情噺もできるようになれとなんの魂胆もなく小しんのところへ行かせる。小しんはそれを魂胆があるととる。板挟みになって、竜二は爆発してしまったのだが、答えは他になかったのか。つまり「ヘヴィな状況」だと思い込んでいることは、実は話してみたら簡単に解決することかもしれない。傍からすれば、なんだそんなことかいで済んでしまうことかもしれない。話さないで自分で解決しようとして、爆発しているだけかもしれない。わかるわけないじゃないと思い込んでいるのだが、わかっていないように見える人間がわかっていたり、わかっていない立場をとっている人間と「猫の皿」方式で交流できるのかもしれない。

  • 未解決

小百合(銀粉蝶)と二人で酒を飲んでいた虎児(長瀬智也)にどん兵衛が「猫泥棒」と言ったこと

  • やや未解決

人に見せない面をメグミにだけ見せたことでキス、というのはよくわかる。誰にも言わないでねと言ったことがどんどん流通してしまうところに「猫の皿」がありそうなのだが、明確に説明できない。

  • たけちゃん、バウ。

淡島ゆきお(荒川良々)が「毎度おさわがせボーイズ!」と机を叩いた勢いに苦笑いの西田敏行の表情が雰囲気北野武。横には高田文夫