数量化革命

数量化革命

数量化革命

十六世紀戦争のハイテク化。

十六世紀の軍事教本には、平方と平方根の表が載っているのが通例だった。将校たちはこれらの表を手引きとして、ルネサンス期西ヨーロッパの新たな戦闘隊形に、数百人から時には数千人の兵士を編成した。戦闘隊形は正方形その他の四角形、三角形や大鋏形など、実に多彩だった。いまや将校は有能たらんとすれば、「代数と数字の大海原を骨折って進む」か、数学者を雇って助力を求めなければならなかった。(略)
新しいタイプの戦争は歩兵を単なる数量に変えていた。彼らは古代ギリシアの重装歩兵隊や古代ローマの歩兵隊の兵士たち以上に、自動装置のごとく画一的に行動することをしこまれた。

西ヨーロッパ人は周辺的な存在だった

系統発生的な古代からの伝統を欠いているという点で、西ヨーロッパ文明は偉大な諸文明の中で異色の存在だった。西ヨーロッパ以外の文明杜会では、伝統的な文化の枠組みは彼らの過去に深く根づいていた。(略)
彼らにとって最も重要な聖地が西ヨーロッパの圏外にあったこと、さらにサラーフ・アッディーン・ユースフ(サラディン)が十字軍を撃退した後は、キリスト教世界の圏外に追いやられたことを指摘すれば十分だろう。「敬うべきモデル」は、外来の要素を数多く含んでいた。このことと少なくとも同じくらい厄介だったのは、このモデルが本質的に相容れない要素を内包していることだった。このモデルのギリシア的要素とヘブライ的要素は(極度に単純化することを許してもらえるなら)それぞれ合理主義的、神秘主義的であり、全体の調和を乱していた。それゆえ、西ヨーロッパ社会は彼らのライバルたちとは異なり、説明する者、調整する者、再統合する者を絶えず必要としていたのである。

分類。はじめての目次。

古代の文献類はまったく整理されていない状態で、西ヨーロッバにもたらされた。それらは分類されておらず、また分類するてがかりもなく、浜に打ち上げられた鯨のように扱いにくい代物だった。スコラ学者は本文を章に分けて、章ごとにタイトルをほどこすことを考案した。彼らはさらに、欄外見出しや相互参照システム、引用文献の一覧表示まで考え出した。(略)
スコラ学者が考案した諸々のシステムの中で、おそらく最も革新的で有用だったのは、書物の内容を小分けにして示す目次というシステムだろう。ギリシア人とローマ人の著作は、それを初めて読む者が迷うことなく、総論から見出し、小見出し、特定の事項へと順次たどり着き、そこから総論に戻れるような形では著わされていなかった。スコラ学者はそうしたプロセスを可能にする目次というシステムを開発した。

価格はあらゆるものを数量化し、時間にさえも値がつくことに

さらに、時間にも--負債にかかる利子は借用期間に応じて算出されるので--価格がつけられることがわかってくると、時間は神の独占的な財産であるがゆえに、こうした事態は人々の精神と道徳観に緊張をもたらした。時間に価格がつけられるなら、つまり時間の価値も数字で表現できるというなら、熱や速度や愛情といった分割できない諸々の不可量物も、数字で評価できるのだろうか?

計算貨幣

一部の金貨はかなりの期間にわたって、市当局が保証する価値を市場で維持した。こうして、新しい抽象的な価値の尺度が西ヨーロッパに出現した。(略)[だが安定した金貨でさえ変動する]このように、状況がきわめて流動的でありながら請求と支払いは行なわざるを得ないという事態に陥ったときに、西ヨーロッパ社会は抽象の世界に向かって、さらに大きな一歩を踏み出した。すなわち、彼らは計算上でのみ存在する「計算貨幣」という便利な貨幣の概念を発展させたのである。

卑しい地球が中心なわけないじゃない

「敬うべきモデル」が提示した宇宙像は、スコラ学者の中でも比較的自由な発想をする人々には、あまりに限定的で品位にも欠けるように思われた。地球はしょせん、人間の王たちがおのれの権益を守らんとする場所に過ぎないのに、どうして神が宇宙の中心に地球を据えたりするだろうか?さらに、安定した状態の方が運動している状態より高貴であるなら(このことは、「敬うべきモデル」では自明の真理とされていた)、なぜ、諸々の天体が回転して、卑しい存在とされている地球だけが静止しているのだろうか?

空間が均質で計測できるならば、人間の知性が及ぶ空間は拡張する。

コペルニクスの理論が暗に示した宇宙の本質をはばかることなく主張した最初の人物--少なくとも最初の著名な人物--は、ジョルダーノ・ブルーノである。彼はドミニコ会士として人生をスタートしたが、最期はローマで火刑に処せられた。ブルーノは宇宙には中心も周縁も、上も下もないと主張した。このことが、アリストテレス主義者、カトリック教徒、カルヴァン主義者をはじめ、無限という概念を生理的に忌避するすべての人々を憤慨させた。彼が提示した宇宙は均質で、無限で、無数の世界が存在する---なんと、けしからぬ宇宙像ではないか。

最後までいくと長くなりそうなので、明日に続ける。