はじめてのクロ

子供の寝顔はカワイイのに、
なぜ大人になるとそうではないのか。
大人の顔は意識で成立しているからだろうか。
老人の寝顔などは老残のひとこと。
死顔といえば殆どが棺の中のもので、
キレイな顔とは言えないものばかり。
夕刻、呼吸がはげしくなり時々もがいて声をあげた。
うわあこの調子で夜中うめかれたらどうしようと
薄情な感想を抱きつつ食事をとり再びのぞくと、
緑の目をぱっちりあけて、とてもカワイイ顔をしていた。
腹の辺りをみると動きがなかった。
保護したときからずっと禍々しい状態だったのに、
常套句がぴったりくる「やすらかな死顔」だった。
いやたぶん僕が薄情に食事をとっている間
ぜいぜいうぎゃうぎゃやっていたのだろうけど。
どうもいつも思いやりがなくてうっかりしているのだ。
そんなものは見てもしょうがないしさ。
もうプリンさえ飲み込めなくなったらオシマイで
だんだん呼吸が弱くなっていく
人間の手を握ってやってどうなるんだ。
そんな瞬間になんの意味があるんだ。
人間の場合はすぐに綿だのなんだの詰められて
ひどい顔になってしまうのだが、
臭い息を吐き続けた黒猫から何かが去って、
残ったのは初めて見るカワイイ顔だった。
少し枯れかかった法要の百合を切って箱に入れた。