通常ヴァージョン

あの法案が可決されて以来、[やまがた]の心安らぐ場所は
ジョン・レノンが思いっきり聴ける場所」だけになってしまった。
ビッグマザーの管理する「愛と平和のジョン・レノン」だけが
満ち溢れる豊かな文化空間。
輸入盤の消滅により、日本の音楽文化は壊滅状態になった。
バカ高な国内盤により消費者は気付いてしまった。
高々データが記入されただけのプラスチックの板切れと貧弱な紙切れに
高い金を払うことの馬鹿馬鹿しさを。当然の流れで、
CDはキャラクター商品につけられるオマケに成り下がった。
今ならミキ帝セットにオマケのCDが付いてくるYO。
豊かな文化であった「音楽」がオマケとは。
[やまがた]は唇をかみしめた。
みんな、「軽薄なおばかさん」がいけないのだ。
バカなアイツらが頭のいいオレの言うことを聞かないから
あんな法案が通ってしまったのだ。
今では金のない学生はネットに流通する素人音楽を聴いている。
レコード会社に相手にしてもらえない三流ミュージシャン達が
運営する「オンライン・ミュージシャン連合」のような
つまらない音楽を聴いている。
あんなゴミ同然の音楽しか若者が聴けないようでは
豊かな文化が失われてしまう。
輸入盤が溢れていた豊かな音楽文化を経験している
[やまがた]にはそんなゴミのような音楽は
「貧しい文化」としか思えなかった。
素敵なジョン・レノンを聴きながら[やまがた]は
山形浩生の『素敵な今日の一言』をひろげた。
「だれも独創性や鋭さ皆無の素人のうけうり感想なんかに興味ないのだ」
ああ、なんてもっとも意見だろう。
「ヘンじゃないか輸入権」こそネットでは知ることのできない
独創性や鋭さが満ち溢れている。
浅田彰、つまんねー。この程度のことなら言わなきゃいいのに」
[やまがた]はますます腹が立ってきた。
「軽薄なおばかさん」め。掲示板に書き逃げしやがって。
「うっとうしい。二度と来るな。見るだけで頭痛がする。失せろ。
なぜ厨がとみに増殖しておるのだ」
くやしかったら、まともに反論してみろ。
それともあの貧相な文化論deじゅうぶんだと。