俺は電車に乗ると異常な興奮を感じる。
人の首がずらりと並んでいるから。
よくふざけては人間移動展覧会と呼んでいた。
近代が人に与えてくれた特別な機会だ。
美術展覧会にある絵画彫刻の首と違って、
観られるためのものじゃない。
それぞれの生活にまみれている。
ロクでもない美術品の首よりも
俺はそんな生きた首が好きだ。
みんな自分の内臓を思わず露出して腰かけている。
政治家じゃリンカンの首がすばらしい。
生きている当人に会ってみたかったな。
近くじゃレエニンの首が無比だ。
奴に関する悪口を沢山きくけど、俺は信じない。
野心ばかりの奴にはない深さと美しさがある。
ナポレオンよりもいいぜ。
今の政治家は誰も知らないが、
中曽根と宮沢の首はこのあいだ切ってやった。
ははは、これは冗談だ。
電車の中であまり好い首の人に偶然逢うと
別れるのに心が残る。
思い切って話しかけようかと度々思う。
女なんかは一生に二十日間位しかないような
特に美しい期間がある。
それをむざむざと過させてしまうのが惜しかった。
ただそれだけだ。
これは先頃連続婦女首狩り事件を起こした漫画家
ピカ太郎(45歳)の独占告白記録である。
祖父・高村光太郎の昭和2年の随筆「人の首」
との類似性が一部で話題となったが、
『首が欲しい、てこでも動かないすわりのいい首』
というフレーズではじまる大正14年作の
「首狩」という詩について触れるものがなかった
昨今の文化状況を嘆く記者であった。