ユリイカ2003年2月総特集=松尾スズキ

15年前の本です。

ユリイカ2003年2月臨時増刊号 総特集=松尾スズキ

ユリイカ2003年2月臨時増刊号 総特集=松尾スズキ

  • 発売日: 2003/02/01
  • メディア: ムック

対談:役者の呼吸、演出家の意識
 

松尾スズキ野田秀樹

松尾 ちょこちょことまた僕らと違うテイストのものが出てきている感じがするんです。(略)ポツドールとか僕もまだ観てはないんですけどシベリア少女鉄道とかですね。僕らの方法論とは違っていて、かつ舞台でしかできないことをちゃんとやっているようなんです。
野田 違う方法論っていうのは?
松尾 たとえば、ドキュメンタリー的なものとか変な演出のやり方てすよね。
野田 それは平田オリザみたいなのとも違うの?
松尾 違いますね。聞いただけなんですけど、たとえば、役者にビデオを持たせて、各自家で演出家の見てないところで芝居をして、演出家がそのビデオを見て演出をつけていくということをやっているらしいですね。
野田 それはなんのために?
松尾 わからないですけど(笑)。僕らが出てきたときも上の人にとってはそういう感じ、なんかわからないものだったと思うんですよね。
野田 そうなんだよね。俺にしても、始まりはなんか変わったことをしてみようということだったから。高校生で芝居を始めたときも、客席でいきなり脱ぎだしたら面白い、何かが壊れるぞというのでやってみただけで、深い考えはなかったもの。
(略)
松尾 ただ、僕らはいまなんとなく稽古して、なにかを積み上げていって作品を作るということをしているわけだけど、そういうのとは違うやり方で作ろうとしている連中が出てきたのは面白い気がするんです。
野田 俺の時代と絶対に違うのは、そこで映像が入ってきていることだよね。そこにはなにか新しいものがあるかもしれない。とは言っても、いつも言っていることだけど、演劇ってそんなに変わらないとも思うんだよね。能とかにしても、みんな「現代劇と違う」と言うけれど、見ようによってはそんなに違っていることはしていないとも言える。単にスタイルの違いというだけで。逆に能があるんだから、そういう演劇が出てもいいかもとも言える。能の異常さはすごいからね(笑)。あんな前衛劇はないよ。だから、それと張り合うような実験的方法論を出してくるのはいいんじゃない。別に張り合おうとも思わないだろうけど(笑)。
松尾 それで言えば、最近までは実験しようという奴も全然出てきてなかったんですよね。
野田 まあ、いまの話をちょろっと聞いた限りだと寺山(修司)さんなんかを思い出すな。(略)
いま、若い人は寺山さんを知らないわけだから、知らずにそこに戻っているのかもしれない。寺山さんは演劇の人だったけれども、どちらかと言うとパフォーマンスの人だったわけで、いまの人たちもどちらかと言うとパフォーマンス的なところは強いだろうから、これからそういうのはどんどん出てくるだろうね。
(略)
松尾 実験をしなくなった期間が意外と長く続いたのは、たぶん僕らは寺山さんがやってきたことに関して冷めちゃっている部分があって、あんなことをやっても先がないなあ、とか思っていたんですね。裏を返せば、普通に思いつくようなことはみんなやられちゃったわけです。あと、寺山さんはお金あるからいいけど、他の人は大変だよな、とかつい考えてしまった(笑)。WAHAHA本舗なんかにしても、やっていることはけっこう寺山的ですよね。観客を取り込んじゃったりしてね。そういうことを一通りやられてしまったので、僕らは逆に舞台の向こう側、プロセニアムの中だけでやりましょう、ということだったと思うんです。つまり、僕らの場合、寺山さんを踏まえたうえでそうしていたわけで、だからこいつら変わっているというのがあったと思うんです。他にももちろん唐(十郎)さんも観ているし、野田さんのやってきたことも観てきているわけですしね。平田さんたちの「静かな演劇」というのもそのカウンターとして出てきたんだと思いますけど、いままた、しょせん演劇は騒がしいもんだろう、というのが出てきているような気がするんですね。
(略)
野田 松尾、一人芝居やったことないだろ。恥ずかしいよぉー(笑)。
松尾 スタッフがいてもいなくても恥ずかしいでしょうね。
野田 いや、いないほうがいい。あのときも家で一人でやってたら、けっこううまくいくんだよ。でも、スタッフの前でやると、とたんに恥ずかしくなるんだよね。
松尾 わかりますよ。なんか自分の自意識を全開にしたような感じになるんでしょ。
野田 すごいナルシストみたいになっちゃう(笑)。いやだよね。
松尾 それを考えるとちょっと勇気ないなあ。(略)
野田 でもお客の前では大丈夫だけどな。
松尾 イッセー(尾形)さんのように森田さんみたいな人がずっとついてくれるのならいいですけどね。やらされれているんだという言い訳ができるじゃない(笑)。演出もやっちゃうと、ただ自分がやりたいんですということにしかならないから。(略)
一人でやっていて、面白いんですか?
野田 俺は面白い経験だったな。
(略)
松尾 でも、新劇=華がないという感じに見えちゃうのも残念なんですよね。演劇を観てきた人間としては。
野田 むかし新劇が始まったときは、みんな華がある人が始めているんだよな。(略)
そのあとを追う人が間違えちゃうんだな。それはいつだってそうだけどさ。
松尾 この間、大滝秀治さんとCMの仕事をして、77歳なんですけど、民藝の稼ぎ頭らしいんですね(笑)。一番忙しいらしくて、大滝さんの下には二百人いるんですって。
野田 橋爪さんも円を背負っているらしい
松尾 大変だなあ(笑)。
野田 そこまでして守らなければいけない劇団っていうもの、何なのかしら(笑)。
松尾 二百人いると五年に一回しか舞台に立たない人もいるみたいですよ。
野田 四十近くで初舞台という人もいるよね。それも「あら、いらっしゃい」の一言とか。
松尾 それでノルマとかは毎回きっちりあるわけでしょ。大変だよー(笑)。
野田 でも、いまだに地方に行けば、新劇幻想があるんだろうね。高校の演劇部とか。
松尾 民藝は福岡で一万人動員するみたいですよ。すごくない?(笑)
(略)
野田 でも、最初にそうした芝居から入ると、芝居を嫌いになるよね。芝居と名の付くものを二度と観たいと思わなくなるでしょ(笑)。
松尾 面白いものもあるんでしょうが、ひどい地方巡演みたいなもので最初に芝居に触れた人はみんなギャフンとなると思いますね。僕もそのクチですから(笑)。東京に出てきてやっと芝居って面白いんだと思えた。

対談:ナンセンスというセンス
 

松尾スズキケラリーノ・サンドロヴィッチ

松尾 今年は『ニンゲン御破産』のあと、実は映画を撮る準備を始めようと思っていて、今日はすでに『一九八〇』をお撮りになられた映画の先輩にいろいろ訊きたいことがあるんですよ(笑)。
KERA まず誰もが言うことだと思うけど、スタッフ特にカメラマンと助監督は人間的に合う人を選んだほうがいいです。いや、別に今回合わなかったわけではないんだけど、もうちょっと僕がなにをやりたいのか知っていて、それに興味を持ってくれる人だともっとやり易かったかなと思った。転校生というかバイトの初日がずっと続くみたいなものだから、その辺で羽を伸ばせないまま中日くらいまでいっちゃったんだよね。僕はとりたてて映画のことを知っているわけではないし、そこでにわか勉強していくのもなんだなと思って、開き直ってわからないまま臨んだんです。芝居を始めたころ上手も下手もわからずにやってて、今思うと乱暴極まりなかったわけだけど、でもそのころにしかできなかったことってあったと思うんですよ。知らなかったからこそできたこと。映画もそこから始めようという姿勢でクランク・インした。何本か撮ったあとに振り返って、あのときだからこそできたんだなという勢いを残せればそれでオッケーと思ってたんだけど、そこでスタッフがものすごく歯止めをかけてくる(笑)。(略)
カット割りとか。「イマジナリー・ライン」、要するに目線が画面上でつながらないと駄目だというのがあって、そのつなぎは映画的におかしいですよということを言われるわけ。それは今や、半ば業界の中でも無視されていることだと思うんだけど、やっぱり残っていることは残っていて、できればやらないほうが、と言うわけね。それから、記録さんが怖い。桑田佳祐さんは『稲村ジェーン』を記録さんによって自分の映画じゃないようにされてしまったと言うよね(笑)。
松尾 意外な権力を持っていたりしますよね。
KERA 記録さんはみんな女性で、おばちゃんがやっているんだけど、彼女たちが各セクションに向かっていろいろなことを言う。映画畑ってセクションごとにヒエラルキーがあって、その内側には口を出せない。たとえば、撮影部の上下関係の間で言い合いがあって揉めていても、そこに僕がちょっと待ちなさいよと割って入ることはできない。演劇の場合、もう少しみんな眼差しが一つの方向に統一されている気がするんだけど、映画は本当に有象無象がいてばらばら。こいつ飯のことしか考えてないな、というのもいたりするし(笑)。その中で舵を取っていくのは一人だと本当に心細いよ。カメラマンとできれば記録さんは気心の知れる人を配したほうがいいよ。
松尾 うー、面倒くさいなあ(笑)。
KERA それから、編集があって、二時間に収めなきゃいけないところが、つなげてみたら二時間二〇分あったのね。じゃあ二〇分切らなきゃ、ということになって、編集マンとカットするポイントを出し合ったんだけど、これがまったく合わない(笑)。結局、無駄なところを削いでいくと、よくある普通の映画にしかならないと思ったから、僕はある程度無駄な感じを残したかったんだけど、それがけっこう揉めたね。押し切るまでに費やすエネルギーたるや……(笑)。もし、自分にすごく時間の余裕があれば、揉める過程も楽しめると思うんだけど、全然余裕のないところでやっているからただ苦痛でしかなかった。
(略)
KERA 松尾さんが撮ろうとしているのはどんななの?コメディ?
松尾 ラブコメ、かな。
(略)
KERA (略)[映画だと]微妙な間は全部ただの間延びになっちゃうのね。だから、すごく作為的に間を示すカット割りをして、かなり親切に作らないと、こういう間なんだ、という意図が伝わらない。ただ、映画って、編集である程度間の操作はできるし、ただぼーっと立っているだけの役者を撮ってもつなぎ方によっていかようにも感情をもっているかのように見せることができる。舞台よりずっとエフェクトしやすい。

KERA (略)たとえばブルースカイなんかは、要するにメタシアター的なことをやっていて、それが新しいかどうかはともかくとして、実験演劇というか、寺山修司がやっていたようなことをギャグにしたみたいなことをやっている。でも、実験だから、おのずと遠からず限界が来るのね。でも、彼らはそうやって段階を踏まえ場数を踏んでいくことで、いまその先々頑張っているという気がするのね。ナンセンスもそうだけど、構造的な実験で笑うということもやっぱり慣れてきちゃうじゃない?『天才バカボン』の後期のほうとか。最初のうちは実験していることそれ自体が爽快で笑っちゃったりするんだけど、だんだん形骸化してくるし、作り手もそれに気付いて違う方向のことをやり出していくよね。
松尾 そういう実験精神って若さと連繋していたりもするし。
KERA だから、あれ以降の赤塚不二夫にあれと同じことをやれって言っても、というところがある。
松尾 歳を取ってくると、やってもすぐ醒めちゃうんですよね。
KERA それで結局自分に嘘をついている気分になっちゃう。
松尾 それはしょうがないのかなー。慣れって怖いですよね。だから、僕ら以降に出てきた人で、おっと思うような才能のあるのはいるんだけど、キャパシティーが見えているという気もするんです。僕としては、その先が見たいんですね。

【座談会】
松尾さんとのビミョーな関係!?
 

宮藤官九郎荒川良々井口昇

宮藤 三人ともオーディション受けたとかいうかたちではないから、松尾さんとの関係がビミョーなんですよね。僕も松尾さんから呼び捨てにされたのってけっこう後になってからだったし。(略)その頃にいた他の人はだいたい呼び捨てだったから
(略)
宮藤 三人ともきついダメ出しをされたことないんじゃない?
井口 僕はありますよ。
宮藤 えー、ホント? 井口さんがきついと思っているだけじゃなくて? 見たことないよー(笑)。
荒川 僕も見たことない(笑)。
井口 ありますよ。だって、舌打ちされたもん、一回。それと阿部くんが喋ったセリフを僕が言ったのと間違えて、「井口くん、いまのセリフ、カットしよう」と言われたことがある。(略)
宮藤 それは相当松尾さん疲れてるよね。
荒川 なにか違うことを考えていたんですよ(笑)。
宮藤 あまりきついダメ出しをされていないというのは、ここにいる三人に関しては、松尾さんあまり育てようという意識がないのかも。
(略)
いま井口さんはひそかにダメ出しされていたというのを聞いて、ちょっとショックだな(笑)。
荒川 僕も舌打ちはないですからね。
宮藤 「うわー、下手だね」って言われたことはあるけど(笑)。
荒川 僕は「うまくなるな」って言われましたね。馬鹿の役が多かったんで、セリフが入ってきて、すらすら言えるようになると、「もうちょっとそこ下手に言って」とか(笑)。(略)
宮藤 やっぱり育てようという気がないのかなあ。こっちに育つ意志がないのかもしれないけど(笑)。
井口 松尾さんの中で、いろいろな種類があるんじゃないですか。AVで言えば、企画と単体とか(笑)
宮藤 (爆笑)僕らは単体じゃなくて、明らかに企画のほうで、「面接シリーズ」とかに来るキャラクター重視の子みたいなもんかあ。
(略)
荒川 僕はあまり松尾さんと一緒になる機会がないんですけど、なった時に話すのはゲームの話とかかなあ。「『鉄騎』買ったから事務所にやりに来いよ」とか言われるんですけど、でも、松尾さんと二人だけでゲームやるのもちょっとなあ……(笑)。
宮藤 帰りづらいよね(笑)。
荒川 『突入せよ!』という映画に出た時に(略)[ホテルに]村杉さんと一緒に行ったら、松尾さん誕生日だったらしくて、「俺、今日誕生日なんだよ。でも、柿ピーしか食ってないよ」ってぼやいてて、その時初めて松尾さんと話した気がしましたね。
(略)
宮藤 (略)この間、正月にBLITZでライブやった時に、出てほしいなと思ってネタまで書いたんです。でも、よく考えたら、時間ないし、松尾さんは『ニンゲン御破産』で疲れているだろうと思って、僕は僕で気を使って、松尾さん今回はちょっといいですわと言ったんですね。そうしたら、元旦にメールが来て、俺は本当は出たかったんだよ、と(笑)。アドレス教えてからうちにメールが来たの、たしかその時が初めてでしたからね(笑)。そういうことは言わねえんだ、と思って、逆に僕もものすごく「アーッ」ってなった(笑)。もう十年以上も付き合っているのに面と向かってそういう話できないんですよね(笑)。
 逆のケースもあって、松尾さんがどこかでイヴェントやるという時に、俺のスケジュールが空いてないだろうと松尾さんも気を使っているから呼ばれてないと思うんですけど、やっぱり1%くらいは、俺なんにも言われなかったなあ、と思いますよね(笑)。なんかその辺のことを素直に言いづらい関係(笑)。それが長続きの秘訣かもしれないけど。そう言えば、一番最初に一番大事な話をしたような気がする(笑)。村松(利史)さんのやっていたプロデュース公演の手伝いをしていた時に、スタッフとしてマネキンに色を塗る仕事をしていたんですけど、松尾さんが後ろから来て「君はなにがやりたいの」って訊かれた。その公演で松尾さんが台本を書いていてそれがすごく面白くていいなあと思ってたんだけど、学生だったし照れもあって「別になにもやりたくないです」ってすごい素っ気ない返事をしたらしいんですね(笑)。「書きたいのか」とすごく訊かれて「書きたいと思ってますけど」と言った気はするんだけど、そう言えばそれ以降そんな話をしたことがない(笑)。
(略)
井口 僕もあまりプライヴェートの話はしたことないですね。ホントに当たり障りのない会話しかしない。
(略)
この間大人計画の某女優さんが、わたし松尾さんともう十年くらいの付き合いになるけど、まだトータルで五言くらいしか会話したことないって言ってました(笑)。松尾さんと腹を割って話した劇団員の人ってだれかいるんですか?
宮藤 松尾さんが心を許して話すような人?いるかなあ(笑)。
荒川 誕生日の時は、ちょっと心が開いている気がしましたけど。
宮藤 そうかなあ?(笑)「柿ピーしか食ってないよ」っていうのは別に心を開いてないんじゃん?劇団員の中だと池津(祥子)さんとか猫背(椿)さんとかになるのかな。どっちかと言うと、女の人だよね。移動とか楽屋でよく一緒になるのは僕ですけどね。
(略)
荒川 あ、でも、いま思い出しましたけど、僕、「ラフカット」の公演の打ち上げで、松尾さんと一緒にカラオケに行ったことありますよ。(略)
宮藤 それはすげえカミングアウトだね(笑)。今日出てきた話の中で、親密度で言えば一番すごいんじゃん?
荒川 そのあと急激に離れていきましたけど(笑)。
宮藤 でも、俺も二人っきりで待ち合わせして映画観に行ったことがある。
荒川 なに観たんですか?
官藤 イワモトケンチの『菊池』(笑)。「観に行こうよ」って言われて「いいっすよ」って、二人でパルコパート3で観て、「飲み行こうよ」「いいっすよ」って二人で飲んだ。
荒川 プリクラは二人じゃなかったなあ(笑)。女の子が三人くらいいて、五人くらいで撮りましたね。
官藤 じゃあ、俺のほうがポイント高いな(笑)。

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